薬物依存者
みんなで、メェクドナルドゥでランチを食べていると、ミサキの目の前に警告のメッセージが現われた。
『健康状態に異常がみられます。メッセージの詳細を確認して下さい』
キングがスマフォを確認しながら言う。
「そういえば、今日は健康状態のスキャンの日だったな」
宇宙人が健康状態をチェックすると宣言してから、週に一度、定期検診が必ず行なわれるようになった。
この定期検診があるおかげで、あらゆる病気が早期の段階で見つかる。
おかげで病状が深刻な状態になるような事態は、ほとんど起こらなくなっていた。
ヤン太がちょっと冷やかしながら言う。
「どうせ食い過ぎとかじゃねーのか?」
「そんなに食べてないわよ!」
そう言いながら、Lサイズのフライドポテトの3つ目に手を出す。
今週はフライドポテトの全サイズ150円キャンペーン中なので、ミサキはLポテトを追加でいくつも頼んでいた。
この宇宙人の健康状態のスキャン、とても正確なのだが、ちょっと大げさな事が多い。
この間、僕は『頭部に
何か重い病気にかかったかと思ったのだが、病名をネットで調べて見ると、どうやら『ニキビ』の事を示すらしい。
鏡で確認すると、確かにおでこに一つニキビが出来ていたのだが、この警告の出し方はあまりにも酷い。もう少し病名を告げられる身になって欲しい。
ポテトを山のように口に放り込むミサキを見て、ジミ子があきれながら言う。
「飛行船であれだけ食べたんだから、どこか具合がわるくなったんじゃないの?」
「まあ、言われてみればそうね、ちょっと食べ過ぎたかもね? 『プレアデススクリーン・オン』」
そう言いながらミサキは病状の詳細を確認する。
どうせ今回も大した事はないだろう。そう思いながらミサキがプレアデススクリーンを操作しているのを横から覗いていた。
すると、スクリーンにはこんな病名が表示された。
『薬物依存者。あなたは薬物に依存しています。薬物依存の治療施設、もしくは更生施設か、最寄りのプレアデスの治療施設に相談して下さい』
「「「ええ!」」」
みんなは驚きの声を上げる。
「お前、ヤバい薬に手を出していたのかよ……」
ヤン太が深刻な顔で言うと、ミサキは激しく反論する。
「そんな訳ないじゃない! 何かの間違いよ!」
「宇宙人の機械はミスしないでしょ」
ジミ子が問い詰めると、珍しくミサキが論理的な反論をした。
「非合法の薬なんて買ったこと無いわ。アレって値段がすごく高いんでしょ。私は日々の食費だけで精一杯だわ!」
「まあ、それもそうね。何かの間違いかもしれないわね……」
完璧な反論だったので、ジミ子も納得せざるを得ない。
確かにミサキにお金の余裕は全くないハズだ。これは宇宙人の機械の測定ミスなのだろうか?
「ちょっと姉ちゃんに確認してみるよ」
僕は姉ちゃんにLnieでメッセージを送る。
『ミサキが健康状態のスキャンで、薬物依存者って診断されたんだけど、これはどうなってるの?』
『ちょっと待ってね。確認してみるわ…… ああ、まあ、そうね、大した事はないわね。14時30分からスケジュールが空いているから、そこで詳しい説明をする?』
『お願い、話を聞かせて』
『分ったわ。会社で待ってるわね』
僕はこの事をミサキに伝える。
「一応、間違いはないみたいだけど、大した事はないって。これから会社で姉ちゃんが詳しい説明をしてくれるってさ」
「本当? 大した事ないなら、大丈夫なのかな……」
「まあ、宇宙人のメッセージは大げさだからな。あまり気にしなくても良いかもな」
ヤン太がちょっと励ます。
「そ、そうね。たぶん大丈夫よね」
ミサキは明るい顔を取り戻し、再びフライドポテトをパクパクと食べ始めた。
僕らは約束の時間に姉ちゃんの会社に着いた。
ロボットに案内され、会議室へと入ると、姉ちゃんが待っていた。
薬物依存者と判定されたミサキが、おそるおそる姉ちゃんに聞く。
「あの…… 私は薬物に手を出していないのですが、なぜこんな結果に……」
「ミサキちゃん、最近、多用している薬があるでしょう?」
「えっ、違法な薬物なんて絶対に使っていませんよ!」
「違法じゃなくて、合法のヤツだとどうかしら? 何か思い当たる薬はない?」
「ええと…… あっ、
「そう。その薬を使いすぎているの」
「なんだぁ、心配して損した」
安心をするミサキ。
確かに最近、ミサキはこの薬を多用している。大食いをする前には必ず使って居た。
今日もLサイズのフライドポテトをいくつも食べていたが、一つあたり517キロカロリーもある。これらをそのまま食べていたら、かなり体重が増えていただろう。
「大した事なくてよかったな」「安心したぜ」「そうね、よかったわね」
みんなも安心したようだが、姉ちゃんは渋い顔をしたままだ。何かマズい事があるのだろうか?
