第百二十五話 アズライト

「えっと。ちょっと、変えてくる、、、」

「え?ご主人?何を変えるの?」

「性別とか顔とか、、、」

「あのままでいいんですよ?!私は分かってますよ?本当は女の子にしたかったけど、それだと、また増やした!とか女の子にして、いやらしい!とか言われるのが嫌だったから、泣く泣く男子にしたって言うのも、全部分かってますよ!」


うう。理解され過ぎて、恥ずかしい。


「別に変えなくてもいいじゃないの。ご主人に似てるから、良いと思うわよ」

「そうね、珍しく良い物を作っているとは思うわね」

「あ!そうですよ!あれをたくさん作ってくれたら、リーンハルトくんを取り合わなくて済みますよね」

「リーカちゃん天才!?」


やっぱりダメだ!

僕の存在意義が失われてしまう!


「ごめん。上にいってくる」

「ああ!もったいない!」

「早まったらダメですよ!」


もう、いやらしいとか思われてもいい!

人形族に取って代わられるより、冷ややかな目で見られるほうがまだマシだ!


女子達の抗議は聞かずに、人形族が寝かせてある自室に戻る。

クローニング処理はまだ半分くらいだ。

今のうちに、カスタマイズ画面を出して、最初から設定をやり直す!


まず、性別を男から女に変える!

これが一番大事!

この家の男子は僕とブロンだけでいい!

ふう。危なかった、、、。


次に僕の顔に似ているのも、一度初期状態にリセットしてやり直す。

結構、手間を掛けた自信作だったんだけど、今回はそれが裏目に出てしまった。


せっかく女の子に変えたんだから、僕が思う理想的な女の子の顔にしてみようか。

目は、、、ちょっときつめで、鼻はこう、、、すっとした感じにして、、、と。

体型もだな。

僕と丁度釣り合うような感じで、、、。

あれ?いや、ちょっと耳たぶが長過ぎないか?

あ、やっぱりこの調整必要だよ。

こだわり始めると、細かいところも自分の思ったように変えたくなるもんだね。


「ほら、やっぱり女子に変えちゃいましたよ」

「そうみたいね。思いっきり趣味に走ってるわね。まったく、、、フィアちゃんが変な事言うから」

「わたしのせいなの?そうなの?あなた達だって男の人形が良いって、結構気に入っているって、発言をしていなかったかしら」


扉が少しだけ開いていて、コソコソ話、、、と言うか、がっつり聞こえる話し声がする。

でももう、惑わされない。

なんて言われようと、女子達のお気に入りになるような物にはしない。

ワガママと思われようが関係ない。


2回目ともなると慣れてきたかも。

顔の造形は理想の形に近づけるのが、だいぶ早くなった気がする。


「ねえ。あれってさー」

「そうですね。ちょっと私不機嫌になったんですけど」

「また何故か二人だけが理解しているのかしら。何に気づいたの?」


んん?扉の向こうのラナとリーカと思われる声が、何かに気づいたみたいだけど、、、何だ?フィアは分かっていないけど、僕にもわからないぞ?


「あれ、、、フィアちゃんよね」

「そうですよ!何で私じゃないんですよ!」

「わ、わたし?!そんな訳ないでしょう?」


え?フィアに、、、、言われてみると、すこしにているかも。

しまった。理想的な女の子と思っていたら、フィアに似せてしまったのか。

これはこれで、心の中を覗かれているようで恥ずかしい。

ちょっと変えて、似ないようにしてみようかな。



C1 クローニングが完了しました


 起動しますか?


