コレクターとブリーダー 2

 月曜の朝、ジミ子が東京と京都のお菓子を学校に持ってきた。

 話しを聞いてみると、どうやら一人でラブモンを捕まえにいったらしい。


 ラブモンGOに、あまり興味のなさそうだったジミ子だが、どういった心境の変化だろう?


「旅行のついでにラブモンを捕まえたのか?」


 ヤン太も不思議がってジミ子に質問をする。すると、こんな答えが返ってきた。


「いや、ラブモンを捕まえる為だけに行ったわ。東京と京都に限定のラブモンが出現するみたいだから」


 ここで僕は嫌な予感がした。ラブモンは強ければ強いほど、グロテスクな姿をしている場合が多い。

 わざわざそこまで捕まえに行ったラブモンは、レアキャラだと思う。何かとんでもないものをキャッチして来たのだろう。その姿を見て、ミサキの精神が持つのか不安になってきた。



「どんなラブモンを捕まえてきたの?」


 僕がそう質問すると、ジミ子はすました顔で答える。


「そんな大したラブモンじゃないわ『深き物』よ」


「『深き者』はもう持ってるじゃないか。なんでわざわざ遠くに捕まえに行くんだよ」


 ヤン太がもっともな質問をすると、ジミ子はスマフォで取った写真を見せながら言った。


「わざわざ交通費を払って捕まえにいった理由はこれよ!」


 そこには、赤い色の『深き者』と、白い色の『深き者』の二体の半魚人が映っている。


「わざわざ色違いのラブモンをゲットしにいったのか?」


 ヤン太に言われてジミ子は胸をはって答える。


「そうよ、私はこれでお金を稼ぐの」


 ジミ子が意味不明の事を言い出した。



「どうやってお金を稼ぐの?」


 ミサキの質問に、ジミ子は眼鏡をクイッと上げて答える。


「増やして売るのよ。これなら元手は減らないし、お金がいくらでも入ってくるわ」


 ジミ子が満面の笑みを浮かべならが言う。

 その表情は、なかなかの悪人だ。ラブモンと比べても邪悪さに引けを取らない。



「でも確か『深き者』はそんなに高値は付かないはずだぜ」


 キングがそう言いながらスマフォをイジる。

 そして、日本で有名なオークションサイトの『ヤヒュオク』を表示する。

 そこから、『ラブモンGO』と『深き者』で出展を絞り込んだ。


『深き者』出展はいくつかある。比較的、入手しやすいラブモンなので、200円とか300円とか、あまり高値は付いていなかった。

 小銭稼ぎにはなるだろうけど、儲かるとまでは行かない気がする。


「これだと、交通費も稼げないんじゃねーの?」


 ヤン太の質問に、ジミ子は自信満々に答える。


「そこで、この色違いのラブモンよ。これで希少価値をだすわ」


 確かに色違いの『深き者』は、ノーマルカラーと比べて、少し高値が付いている。

 それでも400円ぐらいが相場で、東京と京都に行った手間を考えると、これならバイトでもしてた方がよさそうな気がする。


「うーん、ちょっと稼ぐのは難しんじゃないかな」


 僕がそう言うと、ジミ子は強く否定する。


「確かに、普通の『深き者』だと儲からないでしょうね。ところがこの私が合成した『深き者』ならどう?」


 そういって、ジミ子は自慢の『深き者』の写真を見せてきた。

 そこには白いボディーに、黒と赤の斑点がある錦鯉にしきごいのような半魚人が映っていた。

 カラフルな彩色で、少しだけ不気味さが緩和かんわされ、ちょっとだけ可愛く映る。


 たしかに、これなら珍しくて高値が付くかもしれない。

 僕はそう思っていたが、ヤン太がボソリとつぶやく。


「コレ、買うヤツいるのか……」


 言われてみればその通りだ。このゲーム、インストールした人数は多いものの、いまだに続けているプレイヤーはどれほどいるのだろう。

 ラブモンの『ヤヒュオク』の出展も、当初は千円とか三千円とか付いていたきがするが買い手があまり居ないのだろう。気づけば200円とか300円とかに値段が下がっている。