「姉ちゃん、ミサキは大丈夫なんだよね?」
「このままだと、ちょっと良くないわね。内臓にかなり負担をかけているから、このままだと成人病にまっしぐらよ」
「……そんな、なんとかなりませんか」
ミサキが姉ちゃんに泣きつく。すると、姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべながら答える。
「大丈夫よ。私に任せてもらえば、すぐに直るわ」
「よかったぁ、お願いします」
再び安心をするミサキ。
姉ちゃんに任せるのは不安があるが、何とかなると信じたい。
「これから言う二つの事を必ず守ってね」
姉ちゃんはホワイトボードの前に立ち、要点を書き出す。
『ひとつめ、
「えっ、使っちゃダメなんですか?」
ミサキが驚いた様子で質問をする。
「そうね。この薬を使うと、いくら食べていても摂取するカロリーが制限されるじゃない。過剰に食べてもあまりカロリーが入ってこない訳だから、そこが問題なのよね」
「どうしてです?」
「カロリーが多めに必要な時に、この薬を使うと、多めに食べたとしても、あまりカロリーが入ってこない。すると、脳が『もっとカロリーを摂取するには、もっともっと食事をしなければならない』と、勘違いするわけ。で、更に多く食べるんだけど、やはりカロリーはあまり得られない。で更に多く食べるようになると」
確かに姉ちゃんの言うとおりだ。ミサキの食事の量は徐々に増えて行った気がする。
姉ちゃんは図を描きながら説明を続ける。
「ミサキちゃんは、この負のループに陥ってしまったの。だから、食べた分だけカロリーを摂取できる状態に戻さなければならないわ」
「な、なるほど。たしかにそうですね」
ミサキが納得すると、姉ちゃんは再びホワイトボードに項目を描き加える。
『ふたつめ、宇宙人の作ったダイエット薬の禁止』
「えええぇ~、それも禁止ですか?」
「そう。カロリーが得られても、それがちゃんと体に反映されなければ、やはり脳は摂取できてないのと同じと判断するわ。だから食べたら食べた分、体に貯える。痩せたければ運動をするか、食事制限をする。宇宙人が来る前はそうだったでしょ?」
「ええ、まあ、そうでしたね……」
ミサキが遠い目をしながら答えた。
確かに姉ちゃんの言う事はもっともだが、食欲の歯止めが効かないミサキがこの二つをやると、ものすごく太ってしまいそうだ。
食事がかなり制限され、魂の抜けたようになっているミサキに、姉ちゃんが声を掛ける。
「大丈夫よ、そんなに心配しなくても。他の薬を使う事によって、お腹いっぱい食べれるようになるから」
「本当ですか? やった!」
ミサキの目に輝きが戻る。
「この薬なんだけど、飲むと脳の満腹中枢を刺激して、あっという間にお腹いっぱいになるの。食事をしていて、どうしても満腹感が足りない時に服用してね」
「ありがとうございます」
ミサキの受け取った薬のラベルには『オナカ・フクレール』という、いかにも姉ちゃんのつけそうな名前が書いてあった。名前はダサいが、おそらく宇宙人の作った薬だろう、効果は間違いないはずだ。
「「「ありがとうございました」」」
とりあえず問題が解決したので、僕らはお礼を行って姉ちゃんの会社を出る。
次の移動先に向う途中、スーパーの駐車場に鯛焼きの移動販売車が出ていた。真っ先にそちらへ向うミサキ。そして、いつもなら袋一杯に鯛焼きを買う所だが、ミサキは、なんと鯛焼きを一個しか買わなかった。
「それで足りるの?」
ジミ子が言うと、ミサキは薬を飲んでから答える。
「さっそく、試してみましょう」
「あれ、その薬って、飲むのは食後じゃなかったっけ?」
僕が服用の仕方を注意すると、ミサキは薬の注意書きを読みながら答える。
「そうだったっけ? あ、食後って書いてある。 ……あれ、もうお腹いっぱいだ」
さすがは宇宙人の作った薬。一口も食べる事なく、ミサキを満腹状態に
「お腹いっぱいだけど、甘い物は別腹よ。これは食べちゃいましょう」
そう言って、あっという間に鯛焼きを平らげるミサキ。
満腹だというのに、あっけなく食べきってしまった。
体の状態を無視して食事をするミサキの精神力は、もしかするとかなり凄いのかもしれない。
この後、ミサキは食事に関して、だいぶ気をつけるようになった。
以前と比べ、だいたい1.5人前くらいの、かなりの小食に抑え込む事に成功したようだ。
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