第四十五話 ダンジョン攻略

クロモリウサギを無事倒した後は、他にも小さな魔物が何匹も出てきた。

みんな本物の魔物だったし、ちゃんとなんちゃって剣やマナ弾に当たると倒れて目をキュッとつぶっていた。

あ、あれ?可愛い?

魔物なのに。

ルーツはエルツ族と同じなんだからこの感情は間違ってはいないんだろうけど、なんとも不思議な感覚だ。


魔物達は基本的にこちら側には攻撃をしてこない。

軽く攻撃風の動きをするけど、子供に配慮して遠くでシュッシュッと手を動かしているだけだ。

これもこれで可愛い。


「ねぇ、ご主人、私もうクエストできないかも」

「うん。僕も今そう言おうと思ってた」

「わたしは別に平気だわ」


まあ、フィアは今のところ1匹も倒していないからね。

倒してても平気そうだけど。


ダンジョンの奥の方まで来た。

この辺は魔物が全然出なくなってしまった。

また戻って、さっき倒した魔物に相手してもらうのかな。


「にいちゃん。これ何?」

「うん?床に丸い板?」


人が一人乗れるくらいの丸い板が隅の方に置いてあった。

板には取っ手が付いていて、持ち上げられるようだ。

何か埋まってる?


「開けてみようか」

「いいの?スタッフ用じゃないの?」

「いや、ダンジョンには隠し扉とか、そういうのがあるって本で読んだことがある。それだよきっと」


開けてみてスタッフの休憩室とかだったら、謝ればいいんだし。

取っ手を掴んで板を持ち上げてみる。

結構重いな。

板をずらしてその下を見ると穴が下に延びていた。

やっぱり下の階層に繋がっているんだ!


「これ、ダンジョンの通り道だよ。下の階層への階段みたいなものだよ」

「そうかしら。階段っていうよりハシゴよ?」

「でも、下にもダンジョンの風景が作られてるよ」


下の階層にもこの階と同じように岩が置かれていて、ヒカリゴケもちゃんと満遍なく配置してあった。


ハシゴを降りてみる。

地下一階だね。

上の地上一階と変わった所は無さそう。


でも、何処まで歩いても魔物が出てこない。

スタッフが配置忘れた?

それともまだ開発中のエリアに入っちゃったのか?

それだと怒られちゃうかな。


何も居ないし上に戻った方がいいか。


「ねぇ、ここ何処?」

「ダンジョンだよ」

「そうじゃなくて上の階に戻るハシゴって、どこ?」


迷った。

地下一階は上より分かれ道が多く、同じ所に戻っていたり、同じだと思ってたら違う場所だったりで、現在地がよく分からなくなっていた。

こういう施設なんだから順路とか非常口とか無いものなのか。

とにかくハシゴを見つけないと。


「にいちゃん!ハシゴあった!」

「何!いいぞブロン!」


ハシゴはあった。

床にさっきのと同じ丸い蓋があったから。

これ地下二階へのハシゴだよ!

下行きだよ!


ブロンは褒めておくけど、下へ行ってもなあ。

でも、ちょっと覗いてみるのもありか?


「ご主人?何下に行こうとしてるのよ?」

「軽く見るだけ。見たら戻ってくるから」


蓋をずらして地下二階に降りてみる。

なんだ、みんなも降りてきたの?


「ご主人を一人になんてさせられないわよ」

「リンくんが居ないと怖いだけよね」

「そうとも言う」


地下二階も上とほとんど同じ作りだった。

まあこんなのか。

違いもなさそうだし、上に戻ろうかな。

ん?向こうの通路から人影が近づいてくる。

え?人影?

スタッフが出てきた?

それとも他のお客さん?

いやに大柄な人だな。


「いや、人じゃない!クマだ!」


そこには銀色に輝くクマがいた。

もしかしてギベオンベアー?


「この魔物もこれで倒せるのかな」


ラナが恐る恐る近づき、なんちゃって剣でギベオンベアーのお腹辺りをぺちぺちと叩く。

ギベオンベアーは微動だにしない。


「ち、違うみたいね。ご主人マナ弾はどう?」

「うえっ?!う、うん、やってみるよ」


マナ弾を何発かギベオンベアーに当ててみる。

あ、ちょっと眩しそう。


「これってさ。さっきまでの魔物と違って、本物なんじゃない?」

「さっきまでのも本物の魔物だよ」

「そうだけどさ。冒険者村に雇われてるんじゃない魔物なんじゃ………」


ギベオンベアーが両手を上げて、牙をむき出しにする。


グオオオオッ!