「そうだね。このゲームの人気も下がってるみたいだし……」


 僕がそう言うと、キングが反論する。


「そんなことはないぜ、相変わらずこのゲームは人気だよ。

 海外では、人気ひとけを避けてラブモン狩りが盛んだぜ。

 しかも変な噂が広がって、狂信者きょうしんじゃの格好をすれば出現率が上がるとか、魔方陣を描けばレアキャラが出てくるとか、大変な事になってるんだぜ」


 そういってキングはスマフォで写真を見せてくれる。

 それは、数人が怪しげな服に身を包み、魔方陣を取り囲んで、何か祈りを捧げているように見える写真だった。


「ああ、確かにたいへんそうだ」


 ヤン太があきれ果てたように言い放つ。ボクモンGOでも社会問題になったが、これはこれで別の問題を生み出しそうだ。



 キングはジミ子に向って、このラブモンを褒めちぎる。


「『ヤヒュオク』の出展の値段が下がってきたのはラブモンがある程度行き渡ったからだぜ、この配色の『深き者』なら高値が付くとおもうぜ」


「そう思うでしょう。じゃあ、試しに一匹売ってみるわね」


 そういって、自慢の『深き者』を、オークションに出品する。

 果たしていくらくらいの値が付くだろうか?



 この日のジミ子は落ち着きがない、授業中にチラチラとスマフォを覗いている。おそらく値段が気になるのだろう。



 そして、授業を乗り越え放課後になった。


 ジミ子がスマフォをかざしながら、僕らに自慢をする。


「ほら、見て。高値がついたわよ!」


 そこには、『落札価格 7,400円』と表示されていた。

 入札者が争った後があり、このラブモンはかなり人気があるようだ。


「かなり高額だね」


 僕がそういうと、ジミ子は誇らしげに答える。


「そうでしょう。時間を掛けて合成した価値があったわ」


 高値が付いたラブモンに少しうらやましがるミサキ。


「いいわね、ちなみにそのラブモンは何匹くらいいるの?」


「1匹売ったから、今は17匹ね。『深き者』は増えるから、これからお金が転がり込んでくるわ」


 お金の話になり、ジミ子がラブモンに出てくる邪神のような笑顔を浮かべる。

 確かに、この商売が上手く行けば、大金が転がり込んでくるだろう。



 そして数日後。

 上手く行くかに思えた、このビジネスは崩壊した。


「くっ、忌々いまいましいわ。ネンテンドー」


「まあ、しょうがないじゃない」


 荒れ気味のジミ子を僕がなぐさめる。その理由は一つ、ネンテンドーの『ボクモンGO』が『ボクモンGO リアル』として、この業界に参入してきたからだ。

『ラブモンGO』をプレイしていたユーザーは、あっという間に『ボクモンGO』へと移行し、ほとんど人が居なくなってしまった。


 ちなみに『ボクモンGO』のリリースの後、子供向けにグラフィックを可愛くした『ラブモンGO キッズ』がリリースされたが、子供達は『ボクモンGO』に夢中で、まったく見向きもされなかった。

 今では『ラブモンGO』をやっているユーザーを見つけるのは、『ラブモン』を見つけるのと同じくらい難しい。


「こうなったら『ボクモンGO』のモンスターを捕まえて、売りさばいて稼ごうかしら」


 ジミ子が凄い形相で言うが、キングがそれを忠告する。


「『ボクモンGO』はお金でのやり取りが禁止されているから、それは無理だと思うぜ」


「あーあ、また『ラブモンGO』のブームがこないかな……」


 ジミ子が遠くを眺めながら、つぶやいた。

 まあ、ジミ子には悪いが、『ラブモンGO』が流行って、街中にラブモンがあふれた世界を考えれば、今の状況の方が遙かにマシだろう。



 さらに後日。


 にしきの『深き者』は、たまにマニアックなラブモンユーザーから「売ってくれ」と注文が入るらしく、細々と商売を続けているらしい。

 ただ、売れる量より増殖する量が多いらしく、不良在庫は増えるばかりだ。

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