[起動する]



ああ、、、クローニングが終わってしまった。

もう変えられないんだろうか。

とにかく起動してみよう。


パチッと眼が開き銀色の瞳が見える。

ああ、この瞳の色だと余計にフィアに似て見えるな。


ムクッと腹筋だけで起き上がると、顔をこちらに向ける。

ちょっとまだ機械的な動きをしてるけど、説明書によれば学習する事で段々と人らしい動きになるそうだ。


「起きたわね」

「起きましたね」

「わたしに似てるかしら??そうかしら??」


まだあそこで実況してくれるのだろうか。

人形族の子は僕をじっと見たまま固まっている。

これは、どうすれば、、、あ、説明書、、、えっと「最初にマスター登録をして下さい」か。


「マスター登録。リーンハルト・フォルトナー」

「登録完了。マスターおはようございます、です」

「う、うん、おはよう?」

「これからマスターの支援精霊として、頑張るのです」

「うん。よろしくね」


これで、精霊化した人形族として、使役できるのかな。

この後は、「まずは、名前をつけましょう」だな。

名前か、アリアの時は既に名前が付いていたんだよな。

この人形族にも名前が付いているんじゃないのかな。


「キミはもう名前付いているの?」

「アズライトなのです」

「おお?やっぱり名前付いてるんだ。あれ?家名は無いの?」

「無いのです。あ、ありました!アズライト・フォルトナーなのです!」

「それ、僕の家名だよ、、、。まあ、いいか。じゃあ、アズライト・フォルトナーがキミの名前だね」

「アズライトからアズライト・フォルトナーに変更完了」


やっぱり家名は無かったんじゃないか。

まあ、家族として見えるから都合良さそうだけどさ。


「あれって、どう言う事?いきなり籍を入れたの?」

「ち、違いますよ、養子にしたって事ですよ」

「ただ、名前を付けただけじゃないの。どうって事ないわ。名前なんて自由に名乗ったらいいのだから。わたしだって、どんな家名だって名乗ろうと思えばできるわ、ザフィーア・フォルト、、、何でもない」


フィアがとても良いことを言っている気がする。

も、もしかして、フォルトナーの籍に入ってくれる気持ちが芽生えている?!


「違うから」

「え?」

「違うから、さっきのは。例えようとして間違えただけだから」

「、、、はい」


扉の向こうと会話してるし。

こっそり覗いている事にはなってないんなら、もう入ってきちゃえば良いのに。


「アズライト。何か命令をすれば、してくれるのかな?」

「はい。何でもお申し付けくださいです」

「うわ、いやらしい事命令するつもりですよ!」

「ご主人って、結構むっつりスケベなのよね」

「わたしを押し倒したくせに、、、押し倒したブツブツブツ、、、」


フィアさん??ちょっと一人だけ怖いんですけど。

いや、他の2人も違うからね?


「えっと、とりあえず、下の家族に紹介するから、一緒に来てくれるかな」

「初命令なのです!命を掛けて遂行するです!」

「下に行くだけだから、、、。えっと、下に行こうかな!今から下に行こうっと!」


扉の向こうから「うわー逃げろー」という声とバタバタ階段を降りる音がしたのを聞いてから、アズライトと2人で降りていく。


「ああ、おほん。ええ、、、その、、、何といいますか」


皆んなリビングのソファーにきちっと座って待っていた。

そんなに畏まられても、どう話せばいいのか困ってしまう。


「おう!カワイイ子デスね!ああ、こういう時のセリフ、覚えマシタ!ええとタシカ、マタフエタノネ!デス!」


アニカの無邪気な発言が周りを凍りつかせる。


「にいちゃん、男を増やすんじゃ無かったの?この家、男が少ないから、さっき男が増えるって聞いて嬉しかったのに」

「ブロン。お姉ちゃんとあっちの部屋にいってようか?」

「ええ、何でさ、マルモ姉ちゃん」

「リン兄さんの趣味に口を挟んではダメよ。あれは、姉さん達にも治せない、病気みたいなものなのだから、、、」


そう言って、マルモとブロンは部屋に戻ってしまった。

退室する時のマルモの諦めにも似たため息が、リビングに残る皆んなの表情をより一層硬くする。

待って!そう言うんじゃないんだよ!

うぐぐっ、これはあれか!僕が興味本位で人形族の精霊化を試してみたい、とか思ったのがいけなかったのか!?

男にしても女にしても、どっちを選んでも誰かが不幸になるじゃないか!


