バイトと水族館 2

 新しくオープンするレジャー施設を体験するはずだったが、僕らが連れてこられたのは古くさい水族館だった。


「姉ちゃん、この水族館の場所で合ってるの?」


 僕が確認すると、姉ちゃんは自信を持って答える。


「合ってるわよ。じゃあ行きましょうか」



 姉ちゃんはチケット売り場に歩いて行き、ガラス越しに売り子さんとやり取りをする。


「ええと、高校生は大人料金ですかね?」


「そうですね。大人です。一人500円になります」


「では、6人でお願いします」


 お金を差し出し、チケットをもらうとみんなに配る。

 チケット売り場もかなり歴史を感じる。受付のお姉さんが、手動でやっていた。

 あまり水族館に来ないが、自動券売機などはないのだろうか?


 水族館の入り口でチケットを出すと、僕らは中に入る。



 水族館の中はもちろん水槽が並んで居るのだが、あまり広くはない。

 1メートルくらいの水槽が15個くらい。

 3メートルくらいの水槽が5個くらい。

 5メートルくらいの大型の水槽が3個くらい。

 他には家庭用で使われるような水槽と、子供用のプールくらいの、ちょっとしたがあるくらいだ。


 狭いのは外から見てある程度は予想がついたのだが、僕の想像以下だった事がある。それはお客さんが見当たらない事だ。

 ある程度は空いているとは思っていたが、今は夏休みの最中なので、それなりに人は居るはずだと思っていたが、まさか一人も居ないとは……


「姉ちゃん、誰も居ないね……」


「そうね。『一時期は閉館を考えた』とは聞いていたけど、ここまでとは思わなかったわ。まあ、とりあえず見てみましょう」


 僕らは順路に従って水族館を見て回る。



「ここら辺は、普通の川魚だな」


 ヤン太が水槽をチラリと見る。珍しくも無い川魚の水槽がいくつか展示されていた。

 僕らはあまり見ず、そのまま通りすぎる。


「大きな魚がいるわね。海外のナマズの仲間らしいわ」


 ジミ子が水槽を覗き込む。体長1メートルを超える珍しいナマズの種類だが、ナマズなので、あまり綺麗とは言えない。そして、ほとんど動かない。

 僕らは少し立ち止まったものの、再び歩き出す。


「タカアシガニですって。あの長い足、美味しそうね」


 ミサキが巨大カニの水槽にへばりつくように覗き込む。足だけで1メートルくらいありそうだ。

 僕らはチラッと見ただけで、次の水槽へと移動しようとするが、ミサキは石のように動かない。


 すると、キングがスマフォで何かを調べてこう行った。


「タカアシガニの相場は1キロあたり7000円だってさ。そのカニのサイズだと10キロを超えるらしい。食べるなら7万円オーバーだぜ」


「……さすがに無理だわ」


 ミサキはようやくあきらめて、次の水槽へと移る。



 途中、熱帯魚の水槽の前で立ち止まって、何枚か写真を撮ったけど、僕らは10分もしないうちに水族館の中を見終わってしまった。


「もう終わりか?」


 ヤン太がそう言うと、姉ちゃんが周りを見回しながら、こう言った。


「確かアシカのショーがあるはずよ。ええと…… あっ、あそこに看板があるわね」


 看板の矢印に沿って 僕らは水族館の外に出た。



 水族館の外に出ると、アシカショーの最中だった。

 あまり広くない空間だったが、およそ50人くらいの人で混雑をしている。

 最前列には小学生の小さな子が食い入るように見て、「キャッキャ」と声援を上げていた。

 ベンチは満席で空席は見えない。座る場所がすでにないので、僕らはこのショーを最後尾から立ち見をする。


 今まで人が居なかったのは、ここに人が集まっていたからだろう。僕はちょっと安心する。これだけ人が来ていれば、この水族館は、なんとか存続そんぞくして行けそうだ。



 ショーは飼育員さんが軽快なトークでアシカとコントを繰り広げている。


「はい、それではバスケットのシュートをしますね。上手く行ったら拍手を下さい」


 アシカは鼻先でバスケットボールを操り、シュートをした。

 しかし、ボールはわずかに外れてしまう。


 すると、飼育員さんがボールのリバウンドを受け取り、ダンクシュートを決めた。


「はい、見事にシュートが決まりました! 拍手と歓声をお願いします!」


 「ワァー」っと、拍手と歓声が上がる。

 アシカではなく、飼育員さんがゴールを決めたが、子供達は大はしゃぎだ。



「面白いショーみたいね。次はどんな事をするのかしら」


 ミサキが見を乗り出してアシカショーを見ようとすると。


「はい、ありがとうございました。それではまた来てね。バイバイー」


 飼育員さんが手を振り、アシカも激しく手びれを振るう。

 子供達はそれをみて、同じく激しく手を振った。


 そしてアシカと飼育員さんは、後ろの控え室へと帰って行く。


「どうやら終わりみたいね」


 ジミ子がつぶやく様に言った。



「そんなぁ~、もっとちゃんと見たかった」


 ちょっと泣き出しそうな顔をするミサキに、僕が言い聞かせるように言う。


「まあまあ、次回のショーを見れば良いんじゃないかな」


「それもそうね。次のショーを見ましょう。次はいつかしら」


 周りを見渡すと、予定表がある。それをキングが読み上げる。


「ええと、次のショーは2時間後みたいだな……」


「えっ、そんなに待つの」


 愕然がくぜんとするミサキ。


 普通の大きな水族館なら、他の展示物を見て時間を過ごせるが、この小さな水族館ではそれはキツイ。

 10分ほどで見飽きてしまった展示物を、また2時間掛けてみるのは、かなり苦痛だろう。



 アシカショーをちゃんと見たお客さん達は、満足した様子で水族館の中へと帰って行く。

 一方、呆然ぼうぜんと立ち尽くす僕ら。


 しばらく突っ立っていると、年配ねんぱいの方が僕らの方へとやって来た。


「どうかしましたか? 何かありました? おっ、これはプレアデス星団グループ会社の副会長の笹吹ささぶきアヤカ様、いらしていたんですか?」


「ええ館長。ちょっと様子を見にきました」


 笑顔で受け答えをする姉ちゃん。どうやらこの年配の人は館長で、顔見知りらしい。


「どうです、うちのアシカショーは?」


 おそらく、この水族館の最大の『売り』をアピールする館長。


「ごめんなさい、最後の方のちょっとしか見れなかったの。次のショーの時、をちゃんと見させてもらいますね」


 本当の事を言って、申し訳なさそうに謝る姉ちゃん。

 そして、次のショーを見ると言っていたが、それは2時間後だ。それまで時間をどうやって潰すのだろう?

 いったん帰るのだろうか、それともまさか、この水族館で過ごすのだろうか……



「ところで、設置場所は決めていただけましたか?」


 姉ちゃんが小声で館長に話しかける。


「ええ、人の流れを考えて、この場所にしようかと考えて居ます」


 そういって、僕らは少し大きな何も展示されていない倉庫のような部屋に案内された。

 部屋を見渡し、何やらうなずく姉ちゃん。


「良いですね、プロジェクト『入場料プラス300円計画』には、ふさわしい場所です」


 この水族館を建て直す、何らかのプロジェクトがあるようだ。

 おそらく、宇宙人の技術を使うのだろうが……


 ……しかし、プロジェクト名が致命的にダサすぎる。姉ちゃんのセンスは、どうにかならないだろうか。

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