第百二十六話 条件

まずは、アズライトがこの家で役立つと言う事を分かってもらおう。

アズライトがあの男の姿だったらすんなり受け入れてくれるんだろうな。

でもそうはいかない。

今の姿でも受け入れてもらって、色々な事を学ばせて、あの目的を果たす為にも、ここは、皆んなにアピールしないとだね。


「よし、アズライト!今日の夕食の食材を買いに行ってくれないかな?はい、これ、お金ね」

「ユーショクノショクザイ?」

「う、うん。お買い物に行って欲しいんだけど」

「おか、いもの?何なのです?」


ちょい待った。

普通に会話が出来たから、一般常識は有るのかと思ったけど、買い物が分からないだと?!


「えっと、お金は分かる?」

「この国の流通貨幣の事なのです?」

「そ、そう、かな。使い方は?」

「その貨幣と交換することで、物品やサービスを受け取るです」


知識的には買い物の仕組みは知ってるのか。

それで何故、お買い物が分からないんだよ。


「このお金と夕食の材料を交換する事が買うって言う言葉なのは分かる?」

「はっ!それが、おか、いもの!理解したです!完璧に把握したであります、サー!」


そういう余計な知識は無駄にあるのかよ。

不安になってきたな。


「ところでマスター!」

「何?」

「ユーショクノショクザイとは何でしょう?」


やっぱりそれも分かってなかったか、、、。

肉や野菜のような物の名前は知っているようだから、それを一つずつメモに書いて、どれをどれだけ、どのお店で買ってくるかを地図付きで書いてあげた。


「ねえ、ご主人。不安しかないのだけど」

「奇遇だね。僕もだよ」

「私、一緒に付いていきます。こんなの絶対途中で迷子になったり、お金落としたりしますよ」

「問題ありませんです!アズはこれくらいのミッション軽々とこなしてみせるです!姉様方のお手を煩わせるような事にはなりませんです」


結局、1人で買い物に行かせる事にした。

その後ろに怪しい影が3つ。

僕とリーカとラナだ。

エルツ族が世間的に認められるようになって、ラナも堂々と街中を歩けるようになった。

今までも知り合いがいる辺りは出歩いてはいたけど、これからは人目を気にせず買い物も遊びにも行きやすくなるだろう。


「ちゃんとお買い物できますかね。私、心配で仕方ありません」

「何よ、リーカちゃんはあの子を認めてるの?」

「認めたくは、、、無いんですけどね。フィアさんに似てるってだけじゃなくて、リーンハルトくんの好みの女の子ですからね。でも、何となくほっとけないと言うか、自分でもよくわかんないんですよ」

「私もあの子は妹にしか見えないわね。何だかこう、保護しなくちゃって、、、捨て猫見てるみたいな?」


2人もアズライトの事は渋々受け入れようとしてくれているようだ。


「あ、ほら、最初はお肉屋さんに行くみたいですよ?」

「買えるかな?大丈夫かな?」


もうすっかり、子供のおつかいをこっそり見ている親の気分だな。


「こんにちはです。獣の皮下組織を通貨と交換に来たです」

「いらっしゃ、、、、ええっ、なんだって??」

「そうです。メモを見るんでした。ブタモモを30トロイオンス。トリムネを50トロイオンス。です!」

「お、おお。毎度あり。はい、こっちがブタでこれがトリね。全部で1400フォルクね」

「貨幣と等価交換をするです。1400フォルクは銀色の貨幣1枚と、大きめの銅色の貨幣4枚、、、です?」

「ああ、あってるよ。はい。ちょうどだね。一人でお使いか?偉いねぇ」


か、買えたかな。

危なっかしいけど、ギリギリ何とかなったか。


「オツカイ、ではなく、おか、いもの、です!ユーショクノショクザイです!」

「そ、そうかい、、、。頑張んなよ」

「はいです!鼓舞激励、感謝するです!」


ハラハラするなあ。

でも、これって、アズライトが役に立つかを見せる為の物だったけど、こうやって見守らないといけない時点で、役に立たないのが確定してないか?


