ガロアの夜明け 2
テレビ
番組は、どこかの地方都市から始まる。
駐車場に止まっている車からネクタイ姿の人が出てきて、その人物に番組のディレクターとみられる人が近寄っていく。そして、会社員らしき人にマイクを差し出し、インタビューが始まった。
「お話、少し良いですか?『プレアデス星団グループ』に入って、何か変わりましたか?」
すると、会社員とみられる人物は、ニコニコと笑顔で答えた。
「ええ、だいぶ変わりました。我が社はコピー機とファックスの営業とメンテナンスをしているのですが、営業のノルマが無くなりました。
この業界、はっきり言いますと、
なるほど、売れにくい物を扱う営業の人は大変そうだ。
しかし今は穏やかな笑顔を浮かべている。かなり楽になったのだろう。
ディレクターは次の質問を投げる。
「労働時間はどうなりました?」
「今までは、一日の労働時間がおよそ11時間ほど。うちわけは、営業が6割、お客様のメンテナンスなどが4割ほどでした。今はメンテナンスだけなので6時間労働でも
「それで会社の経営は大丈夫でしょうか?」
「取り扱い件数で言うと、微増ですね、増えてます。同じグループ会社の取り扱いが増えました。
仕入れもグループ会社経由で行えるようになったので、経費もだいぶ安く抑えれれるようになりましたね」
「良い事だらけですね。グループ会社に入った事で、何か問題は起こったりしていますか?」
「実はちょっと…… 経営陣のぶつかり合いが出るようになってしまって……」
「それは共同経営者の話しですね、まさか宇宙人が
「いえ、宇宙人は来てませんが、代理でロボットが派遣されて来ました。
この代理のロボットがとても優秀で、宇宙人のメインコンピュータと直結していて、優れたAIの思考で、常にベストな指示を出してくれます」
「それは
「なにかと社長と意見が対立するんですよ。『俺の手順の方が正しい』とか、『そのやり方は心がこもっていない』とか、社長は常に文句を言うようになりました。まあ、ロボットの方が
「なるほど、わかりました。これからお仕事を頑張って下さい」
「はい、それでは」
インタビューが終わり、ネクタイの人は車から離れ、会社の中へと入っていった。
テレビは次のシーンに移り、番組のナレーターが解説をする。
「とある地方のオフィス機器のリースの会社が『プレアデス星団グループ』に加入しました。仕事も増え、労働時間も減り、
テレビの画質が急に悪くなる。手ブレが酷く、極端に細長い画面になったので、おそらくスマフォで撮ったものだろう。
画面の中央では、高そうなゴツい腕時計をした人物が、周りの社員と見られる人達に怒鳴り散らしていた。
「今までのように長時間の営業活動もしろ、そうすれば
年配の社員が、それをたしなめる。
「社長、落ち着いて下さい、これ以上仕事を増やすと、労働時間が過剰になり、逮捕されてしまいますよ」
「社長命令だ、営業をやれ、やるんだ! 今までのようにサービス残業で、残業の時間を付けなければ良いだろ!」
「サービス残業の強要は労働基準法違反ですよ」
「うるさい。さらに利益が伸ばせるんだぞ! やらないという手はないだろう!」
勝手な言い分で怒鳴り散らしていると、若手の社員がキレた。
「あれは、このままでは会社が潰れるので、仕方なく従っていただけだ! 今は十分な売り上げが立っているじゃないか!」
「なんだと俺に逆らうのか!」
この社長は無理をしてでも利益を増やしたいようだ。違法だと言われても話を聞かずに怒鳴り散らしていると、共同経営者のロボットがやってきて、こう言った。
「ソレ以上の発言は、脅迫罪になりマス。アナタの行動は、この会社の経済活動を
「阻害だと、俺が邪魔だと言うのか!」
「ハイ、アナタは居ても居なくても良い存在デス」
ロボットは冷静に言い放った。
自身の存在を否定されて、いままで赤かった社長の顔が、さらに真っ赤になる。
「ふざけるな俺の会社だぞ!」
「今は共同経営の形デス」
「じゃあ『プレアデス星団グループ』なんて脱退してやる!」
勢いに任せて、グループから脱退する決断をしてしまう。
次にロボットがどのような対処を取るか見ていると、それはなんともあっさりとした対応だった。
