エイリアンに支配された日常 2

 朝のホームルームを経て、僕らは授業に入る。


 授業の内容はいつもと何も変わらない。のんびりとした時間が過ぎていった。

 そうして時間が過ぎ、あっという間に昼休みになる。



 全く変わりない日常だが、少しだけ変化があった。

 昼休みの時に教室のテレビがつくようになった事だ。


 宇宙人の政策の発表は、各国の正午に合わせて行われる。

 発表は週に一回だが、予行練習もかねてこれから毎日、昼はテレビが見られるらしい。


 ちなみにこの『正午にテレビやラジオなどの放送を流す』という事は、全世界的に行われているようだ。



 ミサキ、ヤン太、ジミ子、キングと僕のいつものメンツで昼ご飯を食べる。


 朝と同じく話題の中心は宇宙人だ。

 宇宙人に対してそれぞれが意見を出し合うのだが、なにせ情報が圧倒的に足りない。何をしでかすのか全くわからず、僕らの討論は空回りだ。


 食事を食べ終え、討論も一段落して、一息ついているとテレビからこんなニュースが流れてきた。


「フランスのパリ郊外では、11時ごろ暴動が発生しました。同じくイギリスでは……」


 各地で、暴動を起こそうとした人たちがいるらしい。

 世界の色々な地名が読み上げられた。


「ですが、いずれも速やかに宇宙人のロボットに鎮圧された模様です。逮捕者は413名に及び……」


 テレビには例のロボットに拘束された人たちが映し出される。

 戦車砲をくらっても無傷のロボットだ、人の力でなんとかなる訳がない。


 少し気になるのは捕まった人たちの行方だ。彼らはいったいどうなってしまうのだろうか?


 その疑問はすぐに解決した。

 テレビの画面が切り替わると、ロボットが逮捕した人たちを地元の警官に引き渡していた。


「よかった」


 僕は思わずつぶやいた。


「何がよかったんだ?」


 ヤン太が僕の発言に突っ込んでくる。


 たしかに、いきなり「よかった」と言われても訳が分からないだろう。


「いや、ほらさ、逮捕者が宇宙へとかにさらわれなくて『よかった』なと思ったんだよ。ふつうに刑務所に入るだけで済んで」


「ああ、まあ、そうかもな」


 ヤン太はちょっと納得した様子だ。


「宇宙人にさらわれた方が面白いと思う」


 ジミ子が少しおっかない事を言った。


「面白いっていうのは、ちょっと不謹慎ふきんしんかも」


 僕がやんわりと批判をする。


「私は宇宙飛行とかしてみたい」


 ジミ子が悪びれず、あっけらかんと言い放つ。

 たしかに、宇宙に行けるなら僕も行ってみたい。


「だけど、人体実験がどうとか言ってなかったけっけ」


 ヤン太がするどい指摘をした。

 そうだった。たしか残った捕虜の人たちは人体実験の対象となるんだった。


「でもたしか隕石に当たって死ぬ確率より低いとか言ってたよ」


 ミサキが宇宙人を擁護する。たしかに彼らはそんな事を言っていた気がする。


「宇宙人にさらわれたヤツらの運命は決まっているぜ、Body Modification肉体改造をされて強化人間にされてしまうんだ」


 そこにキングがゲーム的な解釈を加えた。話の方向が良くない方向へと動き出す。


「強化人間…… 阪面はんめんライダーみたいなもんか。ちょっとなりたいかも……」


 ヤン太がへんな感化をされてしまった。


「いやいや、阪面ライダーだったら、どちらかと言うと怪人の方に改造されちゃうかもよ。宇宙人の姿はあんなに恐ろしいし、良くない方へと改造されるでしょ」


 僕は宇宙人の姿を思い浮かべながらしゃべった。

 あのビジュアルは強烈だ。恐怖そのものでしかない。


「まあ、そうだな。アレはおっかないよな」


 ヤン太がなんとか思いとどまった。


 ミサキもなんとか宇宙人を擁護したいのだろうが、あの姿だけはかばいきれないらしい。すこし口をとがらせて、すねているような表情をしている。


「口調はフレンドリーだけど、やはりあの外見は恐ろしいよ。

 何考えているのか分からないところが一番怖い」


「確かに」「そうだね」「exactlyそのとおり


 僕の意見はミサキ以外の同意を得た。


「安易に彼らに従うのは危険だと思うよ。慎重に様子を見ないと何されるかわからないし……」



 そこまで言いかけた時だ、スマフォが鳴った。

 メールなどは禁止されているが、音声による会話は通常通りできるはずだ。

 通話ボタンを押し電話に出る。


「弟ちゃん、聞こえる~」


 姉ちゃんからだ。


「聞こえてるよ。そろそろ昼休み終わるから用事があるなら早く言って」


「うふふ、きまったよ、就職。

 私はこれから打ち合わせに行くからまた後でね」


 そう言うと電話は切れた。



 ……最近、就職活動を受けたのはあの宇宙人の出した求人広告だけじゃないか。


 呆然としている僕にヤン太が声をかけた。


「どうしたんだ? ぼーっとして」


「姉ちゃんの就職が決まったって」


「なんだ、よかったじゃん」


「良くない」


 僕は即座に否定した。いきなり良くないと言われても訳が分からないだろう。ヤン太は不思議そうな顔をしていた。

 昨日、一緒に居て真相を知っているミサキは、笑いをこらえて肩で震えていた。

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