他のお店に行っても、出す硬貨を間違えそうになって店員さんに指摘されたり、買った荷物を置いて行ってしまった時には、アリアを出してきて、忘れ物ですよって言って渡したり、なかなか大変だった。


「ただいま帰還しましたです!必要物資の調達完遂です!」

「おかえり。どれどれ、、、。うん。全部買ってこれたね」

「ふんす!余裕なのです!」


まあ、実を言うと、最初の肉屋さんで、これはまずいと思って、他のお店に先回りして、これくらいの女の子がはじめてのお買い物に来るからその時はお願いしますと、根回しをしておいたんだけどね。

皆んな親切な人達で良かったよ。


アズライトもエルツの髪と瞳の色をしているから、それに気付いた人もいたみたいだけど、もう、エルツってだけで通報されたり、捕まってしまう事にはならなくなった。

まだ、エルツを嫌う人はいるかもしれないけど、街を歩き回っても人の目を気にしなくて良いというのは大きな変化だ。



お買い物はもういい。

別にアズライトが役立つのはお買い物なのではないんだよ。

そうだ、強さが必要だ。

僕の計画では強くて何かあった時に頼りになると言うのが求められる。


この家にとっても、脅威が迫った時に頼れる存在であると知ってもらえば、アズライトがここに居てもいいんだ、と皆んな思ってくれるだろう。


「セラフの翼 第六の翼 窓を破壊する者(ウィンドウブレーカー)!対象、アズライト」


リビングに6枚の翼が広がる。


「うわっぷ、何これ。また変なもの出して〜」

「ああ、ごめん。すぐしまうから、ちょっとだけ」


翼が皆んなの邪魔になっちゃうな。

自室でやれば良かったよ。



名前 アズライト・フォルトナー

性別 女

年齢 0

レベル 1

職業 精霊

種族 人形族

階級 なし

称号 低硬度の英雄の娘

所属 なし

加護 リンの加護


生命力 6/6

CP 98.5%

SP 0/0

状態 正常


スキル

パン作り SLv5

真実の書 SLv1


魔法

なし




あれ?生命力弱いな。こんなの、クロモリウサギに噛まれただけで死んじゃわない?

魔法に使えるマナも0だし。

そして、真実の書がちゃんと受け継がれてるよ。


これって、将来パン職人になる予定のただの一般人のステータスだよね。

まあ、職業とか称号とか一般的じゃない部分もあるけど。


これじゃあ、計画どころじゃないな。

まずは、この、ころんだだけで瀕死になりそうな生命力を何とかしないとだ。


試しに100/100くらいにしてみる。


うおおおっ。

ぐんぐんとマナを持っていかれる。

まだ僕のマナに余裕はあるけど、たった100にするだけで、こんなにマナを消費するんだったら、アリアくらいにするのは大変そうだな。


ここは初心に帰って、と。


経験値増加(固定値)SLv1

経験値増加(割合) SLv1


豪華に両方入れてあげた。


あとは、、、そうだな。

職業欄のところに、勇者を追加してみる。



『レベル、称号、スキル、魔法が条件を満たしていません』



勇者になるのにはやっぱり条件があるみたいだね。

まあ、そうじゃなければ、神様達が苦労して、勇者候補を育てたりはしないよね。

あとで、リーカの条件を見させてもらおうかな。

ステータスを見せてって言ったら、変態扱いされちゃうかな。


あ、そうすると、、、職業欄に魔王と追加してみる。


『レベル、称号、スキル、魔法が条件を満たしていません』


やっぱり、、、。魔王になるのにも、一定の条件があるんだ。


「あの〜、マスター?アズの体をいじってるのです?」

「ちょっと、人聞きの悪い言い方しないでよ!フィアはものすごく睨まないで?アズライトのステータスを変えてるだけだから!」

「ご主人〜。人のステータスを覗いて、その上、変えちゃうなんて、とっても、セクハラなんですけど!」


ええ?!セクハラになるの?

だって、アズライトは僕が一から組んだ人形族だよ?

人工精霊だって、僕が元になってるのに、、、。

でも、人格があるから、プライバシーはアズライトにもあるのか、、、。


くうっ。そうなると、あんまりアズライトのステータスを強化出来なくなって、僕の計画も滞ってしまいそうだ。


「アズは平気なのですよ?マスターになら、アズの体を自由にしていいのですよ」

「アズちゃん、、、言い方1つで誤解を招くので、気をつけましょうね」

「リーカ姉様?言い方ですね?了解であります。アズのすべてがマスターの物なのです!何されても文句は言えないのです!」

「悪化してますよ、、、」


結局、勝手にステータスは見ない、ステータスを変えるときは、何をどう変えるかをアズライトに言う、というルールを決める事で、僕がアズライトのステータスをいじっても良いことになった。


