第七十六話 ステータス
翌日。
朝からアニエスと外に出ている。
会わせたい人がいるのだとか。
もしかして彼氏を紹介されるのか?
お父さんはまだ結婚は許しませんよ!
なんてね。
「あ、クロード、お待たせ」
「おう、アニエス」
本当に彼氏だったよ。
いや待て、まだ彼と決まった訳では無い!
ただの友達とか、従兄弟とか、親子とかそんな感じだ!
「クロード、この子はミネット。ちょっと事情があってね。昨日ウチに泊めたんだ。ミネット。こっちはわたしのカ、カレシ、のクロードよ」
彼氏だった、、、、。
いやいや、僕が落ち込む必要は無いんだよ?
昨日会ったばかりだしね。
へっ。き、昨日は一緒のベッドで寝たんだぞ?
どうだどうだ、羨ましいだろう!
…………僕は何と戦ってるんだろう。
「ミネットです。よろしくです」
「あ、ああ、よろしく。お姫様みたいな子だね」
「ちょ、何よ!ふんっ!こういう子がいいんだ!」
「ああ、違うよ、俺はアニエス一筋だって!」
「どうだか!」
あうあう。僕を巡って争わないで!
しかも、嫉妬の対象が男性側っていうのがまた不思議な感じだよ。というか、男に言い寄られてもキモいだけだし。
「ア、アニエス?ぼく、、、私、あっち行ってましょうか?」
「もう。平気よ。ちょっと冗談言っただけだから。まったく、そんなに気にしないの。クロードはホッとしない!」
「は、はい!」
おお、アニエス強い。
「今日は予定変更ね。この子、ほっとけないから、なんとかしてあげるのよ」
「え、、、あの、今日の劇のチケットは」
「そんなのまた取ればいいでしょう?」
「うう、2時間並んで手に入れたのに、、、」
「文句ある?」
「無いです」
いやいや、デートの約束があったんならそっち優先でいいよ。
物凄くクロードに悪い気がするよ。
だんだんクロードがかわいそうになってきた。
「アニエス。私は1人で何とかなるから、アニエスはクロードと劇を見てきてください」
「そんなのいいから行くわよ!あなた困ってるんでしょ?お金もアテも何も無いあなたが1人でどうにか出来るとは思えない。昨日だって、倒れてたじゃない」
「あ、あれは、その、でも」
「はいはい!もうそういうのいいから!わたしは今日はミネットを助けるって決めたんだから!ミネットもクロードもわたしの言う通りにする事!」
「「……はい」」
僕とクロードは頷くしかない。
「ミネットの困り事が何なのか分からないと、どうにもならないから、少し聞くわよ?話せる事だけでいいからね」
「はい」
「まず、名前は、、、ま、ミネットでいいか」
「ミネットじゃないの?」
「じゃないけど、ミネットでいいわよ」
「あ、そう」
「すみません」
「いちいち謝らない!」
「は、はい!」
もう、なんていうか、全部打ち明けて楽になりたい。
でも、信じてくれないだろうな。
「じゃあ、どこから来たの?町くらいは言える?」
「えっと、王都、です」
「王都?この国に王都なんてないわよ?王政じゃないし」
「あ、ここってもしかして、マルブランシュ共和国、ですか?」
「ええ、そう、、、だけど、、、ミネットって外国人?」
「はい、たぶん」
「へぇ。どこの国?」
「フォルクヴァルツ王国、、、です」
「「ああ」」
ああ、なんだ。なんで?
「もしかしてさ、もう始まったの?戦争」
「え?あ、はい。王都では始まりました。あ、あの、どうなったか知りませんか?あの後、、、王都は、国は!」
「ご、ごめん、隣の国とは言え、この町はかなり距離があるしね。戦争が王国内で始まるって噂は届いていたけど、そのせいで、この国との交通とか、物流もみんなストップしてるの。だから、あまり情報は入って来てないかな」
「そ、そうですか、、、そうですよね」
このエピナルという町の場所は何処かは分からないけど、マルブランシュ共和国とフォルクヴァルツ王国とでは、どんなに近い村同士でも、馬車で7日はかかる。
国交は元々盛んに行われている間柄だけど、流石に戦争が国内で始まろうとしている国に行こうとする人はいないか。
「あのさ、そのブローチ、フォルクヴァルツの紋章よね。もしかして、ミネットって王族、、、」
「いいえ!いいえ!違います!あの国王と同じなんて、あ、いえ、私は王族ではないです」
「王族では、、、ね。ん。だいたい事情は分かったわよ。ところで、戦争が始まったって言ってたけど、ミネットも戦いに巻き込まれたの?」
「はい。ノルド軍がいきなり王都内に現れて、ほぼ同時に至る所で街を襲ったんです。私も皆んなと一緒に戦ったんですけど、、、」
一度死んじゃいました、、、は言えないか。
「何よ!ミネット、戦えないでしょ?そんな華奢な体で、あ、魔法使えるの?」
「はい、、、、あ、いえ、今は使えなくって、でも戦っている時は使えていたんです」
「それって、怪我してるんじゃないの?ねぇ、生命力は?どうなの?ステータス、ちゃんとチェックした?」
「え?あ、いいえ、してません」
「ダメよ!何かあったらいけないんだから、すぐステータスをチェックするのは、基本よ!もう、そんな事も知らない子が戦いなんてできるわけないじゃないの!」
いやぁ、僕にはステータスウィンドウが無いから、そういうのも知らないだけなんだよね。
ステータスってそんな大事なものなんだ。
「今すぐチェックしなさい!ほら!早く」
「え?いえ。大丈夫ですよ?」
「ああもう!自分じゃ分からない体のダメージとかを診断出来るのがステータスなんだから!いいからステータス出しなさい!」
「う、は、はい」
仕方ない。ステータスを出す振りだけでもして、問題ないって言えばいいか。
「ステータスウィンドウ」
シュッ
え?