お、恐るべし人形族、、、。


でも、もう高いお金を払って買っちゃってるし、ほら、この人形族は擬似精霊と合わせて今後何かの役に立つ筈だよ。


「さっきから一人でブツブツ言ってるけど、ご主人?ちゃんと説明してくれるわよね?」

「そうです!何故私に似てないのか説明を要求します!」

「わたしには似てないわよ。そうよ、そんなの認めたら、わたしが自意識過剰みたいになるじゃない」


仕方ない、もう皆んなは大体分かってくれているけど、ちゃんと説明して認めてもらおう。


「さっき見てた人は分かってると思うけど、この子はアズライト。人形族のアズライト・フォルトナーです。さっき僕が精霊術を使って精霊化をしたから、人形族と言うよりは精霊になるのかな」

「おう、わたしと同じデスね」

「そうだね。ただ、アニカは天の世界の人が中に入ってるけど、アズライトは中の人は居なくて、僕のマナを原型に作った擬似精霊が入ってるんだ」

「ええ?この人、中身無いの?普通に受け答えしてるじゃないの」

「人形族は通常、会話は出来ないわ。簡単な命令を受けて実行するだけのものよ。月額利用料が高い物は多少自分で考えて行動するものもあるけど、最近は格安精霊が流行っているらしいわ」


いつも思うけど、フィアはそう言う情報を何処から仕入れてくるんだろう。

ほとんど家の外に出てないよね。


「えっと、アズライト。皆んなに挨拶して。僕の家族だよ」

「はい、マスター。皆さま、はじめまして。アズライト・フォルトナーと申しますです。これからはマスターのお世話はすべてアズライトが行うのです。皆さまは、もうマスターには指一本触れなくていいのです。むしろ、もう触れるなです」

「ちょっと、アズライトさん??変な事言ってないかな?」

「失礼、間違えましたです。まだ、産まれたてで、言葉が上手く扱えないのです」


ほ、本当かな。


「ふーん。つまり私達はもう用済みってことなんですね」

「ちょっと待ってリーカ。そう言うんじゃないんだよ。別に僕はこのアズライトをお世話係にしようとか、皆んなをそう言うつもりで見ているとかはないんだよ!」

「どーだか!」


今日のリーカはやけに突っかかるな。

むむ、そんなにあの男子人形族の見た目が良かったのか?

アズライトを作っておいて、嫉妬する権利なんて無いけど、やっぱりちょっとむむってなるな。


「まあ、もう、こうなった経緯は目撃してるから、分かってるけど、さっきみたいにまた性別とか見た目は変えられないの?出来るなら、もうちょっと中間的な誰にも害のない見た目にするって言うのもアリじゃない?」


害って、、、まあ、そうか。

さっきのカスタマイズの画面を出して確認してみる。


「あ、ダメだ。一度起動しちゃうと、変えられなくなるみたいだ。耳たぶの長さも固定されちゃった」

「そこは変える必要ないんじゃないの?」


何言ってるのさ。こだわり始めたら気になるところなんだから。


「マ、マスターはアズの見た目が嫌いですか?変えるですか?」


ううっ。こう言うの、擬似精霊に必要か??


「変えないよ。と言うか変えられないみたいだし。それよりもマスターって呼び方は変えて欲しいかな。何だかカフェでも経営してるみたいだし」

「嫌です。マスターはマスターなのです。変えられませんです」

「え?嫌なの。それとも、何かの制限で変えられないの?」

「嫌だから変えられないのです」

「僕に忠実な使役精霊なんじゃないの?」

「命令には絶対服従です」

「えっと、じゃあ、命令ね、僕の事はマスター以外で呼んで」

「嫌なのです!断固拒否なのです!」


絶対服従とは、、、。


とにかく、アズライトにはこの家に住んでもらって、僕のある企みの為に色々学習してもらう事にする。

企みって言ってもいやらしい事を考えてるわけじゃないからね!

ラナとリーカはそこで冷ややかな目を向けないで!

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