第七十九話 名物
もう今日は疲れたので、クエストはしないでおこうという事になった。
まあ、焦っても仕方ない。
その代わり別のお金儲けが無いか探る事になった。
「商売だ!何か売って大儲けだ!」
「そんなにうまくいく訳ないでしょ。思い付きで大儲け出来るなら、今頃この辺りは大富豪の町になっているわよ」
「いや!こういうのは勢いが大事なんだよ!やる気が有ればうまくいく!」
「クロード、アニエスの言う通り、商売ってなかなか成功しないと思いますよ?よく考えないと」
「うんうん。そうだな!アリアの言う通りだ!慎重に考えて行動しないとだな」
「ちょっと、ちょっと、なんでアリアの言う事は素直に聞くのよ。キーッ。悔しいー。アリアにクロードを取られたー」
え?え?僕、クロードなんていらない。
取ってなんかないよ?返すよ?
「アリア、、、。もしかして、わたしの冗談って分かりづらい?今のは平気だと思ったんだけど」
「え、、、、あ、分かってましたよ?クロードは別に私の言う事は聞いてないですもんね!」
「あらら〜」
何だろう、アニエスから生暖かい視線が来るんだけど。
ああ、クロードからもだ。
「まあ、それはいいとして、商売というか、何かを売って稼ぐって言うのはアリだと思うの。そこで、強力な助っ人を呼んでおいたの」
「呼んでないよな。今日は最初から会う予定だっただろ」
「まあ、そこはいいじゃないの」
アニエスの家の近くにある、おしゃれなカフェに来た。
窓ガラスには蔦が絡まっていて、ドアをくぐるとカランカランとドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜、3名さまですか?」
「あ、待ち合わせで、、、あ、あそこにいました」
奥の席に男女3人の若者が座っていた。
若者というか、僕達と同じくらいの歳だから、13〜14くらいだろう。
そう言えばアニエスはいくつなんだろう。
「待たせたな、悪い悪い」
「いや、問題ない。カフェで女子2人に囲まれる、、、なんて至福のひと時だったことか!」
「そ、そうか。それは良かった」
「良くない!もーずっとエリックの自慢話で疲れたわ!」
「ごめんねー。フェリシー、エステル。エリックだけ別の待ち合わせ時間にすれば良かったわー」
それでいいんだろうか。
エリックとやらの扱いが雑なのは皆んな周知の事実らしい。
「おおおお!この可憐でキュートでドールのような女子はどちら様かな?俺は全ての可愛い女性の味方!貴公子エリック・カンデラと申します。以後、お見知り置きを」
「は、はあ。リーン、、、アリアージュ・ミヌレです。よろしくです」
「うわああ!可愛いー!何この子!何処で拾ってきたの?」
「ほえー、、、。ホントに、お人形さん、みたい、、、」
うおっ。一気に囲まれた。
こういうの困る。
アニエス〜、助けて〜。
「ほらほら、アリアが困ってるじゃないの。ここのウエイトレスさんも水を持ってきたがってるんだから、早く席について!」
「「「は〜い」」」
息ピッタリだな。
最初に話し掛けてきたキザっぽい女好きそうな男子がエリック・カンデラ。13歳。僕と、、、アリアの歳と同じだ。
次がフェリシー・コロナ。15歳。ちょっと歳上。腰まであるストレートの薄茶の髪。タレ目で、少し緩そうな表情の割には、赤味がかった瞳から放たれる力強い眼力は、歳相応の大人っぽさと、人を見定める力があるように見える。
最後に、エステル・フーリエ。12歳。おお、歳下だ!
中身でいくと歳上だけど。
この子は逆に、やや吊り上がった青い目は半分閉じていて、睨んでいるのか眠いんだか分からない。ボーッとしているだけかもしれない。
僕より少しだけ背は高く、ぴったりした服が無いのかブカブカで、袖も手の半分くらいを隠している。
そして、、、
「この子、、持ち帰っても、、、いい?」
こういう事を言う子、らしい。
アニエスに「ダメ。わたしんちに持ち帰るんだから」という爆弾発言、、、でもないか、、、とにかくその発言により、僕はエステルの物にはならずに済んだ。
「アリアは今、ちょっと困っていてさ。わたしの家に泊まっているの。それで、お金を稼がないといけないのよ」
そんなざっくりとした説明じゃ伝わらないよ。
クロードが、僕のお金が必要な事情やクエストは一度行ってきた事、そして、次には物を売って稼ぎたいという事を説明してくれる。
こういった説明はクロードが得意なようだ。
というより、アニエスが苦手なだけかもしれないけど。
「お金儲け?楽しそうね」
「何、、、売る?」
「俺様と1日付き合える権利を!金貨1枚で!」
「何を売るか、それが問題なのよね」
「まあ、そんなに簡単にいく訳ではないからな」
「ええ?何よクロード。それって、さっきわたしに言われた事じゃないの〜」
わははは〜と皆んな笑ってるけど、エリックのはスルーでいいの?
