バイトと水族館 1

 スポーツのレジャー施設でさんざん遊び、いつもより遅く帰ってくると、リビングのソファーで姉ちゃんが小瓶のビールを飲んでいた。


 あまり姉ちゃんには頼りたくは無いが、他に方法が思いつかない。

 何か良いバイトがないか、姉ちゃんに聞いてみる。


「姉ちゃんちょっと良い? ミサキがお金が無くて、みんなと一緒にできる短期のバイトとかないかな?」


 そう言うと、姉ちゃんはニヤリと笑いこう言った。


「ミサキちゃんの為にバイト探しかぁ~。そういう事なら、ロボット派遣会社のCEO、プレアデス星団グループの副会長のお姉ちゃんに任せなさい」


「えっ、『プレアデス星団グループ会社』の副会長もやってるの?」


「そうよ。日本国内だと62万企業が参加している大グループよ。その気になればどこだって紹介してあげれると思うわ」


 僕の知らないうちに姉ちゃんの肩書きがまた一つ増えていた。

 あまり姉ちゃんに権限を持たせると、ろくな事にならない気がするのだが……



 何やら嫌な予感もするが、僕は姉ちゃんにお願いする。


「ミサキにも出来る簡単なバイトは無いかな?」


「ミサキちゃんかぁ…… でも、肉体労働とかキツいバイトは嫌よね?」


「うん、僕たちも同じバイトをする事になると思うから、それはできれば避ける方向で」


「うーん…… おっ、そういえば、ちょうど良いのがあったわ。とびきり楽なヤツ」


「どんなバイトなの?」


「今度、新しくオープンするレジャー施設を体験してもらって、それのアンケートとか感想を書いて貰うヤツよ。夏休み中に間に合わせる予定で、出来るだけ早い方がいいんだけど、他の人の予定はどう?」


「明日、集まって遊ぶ予定だったから、それを変更すれば大丈夫かな?」


「ちょっと確認してみて。予定が取れたら明日の朝10時までにうちの会社の前に集合で良いかな」


「分かった。ちょっと聞いてみるね」


 僕はLnieでみんなに連絡を取る。すると、みんなOKしてくれた。

 姉ちゃんに報告をする。


「大丈夫みたい」


「わかったわ。じゃあ明日の10時によろしくね」


 こうして僕達は『とびきり楽』というバイトを引き受けた。



 翌日になり、僕達は姉ちゃんの会社の前に集まった。


 僕の顔をみながら、ヤン太が質問をしてくる。


「そういえば今日はどこに行くんだ?」


「ええと、ごめん。新しくオープンするレジャー施設としか聞いてなかった」


「レジャー施設だけだと流石に分からないな。どんな所へいくんだろう?」


 ヤン太がそう言うと、ミサキがこんな事を言う。


「やっぱりレジャー施設というと遊園地でしょ」



 姉ちゃんをしたっているジミ子が目を輝かせながら言う。


「きっとお姉さんの作る施設だから素晴らしいに違いないわ」


 するとキングがスマフォを見せながら説明する。


「遊園地っていうと乗り物が凄いタイプと、キャラクターに頼るタイプがあるけど、どっちだろ?」


「やっぱ乗り物じゃないか。宇宙人の作ったジェットコースターとか面白そうだな。そう思うだろジミ子」


 ヤン太が絶叫ぜっきょうアトラクションに弱いジミ子に、わざと話しを振る。するとジミ子はこんな反論をした。


「キャラクターがメインの遊園地かもしれないじゃない」


「キャラクターって何かあったけ?」


 僕が疑問を口にする、するとジミ子は微妙な顔をしながら答える。


「えーと、宇宙人とかかな……」


「キャラクターパレードとかどうするんだよ」


 ヤン太が突っ込んだ。


「登場人物を全員、宇宙人にすればいいじゃない」


 ジミ子がちょっとキレ気味に答える。

 ここで僕は想像してしまった、キャラクターパレードで延々と続く、フラッドウッズ・モンスターの行列を。

 着ぐるみ用に多少はデフォルメしたとしても、あの不気味さはどうしようもない。



 僕が独り言のようにつぶやく。


「登場人物が全部、宇宙人か……」


 すると、みんな想像してしまったらしく、大きなため息をついた。



 馬鹿な話しをしていたら、姉ちゃんがやって来た。


「おはようみんな。どうやらそろってるみたいね」


 姉ちゃんの顔をみるなり質問をぶつけるジミ子。


「おはようございます。今日はどういった施設に行くのでしょうか?」


「あれ、言ってなかったっけ? ごく普通の水族館よ。さあ行きましょうか」


 姉ちゃんに連れられて会社の中へと移動をする。

 そして、いつものどこだってドアをくぐり抜ける。


 姉ちゃんは『普通の水族館』と言っていたが、どんなものが飛び出してくるか分からない。

 未知の水族館という、想像もできないような施設に身構えていたが、ドアをくぐり抜けた先は、何てことのない普通の水族館だった。


 しかし、新しくオープンする施設と聞いていたが、ずいぶん古い建物だ。

 そして水族館は普通に営業を行なっていて、お客さんの姿も見える。

 建物は体育館ほどの大きさしかなく、水族館としては、けして大きいとは言えないだろう。


「姉ちゃん、この水族館の場所で合ってるの?」


「合ってるわよ。じゃあ行きましょうか」


 どうやら僕らは、何の変哲へんてつも無い水族館を見学するようだ。

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