第百十話 ドゥンケルハイトの森

「結局、アールブ族ってアーデも居たから2人居たって事になるのかな?」

「はて?アーデというのは?」

「幻夢ちゃんの事!幻夢の堕天使!」

「リーンハルトくん、その名前、恥ずかしいから、もう少し小さい声で、、、」


くううっ!

リーカにまで恥ずかしいって言われた!


「幻夢の堕天使は厳密にはアールブ族では無く魔女族。アールブの民の内、魔法が使えず、魔道具作成のスキルが得意だった者たちが、枝分かれした。お互い、たった一人の生き残り」

「そうなのか。種族が一人しか居なくなるっていうのは寂しいものだね」

「問題ない。我が主人がこうやって、我の元に来てくれた。これで子孫繁栄間違いなし。シャッハが出来るくらい子供は欲しい」


子供16人かよ!!

多いよ!!

ああ、そういう問題じゃなかった、、、。


「種族が一人しか居なくなるって、、、寂しいものだなあ」

「何故もう一回言った?16人は無理か?せめて半分でも」

「あ!そうだ!ホーキだよ!ホーキ!アーデの為にホーキのレシピを教えてあげてよ!」

「8人もダメか?なら5人くらいなら、、、」


話がそらせないだと?!


「ミスティルテインさん?何事にも順番という物があるのです、、、。私だって、順番待ちしてるんですから、割り込みは、、、ダメですよ、、、」

「り、了解した、、、」


こ、怖い、、、けど、助かったよリーカ。


「だが、ホーキレシピの伝授は直接会ってでないと無理。タイミングとか。決めポーズとか。大事」


魔法器作成に決めポーズは不要だと思うんだけど、、、。まあ、本人がそう言うんだから、必要なんだろう。

もう、アールブの民関係で、細かい事を気にしたらダメだって分かったから、この辺はスルーだ。

そうそう。決めポーズ必要、大事。




「アーデはミスティ、、、、ご先祖様に会いたい?」

「うん!会いたい!」

「それなら、、、まだ、ボク達は行くところがあるから、帰りにまたこの町に寄るよ。その時にアーデも馬車に乗せてあげるから、一緒にフォルクヴァルツに行かない?」

「いいの?行きたい!待ってるよ!」

「うん。で、その代わりなんだけど」

「お、、、お金ないよ?」

「知ってる。お金は要らないよ。その代わりは、顔、見せて!」

「それは、や!」

「何でさ!そのままじゃあ、どこ行っても怪しまれるよ?」

「や。だって、皆んな、アーデの事、気持ち悪いって言うんだもん」


そんな事を言う奴が居るのか!

むう。心に傷を負っているなら、無理して顔を見ようとしたらダメか。


「いつまで経っても、顔が老けないで子供のままだから気持ち悪いって。この顔ならもう老けないでしょ?だから、このままなの!」

「そう言う事か。それなら、大丈夫だよ。ボクも、後ろの3人もそんな事は言わない。歳をとらないくらいで気持ち悪いなんて思わないよ。ボクの知り合いなんて、変わった人多いよ?魔王に勇者に、国王に熊でしょう?あとは、柔らか女神とか」

「ぶふぅっ!変なのー。そんなおかしな人ばかり知ってるなんて、ある訳ないのにー!ふふふふっ」


いや、ホントだって。

自分で言ってて、何言ってんだコイツって感じだけど。




「ミスティ。アーデもこっちに来たいって言ってるから、何日かしかたらここに連れてくるよ」

「うむ。了解だ、、、。ところで、我が主人は幻夢の堕天使の事を愛称で呼んでいるようだが」

「え?そうだよ。変かな?」

「変、、、というか、我が名も真名ではなく、愛称で呼んで、、、、。つまり、一度に2人とも娶ろうと言う事か!!」

「何言ってるのか、わかんないんだけど」

「家族でもないのに愛称で呼ぶのは、結婚を前提としたお付き合いをしている人だけ」

「え?そうなの?」

「我が主人は結婚を決意したから、ミスティと呼んだ。でも、幻夢の堕天使もそう。大丈夫。アールブの民は一夫多妻制」


そんな風習があったのかよ。

先に言ってよ!


「あ!私もリーカって呼ばれてる!これはもしかしてプロポーズされてる?!」

「リーカは人族でしょ?」

「人族もおんなじですって、きっと!」


「わたくしもフリーデと呼ばれていますわね」

「わ!我もクリスと!そ、そんな!まだ、気持ちの準備が!?」


フリーデはまだしも、クリスは違うだろう。

くっ。名前を覚えづらいからって、適当に短く呼んでいたツケが回ってきたのか!