出た。
ステータス、、、、ウィンドウ、、、。
出たよ。なんで?
僕は窓無しなんじゃないの?
あ、そう言えばこのアバターだと、スキル作成スキルが使えないって言ってたっけ。
スキル作成スキルのようなレアスキルが、ステータスウィンドウと共存出来ないって前にクロから聞いたぞ。
そのレアスキルのスキル作成スキルが無いから、このアバターではステータスウィンドウが出せたんだ。
ああ、ようやく、やっと、ついに、僕にもステータスウィンドウがやって来た!
「え?ミネット?大丈夫?何か感動してるみたいだけど、なんでステータスで感動?」
「あ、ごめんなさい。今ステータス見ます」
名前 アリアージュ・ミヌレ
性別 女
年齢 13
レベル 1
職業 天使
種族 人族
階級 なし
称号 なし
所属 なし
加護 なし
生命力 1258/3325
CP 12%
SP 3.2T/8.0T
状態 正常
スキル [鍵]
ロックされています
魔法 [鍵]
ロックされています
部隊 [鍵]
ロックされています
アイテム [鍵]
ロックされています
おお!これが僕のステータス。
名前付いているんだ。
アリアージュ・ミヌレ。
どことなくエルツ族とか神様の名前っぽい響きがする。
レベルは1か。まあ使い始めだし、仕方ない。
そして、職業はやっぱり天使か。
まあ、天使用のアバターだってカルも言ってたもんな。
あとはスキルとか魔法の横に鍵のマークが付いていて、ロックされています、と表示されている。
これのせいでスキルとかが使えないんだな。
どうすればこれは外れるんだろう。
「ねぇ、どうだった?悩んでるって事は何か問題あった?」
「あ、いえ。大丈夫です。状態は正常ですし、生命力も減ってはいましたけど、まだ半分はありました」
「そう!良かったわ!もう、心配させないでよね?」
「す、すみません」
なんだか、嬉しいな。
ステータスの会話ってした事無いし、自分の状態がはっきりわかるのも安心する。
窓持ちってこんな感じなんだあ。
「私はフォルクヴァルツに戻りたいんです。戦争の結末も知りたいですし、知り合いがどうなったのか、みんな無事なのかも分からないですし」
「そうなんだろうけど、せっかくこっちに逃げて来られたんだし、また戻ったら危ないんじゃないの?」
「でも!直前まで一緒だった人達も、私の家族も、心配なんです!」
フィア達家族や、クリスやフリーデや一緒に戦った人達。
リュリュさん達家族も気になるし、ついでに国王も生きていて欲しい。
クリスのお陰でだいぶノルドの数が減らせた筈だけど、まだどれだけ潜んでいたのかは分からない。
「ん。分かったわ。仕方ないわね。でも、今は王国への街道は封鎖されているし、手紙すらやり取りは出来ないわよ?」
「魔法の、通信の魔法は無いんですか?」
「それは、軍事用の魔法よね。一般人じゃ到底使えないわよ?それに、国と国を繋ぐ通信なんて、それこそ国家機密の問題があるから出来ないと思うわ」
そうかあ。だめか。
やっぱり、自分で国に帰らないといけないな。
「アニエス。私、やっぱり王国に帰りたい。だから、その為にここで旅をするお金を稼ぎたい。その、、、凄くワガママなんですけど、私の為に、アニエス、協力してくれませんか?」
「ふう。まだ会って1日だけど、あなたって見た目と違って頑固なのね。それが、分かったわ。いいわ。手伝ってあげる。お金稼ぎ、楽しそうじゃないの!」
「アニエス。ありがとうございます」
「これは俺も手伝う流れだな。まあ、アニエスがそうしたいっていうんなら俺は従うまでさ!」
「クロードもありがとうございます」
でも、クロードはいい事言っているようで、アニエスに頭が上がらないっていうだけのような気もする。
でも、嬉しいよ。
会って間もない僕に一晩泊まらせてくれた上に、国に帰る手伝いまでしてくれるんだから。
「じゃあ、まずは手っ取り早い方法よね!」
「ま、まさか、アニエス!法に触れる事を、、、」
「クロードは馬鹿言ってないの!ギルドよ!冒険者ギルド。あまり危険なクエストは出来ないけど、今すぐ始められて、定期的にお金を稼げるわ」
まあ、それが妥当かな。
僕もそれで最初の頃はお金を稼いでいたしね。
なんだか懐かしいな。
3人で冒険者ギルドに行く。
ギルドの中は王都のとは違って、殺伐とした雰囲気だった。
中に入ると厳つい顔のおじさん達がジロリとこっちを見る。
え、なんか怖いな。
「おいおい、ここは子供の来るところじゃないぜ」
「お母ちゃんのお使いかあ?お菓子屋は向こうだぞ」
わははは、と笑われる。
治安悪そうな所だな。
早く登録を済ませてしまおう。
カウンターは、、、あれ?一つしかない。
ここで良いのかな?