「やっぱり手っ取り早いのは食べ物よね。ブロシェットとかなら気軽に買ってもらえそうじゃない?」
「串焼き肉か。物は悪くないけど、屋台は腐る程町の中に出ているぞ。その中に入り込むには何か売りになる物がないとな」
そうだよね。
競合が多ければ苦労も大きいよな。
それだけ売れる商品なんだろうけど。
素人の僕達が始めるなら、独創性のある物じゃないと、だな。
フォルクヴァルツなら屋台で買う食べ歩きといったら、ブラートヴルストとか、ポメスとかかなぁ。
ブラートヴルストは焼きソーセージ、ポメスはフライドポテトの事だ。
ああいうのは人気だよね。
こっちだと何がいいんだろうか。
ああ、食べたくなってきちゃったよ。
「やっぱり串焼きよ!」
「いやいや、皆んな食べ飽きてるよ。肉の代わりに魚介類を刺してみるとか」
「生臭そうー」
「うん、、、臭い」
「俺が臭いみたいに言わないでくれよ」
「は!俺様の似顔絵、、、は、どうだろうか」
どうだろうか、じゃないよ。
エリックのこの仲間の立ち位置が心配になってきたよ。
僕が相手してあげた方がいいのかな。
「アリア!キミは何か思いつかないかい?」
あ、あっちから話し掛けてきた。
チラチラ心配で見てたのがいけなかったのかな。
「ああ、そうですね。ぼ、、、私の国だとインビスって言って、小さな出店や屋台で軽食とか食べ歩きできる物が多いんですけど。やっぱりソーセージとかが流行りですね。でも皆んなやってるし」
「何だ。良いのがあるじゃないか!フォルクヴァルツと言ったらソーセージ!それを屋台で売ればいい!」
「え?でもありふれた食べ物ですし」
「マルブランシュではそうでもない!まあ、あまり肉肉しい物は好まないかもしれないがな!」
ええ、それじゃあダメなんじゃ。
でも、エリックのその一声で皆んなも活気付く。
「それいいわよ。フォルクヴァルツのソーセージって美味しいって聞くわよ?」
「へぇ、何が違うの?」
「食べたい、、、」
結局、盛り上がってしまい、ブラートヴルストの屋台を出す事に決まってしまった。
「あの、でも、マルブランシュってあまりソーセージは作られていないですよね。仕入れるにしても、今はフォルクヴァルツとの物流は止まっているみたいですし」
「そうか。まあ、ない訳でも無いんだが、食べたかったな、フォルクヴァルツのソーセージ」
「クロード、目的変わってるわよ」
「ある、、、」
ん?エステルが何か言っている。
「ある、、、マルブランシュ、、、にも、、、ソーセージ、、、。アンドュイエット」
「ああ、あったな。だが少し臭いがキツく無いか?」
確かマルブランシュのソーセージ、アンドュイエットは牛や豚のモツも腸詰めの中に入れるから動物臭が強めなんだっけ。
「それなら、ザワークラウトと一緒にパンに挟んだらどうでしょう」
「なんだっけ、ザワー、、、」
「ザワークラウトです。これもフォルクヴァルツの食べ物ですけど、キャベツの酸っぱい漬け物です。こっちだとシュークルートって呼んでますね」
「ああ、あれか」
最終的にはバゲットを半分に割り、そこに薄く切ったアンドュイエットとザワークラウトを挟み、チーズをたっぷりかけて簡易オーブンで焼く、という2ヶ国混合のレシピとなった。
味付けはトマトピューレとマスタードをお客が自分で付けてもらうようにする。
簡易オーブンは石を組んだだけのものだ。
そこに火の魔法を使える人が交代で魔法をかけていく。
一度石があったまれば、後は冷まさない程度に追加掛けしていけばいい。
アンドュイエットは一から作るのは大変なので、肉屋に行って仕入れてきた。
焼く前だとかなり生臭い。
でもこっちの人はこの臭いがいいんだそうだ。
ザワークラウトはキャベツを塩と香辛料に漬けておくだけだが、漬かるのに3日間くらい掛かるので、今は出来ているものを買ってくる。
バゲットもパン屋で買ってきた。
「これ使えるだろうか」
クロードとエリックが屋台に使えそうな荷車を引いてきた。
荷台には天板を載せてあり、その上で調理をしたり販売が出来そうだ。
「材料も揃ったわ。調理器具もある、というか、いる」
「ふはは、俺たちだ」
「後は売るだけね」
「おおー」
「あ」
あと必要なのがある。