クリスの発言にまた周りがざわめき始めるし。


「だいたい、それはアールブ族だけの風習なんでしょ?ね、ミス、、、ミスティルテインさん」

「何故急に元に戻した。人族はそう言った考えはないはず。種族が枝分かれする前のエルツの民から受け継いだものだから」

「エルツ族?アールブ族は元々エルツ族だったの?」

「厳密には、神との子がエルツで天使との子がアールブ。元は一括りでエルツ」


そうだったんだ。

それも衝撃だったけど、そんな事よりもっと衝撃だったのは、エルツ族も愛称呼びに特別な意味があったって事だ!

つまり、僕はフィアやラナにプロポーズし続けていた事になる。

そう言えば、フィアは最初に家名で呼ぶようにしつこく言ってたもんな。

そりゃそうだ。

ラナもエルツの国に帰らないって言うはずだよ。

これからは家名で呼ぶかな。




「これからは気をつけないといけないな」

「どうしたっすか?アリアちゃん」

「ううん。なんでもないよ、カナリスさん」

「ええっ!!なんで急によそよそしいんすか?!」

「そ、そんな事ないですよ。ねぇ。フォスさん」

「私もだった」

「はははっ。何か二人は嫌われる事を言ったのではないのか?」

「何も言っておりません。ディアマント=ツィン=ヘルグリューン王女殿下」

「我だけ、異様な距離感が!?」


呼び方変えるのって難しいな。


しばらくしてから、ボクはこっちだと女の子の格好だったから、関係なかったよ、と言うのに気付いて元に戻すまでは、皆んなからの困惑と悲しみの視線を浴び続けていた。




ディアを送り届けた後に、またこの町に寄ることをアーデに約束して、グラースの町を出発した。


「アーデちゃんは大丈夫っすかねぇ、、、。、ちょっと心配」

「連れていければ良かったんだけどね。念の為にお金も少し置いてきたし、何とかなるんじゃないかな」


借金も僕が肩代わりしてあげた。

返さなくて良いと言ったんだけど、必ず返すって言うから、出世払いって事にした。

800歳超えてるのに出世払いも何もないけど、新しい魔法器を教えて貰えば、儲かるはず!という意気込みを無下には出来ない。




「さあ!ここからが本番ですぜ!アリア様!」

「この辺りからドゥンケルハイトの森に入ります!」


今はもう全員徒歩になっている。

街道が無い為、馬車ではもう通れないので、グラースの町に停めたままにしてある。


ここから、強力な魔物が多く出るドゥンケルハイトの森になるんだ。

出来るだけ戦いたくないけど、そうは言ってられないだろう。

この森に出る魔物は、奥に行けば行くほど、強く大きな魔物となるらしい。

それに、今の僕はアリアだから、魔法もスキルも使い放題という訳ではない。


「き、緊張するっす〜」

「おいおい、カナリスも騎士団なら、魔物ごときにビビってるんじゃねえぞ」

「そう言われましても、、、私、ずっと町内警備ばっかりだったんすよう」


しばらくの間は魔物も獣も現れず、拍子抜けしていた一行だったけど、そういう、あれ?もしかしていないのかな?って思い始めた時に魔物は現れるものだ。


ガササッ


「魔物だ!退がれ!」


木々の間から出てきたのは、ウォルフラムウルフという狼の魔物だ。

銀灰色の毛は非常に硬く、熱にも強い。

ブラントストフの爆裂による、爆発の熱でも解けないらしい。

雷系の耐性もあるため、熱と雷の魔法は全く効かない。

そして、更に厄介なのは、、、。


「避けろ!当たったら吹っ飛ばされるぞ!」

「うひゃあ!」

「ディアちゃんはこっち」


ウォルフラムウルフが勢いを付けて体当たりをしてくる。

硬いだけでは無く、比重がとても大きい為に、体ごと当たられるだけで、その重さがそのままダメージになる。

まるで、走る砲弾だ。

実際にこの魔物の毛を鉄球に貼り付けた砲弾を作り、それを遠くに飛ばす事で、城の外壁くらいなら簡単に穴を開けられるようだ。


ディアはユーリが盾を構えて護っている。

回復系と支援系魔法が使えるらしいから、後方で援護役も兼ねている。


ファルコさんはパワーファイター系の戦士だ。

良くある両手持ちのロングソードを構えて、ウォルフラムウルフの突貫の軌道をその剣で逸らしている。


ヘルマンさんは弓矢を武器として、その矢に自ら魔法支援をして、強化しているようだ。

だけど、その強化魔法は炎の魔法だから、耐熱性の高いウォルフラムウルフにはあまり効果が出ていない。


カティは意外にもかなり高位の魔導師だった。


「ブ、ブラントストフの爆裂!」

「うわっ待て!皆んな退避!」


