世界に羽ばたくラブモンGO 3

「どうしよう、これから毎日あの化け物につきまとわれる」


 ミサキがちょっと涙目になる。そんなミサキをジミ子がフォローする


「まあ、大丈夫だと思うわ。プレイヤーはまだ少なそうだし、ほとんど表示されないでしょ」


「うん、まあそうね。でもプレイヤーが増えてきたら、これからはどうなるんだろう?」


 弱気なミサキの疑問に、ヤン太が答える。


「それは……、街中にもラブモンが現れるんじゃないか」


 ここで僕はラブモンが見える世界を想像してしまった。


 ラブモンはプレイヤーに付き従う。

 これが人通りの多い、渋谷の交差点のような場所だったらどうなるだろう。

 それぞれのプレイヤーが、半魚人やタコやヘドロのような化け物を引き連れている、非常に混沌とした世界が思い浮かんだ。



 僕は壊滅的な世界を思い浮かべてしまったが、キングが現実的な意見を言った。


「まあ、子供がいるから大丈夫だろう。子供はゲームが好きだけど、このゲームは18歳未満は禁止だから平気だぜ」


 言われてみれば確かにそうだ。子供がいればラブモンは表示されない。

 高校生も子供と言って良いのか分からないが、とりあえず18歳未満なのでラブモンGOをインストールできない。


 学校で一人になる事は、ほとんど不可能だろう。そう考えると少し安心できる。

 僕はミサキに声を掛けた。


「大丈夫だよ、学校では誰かがいるし、家にはおばさんがいるじゃない」


「そ、そうね。誰かがいるわよね。誰かがいてくれるよね」


 自分に言い聞かせるように言うミサキ。

 少し落ち着いたのか、再びポテトを食べ始めた。



 ミサキがポテトを食べ終わり、ようやく落ち着きはじめた。

 しばらくすると、突然、姉ちゃんからLnieで僕らにメッセージが飛んできた。


『みんな喜んで、18歳未満でも出来る「ラブモンGO キッズ」というゲームをリリースする事に決まったよ。これでみんなもできるわね』


 ゲームの内容をしっている僕らは苦笑いをするが、ミサキだけは軽くパニックになっていた。


「えっ、子供達が『ラブモンGO キッズ』を入れたら、街中にラブモンがあふれて、あふれて……」


 そんなミサキを僕がなんとかフォローをする。


「大丈夫だよ『キッズ』っていうくらいだから、ボクモンGOのように可愛いキャラクターになってるよ」


「本当に? 信じて平気なの?」


 ……念を押されて確認されると、僕の方が不安になってきた。

 姉ちゃんと、その上司の宇宙人の美術的な感性はあてになりそうにない。


 僕は急に心配になり、姉ちゃんに確認の電話をしてみる。



 なんどかコール音が鳴って、姉ちゃんが電話に出た。


「はい、何か用かな弟ちゃん」


「『ラブモンGO キッズ』って、グラフィックはかわいらしくなってるんだよね?」


「うーん、どうなんだろ? とりあえずリリースが決まっただけだから、内容までは知らないわ」


「ちょっと待って、このゲームの責任者は誰になるの?」


「一応うちの会社で作ってるから、もしかしたら私になるのかな?」


 ……責任者が全容を把握していないゲームというのは、いったいどういう事だろう。そういったゲームが他にもいくつか思い浮かんだが、いずれもろくでもないゲームだった気がする。



 だが、ここでゲームの賛否を語ってもしょうがない。

 僕らの置かれた状況を、姉ちゃんに説明する事にした。


「ところで僕ら18歳未満だけど、ラブモンGOがインストールされた状態なんだ。それで年齢で弾かれて設定画面にたどり着けないんだよ」


「本当? それは手違いだね。ごめんごめん。

 じゃあ、どうしようか。ゲームをごっそりと削除する? それとも特別に権限を与えて、18歳未満でもゲームが出来るようにする?」


 ここで僕はちょっと考える。ラブモンが見えなくなる設定できるなら、このままゲームを削除しなくても良い気がする。

 特別に権限をもらえるなら、そちらの方が良いかもしれない。


「できるのなら権限が欲しいかな」


「分かった、それだとプログラムの修正が必要になるね。明日くらいには終わると思うから、また連絡するよ」


「わかった。じゃあまたね」


 電話を切る。どうやら無事に問題が解決しそうだ。

 僕は良いニュースをミサキに伝える。


「明日には直してもらえるよ。見えないように設定ができるようになるって」


 僕がそう言うと、ミサキが抱きついて来た。


「やったぁ、これで助かったぁ」


 本当に怖かったのか、少し体が震えていた。

 これは本気で悪い事をしたかもしれない。



「今日の晩さえ乗り越えれば平気ね」


 ジミ子がそういうと、ミサキはまた怖がり始める。


「そうだ、今夜はどうしよう……」


 その様子を見て、ヤン太が適当な事を言った。


「ミサキのおばさんはゲームをインストールして居ないんだから、一緒に居れば良いんじゃないか」


「そうね。それが良いわ。今晩は一晩中付き合ってもらうわ」


 思わぬ所に被害が広がった。

 まあ、一晩くらいなら平気だろう。


 こうして僕たちは、なんとか最悪の結果は避ける事ができた。

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