僕らの決闘 1

 ある日の放課後、一枚のチラシを手にミサキが僕たちに声をかける。


「ねえ、放課後に行きたい場所があるんだけど、いい?」


「いいけど、どこへ行きたいの?」


 僕がそう言うと、ミサキがチラシをみんなに見せる。

 そこには『ケーキ食べ放題』の文字が。


「これよ、これ。いま割引期間中なの」


 ミサキの言葉を待ち構えたようにジミ子が相づちを打つ。


「ここに行かない手は無いでしょう」


 強く言い切る。そして鞄の中から全員の人数分の栄養摂取阻害薬えいようせっしゅそがいやくをとりだした。

 栄養摂取阻害薬とは、宇宙人の開発した必要以上のカロリー吸収を阻止するという薬だ。

 どうやらミサキとジミ子は本気らしい……


「俺はsweetsスイーツに付き合ってもいいぜ」


 甘い物が好きなキングは乗り気のようだ。


「さて、過半数は賛成してもらった訳だけど」


 ミサキが得意顔になって、僕とヤン太に迫る。


 食べ放題といっても値段分は食べれるものではないだろう。

 場所も隣駅なので、電車賃をかけて移動するのももったいない。

 何とか上手く言いくるめられないだろうか……


 そんな事を考えていたら、ヤン太が口を開く、


「まあ、いいぜ、そこまで嫌がる必要もないしな」


 あっさりと降伏した。こうなれば僕も従うしかない。


「しょうがないな、たまには付き合うよ」


 こうして僕らはケーキの食べ放題の店へと向う事になった。



 僕らは電車で隣町へと移動する。そして目的の店の近くに来たときだ。別の高校の生徒が5人ほど、僕らを見つけて、わざわざこちらにやってきた。相手の生徒は見れば分かる、リーゼントを決めたヤンキー達だ。


「ちょっと下がってな」


 ヤン太に言われるがまま僕らは3歩ほど後ろに下がる。

 なんだろう、カツアゲだろうか。もしカツアゲなら警察に通報すれば、宇宙人のロボットが彼らを逮捕してくれるかもしれない。


 僕は最悪の事態を考えていると、相手のヤンキーがすごんできた。


「おう、酔っ払いのヤン太じゃんか」


「酔ってねーよ、下巣げす高校の白木しろきか、久しぶりだな」


 二人はメンチを切り合いながら、挨拶をする。どうやら知り合いらしい。


「なんでこんなとこに来てるんだ?」


 白木くんがヤン太にいちゃもんを付ける。


「俺らの勝手だろ」


「ああぁん、何言ってやがるんだ。決闘で勝負をつけるか?」


「望むところだ、決闘やろうぜ!」


 決闘とはタイマンの喧嘩の事だ。

 道端で喧嘩を始めようとしたので僕が止めに入る。


「まって、外じゃマズイって、宇宙人のロボットも監視してるし」


「うるせーな、黙ってろ!」


 初対面の白木くんに怒鳴られた、怖い。白木くんは僕にさらに追い打ちをかけてきた。


「戦わないヤツは引っ込んでろ女のくせに」


『今は全人類が女ですよ』、と言いたいが、とてもそんな事を言える雰囲気ではない。

 僕が横から口をはさんだ事で、白木くんの視線はヤン太から僕に移った。怖い。


 そして白木くんは僕の顔をちらりと見て、さらに視線を下に移す。そして胸で止まり、食い入るように見つめだした。

 よく見ると、ほかのヤンキー達も僕の胸に注目しているように感じる。怖い。



 この状況がまずいと思ったのか、キングも止めに入ってくれた。


「暴力はいけないぜ。何か勝負をやるなら、他の平和的な勝負でもいいんじゃないか?」


 そんな理性的な提案を聞く相手ではないだろうと思ったが、白木くんはキングの顔をひとめ見て、


「あっ、はい、そうですね。俺も暴力はいけないと思います」


 あっさりと手のひらを返してきた。

 こんどはキングの顔を見つめて頬を染めている。どうやらキングの容姿に打ちのめされたようだ。なんとか喧嘩は避けられたらしい。



 話しが少し落ち着いたと見たのか、ミサキが僕らの前へと進み出た。


「どうせ勝負をするなら、これでどう?」


 ミサキが例のチラシを見せながら言う。すると白木くんは察したらしい、


「それは大食いの勝負か? 大食いなら受けて立つぜ」


「じゃあ、人数も同じだし、丁度いいから団体戦ね」


「おう、打ちのめしてやらあ」


 こうして別の戦いが始まろうとしていた。

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