それと、もう一つ、、、。

この家の家族のステータスを勝手に見ない。

まあ、当然だよね。


どうせ、見ようと思ったら、セラフの翼が出るからコッソリなんて出来ないんだし、僕も嫌がる事をするつもりもない。


でも、勇者になる条件はリーカのステータスを見てみたいよなあ。

また冷たい目で見られるのも嫌だし、口で伝えて貰うだけにすると言う手もあるけど、、、。


「リーカ。お願いがあるんだけど」

「左手薬指のサイズですか?」

「何の話?」

「、、、いいんです。レティさんの冗句を真似してみただけなんです」


あれは、冗談じゃないと思うよ?


「リーカのステータスを見せて欲しいんだけど」


ざわっ


え?え?皆んなどうしたの、、、。


「そ、そんな、、、。ずっとこのままで居られると思ったのに」

「おう、、、やっぱりリーカさんデシタカ、、、」

「べべべべつに。わたしには、かかかか関係ないことかしららら」


なんだ?

変なものでも食べた?


「リーカ、皆んなどうしちゃったんだろうね」

「はい、、、私、、、幸せになります、、、」


あらら?

これは、僕の常識知らずが招いている事態に違いないな。


「アズライト?今の僕の発言でおかしな所は無いかな?」

「特にはありませんです。リーカ姉様にプロポーズをした以外は至って普通の会話なのです」

「ちょいちょいちょい。プロポーズってなんでそうなるのさ」

「王都および南西部の地域においては、男性から女性へ『ステータスを見せて欲しい』という発言をした場合、旧来より求婚を意味する。フォルクヴァルツ文化史より」


そういう、慣用句的な言い回しがあったのね。

そして、女の子はそう言うのをみんな知っていて、僕だけが知らなかったわけだ。


「リーカ、ごめん、さっきのは知らない言い回しだったんだよ。ステータスを見せて欲しいと言うのがプロポーズだなんて知らなかったんだ」

「そ、そうですよね、、、。リーンハルトくんですものね。恋愛物の読み本なんて、読むわけないですし、薄々違うんだろうなって分かってましたよ」

「ほ、ほんとゴメン」


周りを見てみると、皆んな俯いている。

あの反応からすると、皆んなも意味は知っているんだろうけど、本当にプロポーズしたって思われたんだろうか。


「ま、まあ、ご主人だからね。他の子を置き去りにして、一人だけを選ぶなんて、出来っこないって、信じてたけどね!」

「それは、信頼されてるって喜んでいいのだろうか」

「そそ、そうよ、わたしにはすべてお見通しだったわ!」

「フィアの慌てる姿は珍しいね」

「何を言ってるのかしら!慌てる理由が無いのに何故慌てないといけないのかしら!大体あなたは、私達の事を気軽に愛称で呼んだりして、思わせぶりな態度をとるからいけないのよ!」



そう言えば、女子を愛称で呼ぶのは、愛情を示しているって話があったよな。


「ねぇ、もしかして、僕って皆んなにプロポーズしまくってた?」

「今更なのかしら、、、。会ってすぐ求婚してきたくせに!その上、会う女子、見境なく愛称で呼んでる浮気者のくせに!」


ああ、やっぱり、フィアは特にフィアって呼ばれるの嫌がってたものなあ。

皆んなには悪い事しちゃったな。


「皆んなゴメン。僕がそう言う慣例を知らなかったせいで、嫌な思いをさせちゃったね。これからは、家名で呼ぶことにするよ。ああ、でもフェルゼンさんだと、どっちの事を呼んでるのか分からないな。どうしようか」

「バカじゃないのかしら!?今更、呼び方なんて変えられても困るわ!今まで通りにして貰わないと、返事しないわよ!」

「そうよそうよ!もう家族なんだし、愛称で呼ぶのは普通なのよ?むしろ、今から家名で呼ばれる方が嫌よ」


そ、そうか!もう家族だもんね!

よ、良かった。ずっと嫌な思いをさせていたんじゃなくて。

よし、これからも、思う存分、愛情を込めて愛称でよぶぞ!


「私、一人だけアニカって名前そのままデスね、、、」


あ、、、。いや、だって、アニカってそのままで呼びやすいし、これ以上、縮めようがないし。


「ダ、ダミーさんが本名で、愛称がアニカって事では、ダメだよね、、、」

「もう、それでいいデスヨ、、、」

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