火星歴元年 1
火星への移民の募集が、全世界に向けて始まる。
テレビは、この出来事の原因となった、様々な環境保護団体に対してインタビューを行なう。
地球環境の保全の為、彼らは進んで火星に移住するだろう。そう思っていたが、僕の考えと現実は大きく違っていた。
「あの
「検討中です、善処します」
「地球に願いを続けている私どもの団体が、地球に留まり続ける事が、最も地球環境に良い事なのです」
はぐらかせたり、意味不明の答えをしたりして、結局、移住をする団体は出てこなかった。
何日か経つと、火星への移住を呼びかける政府CMを見るようになった。
どうやらあまり人が集まっていないらしい。
宇宙人による、これまでの改善政策のおかげで、地球はだいぶ住みやすくなった点が多い。
監視システムにより、全ての犯罪が筒抜けになり、全世界で治安が大きく向上した。
仕事は6時間労働になり、違法な労働を強いる会社は、次々と潰れた。
ベーシックインカムが実施され、働かなくても最低限の生活は保障されている。
安定した生活が地球に用意されているので、わざわざ火星に住もうという、変わり者は少ないだろう。
ある日の夜。姉ちゃんが酔っ払って帰ってきた。
「火星への移住、全然、人が集まらないわ、12万人募集したけど、2万人も集まらない。はぁ……」
酒臭いため息をつき、僕に愚痴を言う。
「やっぱり、移住となると厳しいんじゃない? 今後の人生が大きく変わるんだし」
「そんな大げさに考えなくても良いんだけどね、嫌だったら元にいた場所に帰れば良いだけなんだけど」
「でも、引っ越しとかもあるでしょ。僕らはちょっとだけ火星に行ったけど、普通の人はどんな所か、全く想像も付かないと思うよ」
「プロに依頼して、ちゃんと火星の住宅のチラシは作ったんだけどね、あまり良い反応は無いのよ」
「どんなチラシ?」
「コレよ」
そう言って、姉ちゃんは鞄からチラシを出してくる。
チラシには、大きな文字で、こう書いてあった。
『人類は次なる
「…………なにこれ?」
「火星の移民の募集のチラシだけど?」
「こんな意味不明の文章で、人が来る訳が無いじゃない」
「いやいや、ちゃんとプロの不動産のチラシを作っている所に頼んだのよ。不動産業界だと、こういうのが今の流行みたい」
「そんなの絶対に嘘でしょ」
「本当だって。信じられないのなら、ちょっとネットで調べて見てよ『ポエム』とか『マンション』とかいった言葉を並べると出てくるから」
「そんな嘘に、僕が騙されるとでも思ってるの?」
そう言いながら、念の為、スマフォで調べる。姉ちゃんはかなり悪酔いしているらしい。
スマフォでこの件に関して調べると、『マンションポエム』という名前で多くの特集記事が見つかった。
初めは姉ちゃんが作ったダミーの記事かと思ったが、中身はちゃんと実在したチラシの事を書いてあるようだ。
試しにいくつかの広告文章を覗いて見る。
『新世界』『魔法』『聖域』『小宇宙』
不動産とは程遠い単語が次々と出てくる。
「…………」
あまりの出来事に、僕は言葉を無くしていると、姉ちゃんが僕の顔を覗き込みながら言う。
「ほら、あったでしょ。さっきのチラシの文章も、いくつか提案された文章の中で、まだマシなのを選んだんだからね。『神話という名の伝説が、ここより始まる』とか、もっと意味が分らないヤツもあったんだから」
「これは、宇宙人の悪影響じゃない? まともじゃないよ?」
「それがそうじゃないのよ。その記事の日付を見て、このブームはかなり昔からあるみたいなの」
記事の日付を見てみると、確かに古い。それは宇宙人が来る前の日付だった。
僕が姉ちゃんの持ってきたチラシを見ながら言う。
「うーん。でも、この文章だと怪しくて、移民しようとする人は来ないんじゃないかな?」
「それならどうしたら良いと思う?」
「火星の施設の方はどうなの?」
「かなり洗練された都市って感じね。ちょっとした未来都市だわ」
「それなら、それをアピールすれば良いんじゃない? 見学とかしてもらえば、解ってもらえるでしょ」
「……なるほど、見学かぁ。そうね、一日くらい、火星の暮らしを体験してもらうのも良いかもね」
「そうだね。それが良いと思うよ」
僕が解決のヒントを示すと、姉ちゃんが早速、動き出す。
タブレットの端末をイジりながら、どこかへ電話をかける。
そして、しばらくすると、電話を切り、僕にこう言った。
「おおよそのプランが決まったわ。弟ちゃんも火星の暮らしを試しに経験してみない? 『一泊、暮らし方は一般国民と同じ、体験者にはおみやげ付き』っていうプランを作ったわ。お友達もどう?」
「まあ、一泊くらいなら別にいいと思うよ。ちょっとみんなにも声を掛けてみるね」
「わかったわ。予定が決まったら教えてね」
こうして、僕たちは火星の暮らしを体験する事になった。
火星の一般国民は、どのような暮らしを送るのだろうか?
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