第百十四話 真と偽
「これで、分かってもらえたかと思います。この戦はわたしくしの名において、止めさせて貰います」
「あなたが女神だとは分かったが、我々の主神はベニトアイト様だ。あなたに従う義理も教義もない。お引き取り願おう」
やっぱりダメか。
デマルティーノ帝国はベニトアイトが主神なんだな。
そう言えばさっきこの人の加護欄を変えた時にはそこにベニトアイトの加護が付いていたな。
『マナ残量低下により、第四の翼 擬グングニルを強制終了しました。残りターゲット数は3522でした』
ああ、マナ不足で雷槍も終わってしまった。
だいぶ周りの敵兵は気絶させたけど、もう少ししたら遠くにいた兵士達がここに押し寄せるだろうな。
そうなったらお終いか。
マナが無いからもうこの人のステータスを変えるのも出来ない。
こりゃ詰んだかな。
お。リンの方に戻ったか。
さて、こっちはマナは超大量にあるだから、ここから何かできないかな。
チャットとかとは違って中身が同じなんだから、ここから魔法を送りこむとか。
時間がないけど、これは試してみるしかない。
「リーンハルトくん。私、心の声が読めるスキルを会得したかもしれません。今、わくわくって思ってませんでしたか?」
「それ、スキルじゃなくて、僕の顔に出てただけだよね」
「その分だともう解決したんですか?」
「今、もうちょっとで死んじゃうかもしれない状況、かな?」
「そ、それで、わくわくなんですか?」
「ま、まあ。その辺は僕の性格だから、、、」
「その説明で十分理解できてしまいますけど、、、」
いやいや、こんなリーカとほのぼの会話をしている場合じゃなかった。
アリアの方で会話を繋いで時間稼ぎをするか。
「エミーリオさん!神ベニトアイトはこの国の主神なのですよね」
「あ?ああ。そうだ。ベニトアイト様は常に我々をお救いくださっている。今回のこの待ち伏せもベニトアイト様からの天啓によるものだからな」
うわっ、神様が直接戦争に加担してるのかよ。
ずるいな。
そんなの有利な情報がぽんぽん入ってくるんだから、勝てるに決まってるじゃないか。
やっぱり硬い神様っていうのは、軍神でもあるし、主神として崇めるのは当然なんだな。
だからこそ、僕がクロの名前を出しても、馬鹿にされたり、言う事も聞いてくれないんだろう。
よし、アリアの方はあのまま話しを繋いで、遠くの兵士が来るまでは何とかなりそうだ。
あとはこっちで何かできないか試してみよう。
ここから遠くにいるアリアに対して魔法が通用するか確認してみよう。
まずはマナ量が少なくて、しかもすぐに結果が分かる方法だ。
「セラフの翼、第一の翼 神判代行、対象、アリアージュ・ミヌレ」
『セラフの第一の翼を行使します。対象に適用中』
起動はしたな。
どれどれ。
「エミーリオさん!ボクは、実はこう見えても今年で82歳なんです!」
「な、何を唐突に、、、それに、そんな歳な訳ないだろう!どう見ても子どもじゃないか!」
『嘘です。82歳ではないです』
おお、動いた動いた。
何だよ、ここからでもアリアに向けて魔法が使えるんじゃん。
結果の出方が段々と雑になってきているのが気になるけど、、、まあ、今はそれどころじゃないな。
それなら、次は、、、
「アザレアの杖と水筒、対象、アリアージュ・ミヌレ」
『対象、アリアージュ・ミヌレ。マナの回復を開始します。水筒の水をお飲みください。現在の充マナ率3%』
どうだろう。
あれ?少ししたらこのメッセージも消えるはずなんだけどな。
固まったかな?
真ん中で何かクルクル回ってるな、
「リーンハルトくん?目が止まってますよ?あれ?こ、呼吸、してます?え、えっと、、、ど、どうしよう」
「ぷはあ、、、はあはあ、ああ苦しかった」
「よ、良かった〜。ピクリともしないから心配しまたよう!」
「あ、ああ、ごめんごめん。もう大丈夫だから」
『水筒の転送が完了しました』
こう出ていたから、今の間にマナの水筒をアリアの所まで送り届けていたんだろう。
でも、これ、転送中は固まってしまうのは困りものだな。
息すら出来なくなるのは命に関わるから、あまり遠くには送れないようだ。
さてと。あっちには届いたかな?