「あの。冒険者登録をしたいんですけど、ここでいいですか?」
「おう、いいぞ。ガキんちょがやれるのか?まあいいさ。これに名前とレベルだけ書きな」
順番待ちの番号も無いし、書くのもこれだけ?
王都のとはだいぶ違うんだな。
どう見てもコンシェルジュって顔の人じゃ無いし。
おじさんだし。
あ、名前か。
「ちょっと待って貰えますか」
「ん?おう?文字書けないのか?代筆なら金掛かるぞ」
「あ、いえ。ちょっとだけ」
「え?ミネット?どうしたの?」
少し端に寄って、アニエスとクロードにコソコソと小声で話す。
(あの、私の名前、なんですけど)
(あら、いいわよ。ミネットで)
(そうはいかないです。協力してくれるのに仮の名前でなんて。私はアリアージュ・ミヌレっていいます)
(アリアージュ・ミヌレ。なんだかいい響きね。アリアって呼んでいい?)
(はい!是非そう呼んでください)
よし、これで、1つ隠し事が消えたぞ。
紙にアリアと書く。レベルは1だ。
アニエスとクロードも一緒に登録をしてくれるみたいだ。
「書けました」
「おう。レベル1か。まあ、小遣い稼ぎか。そっちの2人はレベル3。ほう。まだ子供なのになかなか良いレベルじゃねぇか」
2人はレベル3。良かった。
僕だけだったら何も出来なかった所だ。
「それじゃあ、ステータスウィンドウを見せてくれ」
「え?ステータス?」
「ああ、早くしてくれ。何だ?もしや窓無しなんじゃないのか?窓無しは冒険者にはなれないぞ」
うわ、こっちじゃそうなんだ。
あの時はフォルクヴァルツで良かった。
そして、今はこのアバターで良かった。
「あ、アニエス。ステータスウィンドウを見せるのってどうすれば、、、」
「はあ、やっぱりお嬢様は違うね。基本操作も知らないで生きていけるんだから。ほら、私のステータスを見せてあげるから、同じ操作をしてみなさい」
「あ、はい。ここを、、、こうして、、、これですね」
「それから、スキルや魔法も見えちゃうから、ここも変更してね。こういう時はスキルより下は見せなくていいのよ」
危ない危ない。アニエスにも角度的に見せてなくて良かった。スキルより下がロックされてるとか、普通じゃないよね。
「うん。下も見えなくなりました。これであとはどうすれば?」
「ウィンドウの上を持って、くるってすればいいのよ」
おお、ウィンドウの上の部分に指を当ててクルンとしたら、ウィンドウがおじさん側を向いた。
「お、出来たか?どれどれ、名前は、アリアージュだからアリアか。まあ、愛称としては妥当か。あまり本名とかけ離れてるのはダメだからな。レベルは1と。そらから職業は、、、、!!て、天使!!はあ?!お前、、、あ、いや、あなた様は天使様?で?」
「へ?あ!!ああ、いや、その、うう、、、その内緒でお願いします」
しまったあ!スキルとかばっかり気にしてたけど、職業が一番出しちゃいけないヤツだったよう!
「は、はい!分かったでございます!!天使様がご降臨されて、、、この国、、滅んでしまうんで?」
「いいえ!違います!そういうのはしないので、心配いらないです」
「さ、さいですか。それで、天使様は」
「アリアで!お願いします」
「あ、アリア様は」
「あ、あの、内緒で!お願いしますう!」
「は、はい!アリア、、、、ほんとにこの呼び方で?」
「はい。そうじゃないと、、、怒りますよ?」
「はい!了解であります!ア、アリア!その、ほんとに冒険者登録をしますんで?」
「ええ。お願いします。少ししたい事がありますので。お願いできますか?」
「よ!喜んで!今カードを作りますんで!」
ふう。もう別の町に移ろうかな。
「ね、ねぇ、ミネット、じゃなかった、アリア。さっきあのおじさん、天使とか言ってなかった?あれ、どういう意味なの?」
「ああ、あれは、、、、わ、私の事が天使のようだって、事、、、かな?」
「うええ、何、口説いてたの?アリアはそりゃあ天使みたいな可愛さだけどさ」
ああ、ごめんなさい、受付のおじさん。
ちっちゃな女の子をいきなり口説いた、という不名誉をおじさんに被せてしまいました。
でも、おじさんだって、天使天使って大声で言うからだよ?
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