ドグオオオオン


「こら、カナリス!こんな狭い森の中で爆裂なんて使うなよ!」

「だ、だってえ、怖いんすよう」


だけど、やはりウォルフラムウルフは、鉄製の防具を一瞬で溶かす爆裂の熱でもなんとも無いらしい。

むしろ、高熱を帯びて体当たりが余計に危険になってしまった。

ウォルフラムウルフの毛は熱を与えると光る性質を持つ為、今は眩しいくらいに光っている。

眩しすぎて見づらい、、、。


とにかく、体当たりは止めないと。

久しぶりにリボン剣を出して、ウォルフラムウルフがカティ目掛けて突進してくる間に入り込み押しとどめる。


うわああ。アリアの体がちっちゃいから、勢いを止められず、ズルズルと押されていく。

っていうか、目の前で眩しすぎるよ、、、。

ああ、、、リボン剣が溶けていく。

流石に超高温度には耐えられないか。


「セラフの第四の翼 擬グングニル!」


バサァ


しまった、翼、非表示にし忘れた。

これ、1日経つと表示するようにリセットされるんだよな。

設定をなんで覚えてくれないかな。


「うえええ!何これぇ!」

「て、天使の翼っ!」


ああ、まずったなぁ。

秘密にしておきたかったんだけど、、、、まあ、いいか。

雷の槍が現れるけど、両手はリボン剣でウルフを抑えているから、宙に浮いた状態で槍が出現する。


「目標!ウォルフラムウルフ!」


シュトッと雷の槍がウルフの眉間に刺さる。

放電が始まると、光が強くなり熱も増してくる。

あまり、ダメージは与えられていないようだけど、突進は止まったから、少し距離をあける。

リボン剣を雷が伝ってビリビリする。


刺さっていた槍が消えると、右手に2射目の槍が現れる。

リボン剣は左手に持ち替えて、少し離れた所から槍をウルフに投げ付ける。


雷の放電が起きる度に明るくなり、周りもかなり熱くなる。

もう近付けない程の温度になっている。


「ア、アリアちゃん!これ、もっとひどくなってないっすか?!それになんか臭いっ?!」

「いや、これで良いんだ!ウルフの足が止まったでしょ?この温度まで来ると動いたらマズイから、動けないんだ!動いてガスが散ると毛が溶けて細くなるからね!」

「ガス??何のガス?」

「こいつは熱を帯びると毛が消耗するのを避けるために、体中から特殊なガスをだすんだ。ブロマインっていう臭いガスが出て、熱で気化した毛の成分をそのガスが捉えて、また毛として再生しているんだ。そのガスがある限りこのウォルフラムウルフは熱を出し続けられてしまう!」


そう説明しながらも、次々と雷の槍を打ち込んでいく。


「このくらいの温度になれば、こいつは体が弱くならないためにもガスを出して、その場でじっとし続けないといけないんだ。そうしないとせっかく出したガスがどっか行っちゃうからね」

「な、なるほど、、、。何でアリアちゃんはそんな事知ってるんすか?」

「ひ、秘密」


最近ようやく戻ってきた、母さんから受け継いだ真実の書からの情報だなんて、言えない。


「でも、ここからどうするんすか?」

「アリア様!これだと、剣で斬りこめないです!」

「誰か風の魔法は使えないかな?ガスさえ飛ばせば弱体化出来る筈!」

「私、使える」

「ユーリ!頼んだ!」

「ウィントの盾」


風がウォルフラムウルフにまとわりついて、臭いガスが散らされる。


「く、くっさあ!」

「我慢だ!カティ!」


よし、ガスが無くなった事で体毛や体の成分がどんどんと熱で蒸発し始めてきた。


「退がれ!暴れ始めたぞ!」


もうガスで気化を止められないと感じ取ったウルフは、ヤケになったのか最期を悟ったのか、僕に向かって突っ込んできた。

リボン剣で受け止めるけど、マナでコーティングしたリボン剣でも、すぐに溶けて使い物にならなくなる。

くうっ!腕全体をマナで包んで防御してもこの熱は熱すぎる!

両手でウルフの突進を止めるけど、掌はもう溶けかけている。


「セラフの翼!第五の翼 戒めの鎖!」


ウルフを動かないように座標固定する。

この翼を使った事で、マナがごっそりと無くなるのが分かる。

バックステップで距離をあけて叫ぶ!


「カティ!爆裂!」

「ブラントストフの爆裂!」


カティも分かっていたようだ。予め呪文を唱えておいた爆裂の魔法をピッタリのタイミングで放つ!


ドグオオオオン!!


痩せ細ったウォルフラムウルフの体毛は爆裂の熱風には耐えきれず、キラキラと銀灰色のカケラを撒き散らして爆散した。

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