「うおっと。おお、届いた届いた。結構便利だな」
手元にはマナ回復の水筒が収まっていた。
リンのいるフォルクヴァルツからここまでこの水筒が飛んでやって来た、、、訳じゃないのか。まあ、とにかくこの手元にこれが有るというのが重要だ!
「お、おい待て、そんなの持っていたか?何だそれは?」
「ああ、お構いなく。ただの水なので」
そう言って、水筒の蓋を開けて、中の水を飲み始める。
おお、ちゃんと中身が入っているぞ。
ステータスウィンドウを出しながら飲んでいく。
ゴクリと飲む度に、、、正確にはお腹に水が入る度にマナ値がバタバタと増えていく。
ゴクゴク
ゴクゴク
「お、おい。そんなに飲んで、大丈夫か?お腹が緩むぞ?」
意外と親切な人だな。心配してくれるのか。
「いや待て!そんなに何で飲み続けられるんだよ!そんなに入らないだろう!」
しっかりと突っ込みを入れてくれるあたりも悪い人ではないみたいだ。
「ぷはあ!ああ、美味かった!でもお腹タプタプだな」
「そりゃそうだろうよ!」
エミーリオさん、付き合い良いね。
マナは全回復したけど、これからどうしよう。
また、雷槍で残りの兵士達を全部気絶させようかな。
でも、それで、解決するんだろうか。
「あの、女神様。なんだかあの敵のお偉いさんは変じゃないですか?」
「変?」
シュタールの兵士に話しかけられる。
「はい。逃げる訳でもなく、攻めてくる訳でもなく、女神様の話しに付き合って、、、でも、時間稼ぎにしては、のほほんとしてるっていうか、、、すみません、曖昧なんですけど、でも、ボーッとしていて、あれと戦争してる感じがしないんですよ」
「そう言われると、そうだね。なんか変だ。他の兵士達も動きが機械的っていうか、人形みたいだったよね」
マナも回復したし、ちょっと試してみようか。
「第一の翼 神判代行、エミーリオさん」
どうやって聞けばいいかな。
「エミーリオさん。あなたが祀っている神は何という名前でしたっけ」
「もう忘れたのか。我らの主神は神ベニトアイト様だ」
『嘘ではありませんが、真実でもありません』
何だこれ。
まずは確認からとか思ったらいきなり変な答えが返ってきた。
本人は嘘を付いているつもりは無いけど、間違って認識してるのか。
でも、と言うことは、デマルティーノ帝国の主神はベニトアイトじゃ無いってことになるぞ。
主神を間違えて覚えるって、そんなのあるのかよ。
意味が分からん。
「あなたの軍はベニトアイトの天啓でシュタール軍がここに来る事を知って、待ち構えていたのですよね?」
「ああ、今朝ベニトアイト様からの天啓を受けたのだ。何が何でもここでシュタール軍を潰さなければ、デマルティーノの未来は無いと言われたのだ」
『ベニトアイトから天啓があったのは真実ですが、天啓の内容自体が虚偽です。その内容の天啓がアーカイブに存在しませんでした』
最近は雑になってきた第一の翼が、今回はやけに細かいな。
嘘を付いているか、という判定じゃなくて、真偽判定になってるし。
まあ、その方が助かるけど。
「何故、ここでシュタール軍を倒しないと、デマルティーノがダメになるんですか?」
「今、フォルクヴァルツが潰されると困るからだ」
『真実です』
「誰が困るの?」
「当然、神ベニトアイト様だ!」
『これも、真実です』
「軍を引いては貰えないのですか?」
「それは出来ない。シュタール軍は全滅させると決まっているからだ」
『真偽判定不能』
え?判定できないって、どう言うこと?
本当の事か分かんないの?
何だよ。第一の翼って、何でも判定機って訳じゃないのかよ。
『精密判定に切り替えます。アーカイブよりログをダウンロードします。先程の発言の根拠となる事象を抽出します。候補となる事象を解析します』
おお?何か始まったぞ。
もしかして、ちょっとムキになってる?
意外と人っぽいところがあるんだな。
『解析完了。該当1件。ベニトアイトによる、バックドア作成の痕跡を見つけました。現在もリモートアクセスにて当該アバターの言動を操作中』
おお?今この人操られているのか。
だから、言っていることも変だし、受け答えもボーッとした感じなのか。
これをどうにか出来ないの?