「何々?アリア〜」
「値段は、どうします?」
「「「ああ〜」」」
「フォルクヴァルツだといくらくらいなの?」
「えっとだいたい大銅貨2枚くらいですね」
「ふーむ。なら、こっちも大銅貨2枚でいきましょ」
「え、ちょっと待ってアニエス。大銅貨っていうのはフォルク貨の事だから、ブラン大銅貨2枚だとフォルク大銅貨4枚以上になっちゃいます」
「あ、そうか、なんか高いな〜って思ったのよね。なら、ブラン大銅貨1枚でいいわね」
値付けも出来たし、早速試し売りに行ってみる事にした。
まだそんなに材料を買っていないし、売れるかも分からない。
最初は様子見だ。
屋台を引いて、街の中心地、大広場に来た。
ここなら王国のインビス程じゃないけど、他の屋台も出ている。
そこに混ぜてもらい、屋台を設置する。
「まずは焼いて良い臭いで釣らないとね。ほら、オーブン役、さっさとあったまって!」
「まったく、オーブン使いが荒いな」
「クロード間違えてるわよ。人使い、ね」
最初のオーブン役はクロードとエリックの男子組だ。
ああ、楽しそう。
僕も加わりたかったけど、魔法使えないしなあ。
僕は何も出来ないでいる。
せめてバゲットをナイフで切れ込みを入れようとしたら、フェリシーに止められた。
「危ないから、私に任せてね?」
な、なら、バゲットにソーセージを挟むとか。
「熱いからダメ、、、。やけどする」
そう言って、エステルが仕事を奪ってしまった。
エステルだって、僕と同じくらいの見た目なんですけど。
うう、僕だけ役に立ってない。
何か出来ないか。
「アリア〜。こっち来て」
「は、はい!何をすればいいですか?」
「後ろ向いて」
何?リボン?
「はい出来た」
鏡を見せられると、僕の髪は後ろで1つにまとめられて大きなリボンが結ばれていた。
派手な赤に白いフリルが付いた頭からはみ出す程の大きなリボンだ。
リボンの先が2本、上に飛び出ていて、ウサギの耳のように見える。
なんだ。何か仕事をくれるのかと思ったよ。
僕は何も出来ずに待ってるだけじゃなくて、皆んなの役に立ちたいんだよ。
「じゃあ、お願いね」
「へ?な、何を」
「やーねー、宣伝に決まってるじゃないのー」
「宣伝、、、、え、、、い、嫌です!僕出来ないです!」
「お、出たな、ボクっ娘。そんな可愛く言ってもダメ。何かしたいんでしょ?」
「そんなあ、表に出ない仕事は無いんですかあ?」
「適材適所よ!これを宣伝出来るのはアリアしかいない!」
それはフォルクヴァルツの物だから、そうなんだけどさ。
うう、嫌だあ。
仕方なく、1人屋台の前に出て、宣伝をする。
(あ、あの、、、フォルクヴァルツ名物の、、、ブラートヴルスト、、、です、、、ううう、、恥ずかしい、、、)
ダメだあ。
こういう前に出て注目されるのは苦手だあ。
叙勲式の時は黙って言われた通りにしてれば良かったけど、今度は自分で考えて動かないといけない。
それに今はこの見た目だから、どう見られるのが正しいのかよく分かっていない。
僕は今、どういう風に見られてるの?!
可愛い見た目だとは自分でも思うけど、変な動きになってない?話し方も変じゃ無い?
「アリア、もっと大きな声で!」
「いいわよ〜。可愛いわよ〜」
「ふんふん、、、いける!」
最後のエステルの感想はよく分からなかったけど、でも、3人の女子に声を掛けてもらって、少しやる気が出てきた。
「ほほう、恥じらいつつも、責任感から無理に頑張っている美少女というのは、良いものだ!恥ずかしさと意地のぶつかり合い!」
「あ、ああ、あの表情は、、、、なかなかいいな」
ああああ、男子の声でやる気が消滅した。
女子って男からこういう目線で見られてたんだな。
背筋が凍るって初めて体験したよ。
今度から女子に対しての感想は気を付けるようにしよう。
「もう、男子〜。アリアの邪魔しない〜!アリア、平気だからね。こいつらには指一本触れさせやしないからね」
「う、うん。ありがと、アニエス」
アニエスが心強い。
おかしい、男子って結構怖いよ。
男子っていうより、この2人が、なんだけど。
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