「ソレデハ、脱退の手続きを進めマス。良いデスカ?」
「も、もちろんだ!」
「デハ、プレアデス星団グループを脱退するに当たり、従業員の皆様に決断を求めマス。このまま離脱したコノ会社に在籍しますか? それともグループ会社の、同じ業務部門に移りますか?」
移籍の勧誘に、さきほどキレた若手の社員が、真っ先に反応する。
「移籍するとどうなるんだ? 労働条件は? 給料は?」
その質問にロボットは具体的に答える。
「移籍後の就業時間の平均は、およそ5時間37分。給料は、アナタの場合だと2万6千円アップしますネ」
「移る、移ります。移らさせて下さい」
若手の社員はあっという間に移籍を決めてしまう。
「貴様、今まで食わしてやった恩を感じないのか!」
社長が若い社員を
「ソレは間違いデス。食わせてもらっていたのはアナタの方です。アナタは社員に配るべき給料で
「俺はそんなに私腹を肥やしていないぞ、言いがかりだ!」
「今、身につけている、高級腕時計のレロックスの代金はどこから出ていますか?、
去年買った外車の
愛人関係の『ピーーー』さんのマンションなどの維持費は?
『ピーーー』さんに送ったアクセサリーの料金はどこから捻出していますか?」
「う、うるさい。これは俺が稼いだ金だ! 正当な報酬だ!」
「ワレワレのAIの計算によると、アナタの適正な時給は最低労働賃金より下になりマス。アナタは労働者の賃金を不当に
「うっ、ぐぅ」
何か言いたげな社長だが、言葉が出てこないようだ。
「従業員も経営者や職場を選ぶ権利がありマス。他の社員の方々はどうしますか?」
「移籍します」「私も」「おれも」
こうして社員が次々と離れていく。
最後に年配の社員が一人だけ残ったが、
「社長、ここが
この人も去っていった。
そして画面は暗転しCMが放送される。
CMが空けると、ナレーションから始まった。
「我々取材班は、後日、この会社を訪ねてみた。するとそこには一人で営業活動を行なっている社長の姿がありました。この日の活動を観察していると、どうやらお得意先を回り、契約の継続を確認しているようです」
カメラはあの社長を映す。
すると、撮影している事に気がついたらしい、カメラに寄ってきて、こんな事を言い放つ。
「撮るな! ふざけてんじゃねーぞ! これを放送でもしやがったら、訴えてやるからな!」
テレビ都京のスタッフは、この位では
この社長が営業をかけていた先の人に、インタビューをおこなう。
「『ピーー』商事の『ピーー』社長さんがきてましたよね? 今日はどのような用事だったのですか?」
「コピー機のリース先を変えると言ったら、飛んできたよ。あの会社を使っていたのは、担当の『ピーー』さんを信頼して頼んでいたからね。『ピーー』さんが移籍したみたいだから、今後の契約は移籍先の会社にする事にしたよ。あの社長は社員の替えが利くとでも思っているのかね? 信頼と同じで、そうそう替えが利くものではないのにね」
そのインタビューが終わると画面が暗転して、司会進行役の役者さんが出てきた。
役者さんは番組をまとめに入る。
「今回の従業員の移籍は、必要にかられて行なわれましたが、プレアデス星団グループでは、簡単に所属変更ができるようです。
例えば1週間程度の『お試し移籍』の制度も存在します。
この制度は、試しに移籍してみて、水が合わなければ元の職場に戻る。会社に在籍したまま職場体験を気軽に行え、ベストな配属先を自分で探せるようです。
また、所属する会社も一つに固定される訳ではなく、複数の会社に所属する事もできるようです。
週の前半はこちらの会社、週の後半はあちらの会社と、今まででは考えられない働き方ができるようになりました。
今までは経営者が従業員を選ぶ時代でしたが、これからは従業員が職場や経営者を選ぶ時代に入ったのかもしれません」
決めゼリフを言ってテレビ番組が終わった。
このグループ会社に入ると、どうやら色々と働き方が変わるようだ。
数日後、この番組が、あの社長に訴えられたというニュースが流れる。
そして、
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