『対応策を検索します。検索完了。該当2件。1件目、ステータスを破壊する事による、人格リセット法』
いや、それはダメでしょ。
人格をリセットとかしたらダメだよ。
もう一つの方は?
『2件目、リモートアクセスの回線を鞘より抜かれし剣により切断。その後に、バックドアをセラフの翼の第三の翼にて修復可能』
おお、、、あの、敵がいないと現れなかった剣で切れるのか。
でも、あれは、アリアじゃなくてリンの方でしか起動しないよな。
また、水筒みたいにこっちに転送できるかな。
試してみるか。
「おい、どうした。攻撃してこないのか?早くしないと我が軍の兵士達が集まってきてしまうぞ?」
遂には僕の心配までし始めちゃったよ、この人。
根はいい人なんだろうね。
それでもシュタール軍は全滅させろと言う命令には従わないといけないから、言動がおかしくなっちゃってるよ。
周りは、エミーリオさんが言った通り、デマルティーノ兵に囲まれてきていた。
「さてと、リーカ。これからまた、呼吸しなくなるけど、大丈夫だからね」
「は、はい。うう、でも、心配ですう」
「もし、何分も戻ってこなかったら、引っ叩いてみてよ」
「わ、分かりました!もうほっぺが腫れ上がるくらいはたきます!」
できれば早く転送は完了して欲しいな。
「すうはあ、すうはあ。鞘より抜かれし剣!アリアージュ・ミヌレの所に出ろ!」
こ、これでどうだ!
あ、あれ?リンの手元に剣が現れた。
鞘には入っていない、諸刃の長剣だ。
ここに現れないでよ。
「おい。フォルトナー。今は授業中だぞ!剣はしまえ。それとも剣術学科に移りたいのか」
「あ、すみません。すぐしまいます」
周りの人達に笑われてしまった。
机の下に剣を隠す。
体は動くし剣はここにあるままだし、やっぱりこの剣をあっちに転送するのは無理なのか、、、。
『鞘より抜かれし剣をアリアージュへと転送したいですか?』
「したい!転送してくれるの?」
『………』
なんか言ってよ。
『転送には5分以上掛かります。現在はセーフティ判定により、3分以上のフリーズを伴う転送は回避されています。これを解除して転送を実行しますか?』
5分か。長いな。
死んじゃうかな。
『ヒント。近くの方に回復魔法をかけてもらう』
な、なるほど。
ヒントくれるとか親切だな。
「リーカ。これからまた固まるから、1分おきくらいに回復魔法をかけてくれないかな」
「ふえっ?回復?それってやっぱりヤバい事になるんじゃないですか?」
「リーカが回復してくれれば、大丈夫だよ。頼んだよ」
「え?も、もうですか?すぐ呪文唱えます!」
よし、これでいいぞ。
転送していいよ!
『セーフティ判定の強制解除。転送を開始します』
「レ、レーベンの泉!」
早いよ、リーカ。
まだ、始まったばかりだよ。
ま、まあいいか。
定期的に回復してくれればいいんだし。
「め、女神様?大丈夫ですか?」
「ん?ああ、うん。こっちは平気。転送中もアリアは動けるんだな」
「へ?」
「あ、いや、こっちの話。ああ、でも、だいぶ囲まれちゃったな」
「あ、あの、さっきの雷の棒でやっつけられないんでしょうか」
剣が転送されるまでは仕方ないか。
それより、エミーリオさんも気絶させちゃうのも手かな。
『それは推奨できません。先程の解析で判明しましたが、あの人族を攻撃し、すこしでもダメージが与えられると、ブラントストフの爆裂が発動するように仕掛けられています』
うえっ。何それ罠ってことか。
ベニトアイトって硬い神様の割に嫌な性格してるな。
爆裂ってどれくらいの規模になるの?
エミーリオさんも怪我しちゃうのかな。
『半径10ハロンが爆風により吹き飛ばされます』
何だよ!見渡す限りが焼け野原って事かよ。
怪我とかの問題じゃなく、ここに居る人達みんな跡形もないよ!
っていうか今気づいたけど、普通に会話して答えてくれるな。
セラフの翼?それとも、他のスキルが答えてくれてるんだろうか。
『………』
そこは答えてくれないんだね、、、。
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