「まずい!逃げろ!」

「うわわん。食べられるー」


みんながハシゴで登るまで僕がここで防ぐしかない。

勝てるのか?ギベオンベアーに。

ストレージからギベオンソードを出して構える。

この剣は軍を辞めたわけでは無いのと他に扱える人がいない為、そのまま持っていていい事になっていた。


「さあ、来るなら来い!家族は絶対に僕が守る!」


みんなが無事ならいい!

早く上がってくれ!


「ほほう。その剣は同志の体毛から作ったものか?それに只ならぬマナを持つ石の遣いに、あとは石の子らだな。珍しい者が来たな」


「クマさんがしゃべった?!」

「ギベオンベアーは人語を使うわよ」

「ええ?凄くない?!」


そう言えばそんな話を前に聞いたな。

このギベオンベアーは流暢にフォルクヴァルツ語を話している。

あの口でどうやってしゃべってるんだろう。


「は、話が通じるなら、出来れば僕達は戦いたくない。この剣を持ってる時点で信用ならないとは思うけど」

「心配無用だ。それは同志を倒さなくとも作れる。むしろ友情の証として分け与えたかも知れないな。いいだろう。家に来い。茶でも出してやる」


付いて行っていいんだろうか。

家に行ったは良いけど、昔話のように鍋にして食べようとするんじゃないの?

シャッシャ音がすると思ったら僕達を料理する為のナイフを研いでいた!とか。


少し歩くとダンジョンの地下二階の中に家があった。

石造りで屋根まである。

雨降らないだろうに。

というかすぐ上は地下二階の天井なのに。


ギベオンベアーは体が大きいので家の作りは人のと比べて大きめだった。

地上の物より1.5倍くらいある玄関をくぐってギベオンベアーの家に入る。


家の中は結構広く、リビングには木のテーブルに木の椅子。

その奥にはキッチンがあって、奥さんらしい人、じゃなくてクマがいた。

隣の小さめの部屋は扉がなくリビングと繋がっていて、子供らしきクマがゴロゴロ転がっていた。


「客人だ。茶を出してくれないか」

「あら、珍しい、ヒトのお客様なんて。どうぞお掛けになって下さいな」

「あ、どうもお邪魔します。お構いなく」


この椅子に座っていいのかな。

おっきいな。

よいしょっと。


「ご主人。そっち詰めてよ。一つの椅子に二人は座れそうだから、一緒に座りましょう」

「え、なんでさ。そこに座ればいいじゃないの」

「そうしないとあの人、、、あのクマさんが座れなくなるじゃないの」


椅子は6脚。こっちが6人。

このクマのお方と奥さんが座ると残り4脚で6人か。まあ、仕方ないけど、姉妹で座ればいいのに。


「粗茶ですが、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。いきなり押し掛けてすみません」

「いえいえ。お客様なんて久し振りなので嬉しいですわ。このひとお友達なんていないものですから」

「余計な事は言わんでいい。ま、まあ寛いでくれ」


これも一回り大きめのカップに紅茶が注がれている。

お茶うけにはクッキーが皿に山盛りと蜂蜜が添えられている。

やはり好物なのか?蜂蜜。


「それで、こんな奥深いダンジョンになぜヒトが来ていたんだ?」

「え?奥深い?僕達は地上から2つ階層を降りて来ただけなんですけど、ここは何処なんですか?」

「地上から2階層………。そうか上から来たのか。ここには通れないようにしておけと何度も言っておいたのだが。本来ならこの場所は長いダンジョンを抜けた先にある。だが、位置的には地上に比較的近い所だったから、上からヒトが地面を掘っていきなりここまで来てしまったのだ」


はあ、ヒトってそういうズルいところあるよね。


「そこでワタシ達はヒトと交渉をした。ここの生活を脅かさないでくれるなら、石の獣達がヒトの手助けをしようではないか、と」


石の獣。

魔物の事か。

ダンジョンを攻略しないで欲しいから、代わりに本物の魔物達がダンジョンアトラクションの魔物役の仕事をするよ、っていう話なのか。


「じゃあ、上の階に居た魔物達はみんなここの住人なんですね」

「ああ。ワタシが小さな石の獣達に頼み、毎日上でヒトの為に動いてもらっている。報酬も出るからみんな喜んでやってくれているぞ」


あのウサギ達はそういう話であそこで働いていたんだ。


「そう言えば名乗ってなかったな。リュリュ・ハーララと言う。妻はラハヤ。あの子がミルヤだ」

「あ、こちらこそ名乗らずにすみません。リーンハルト・フォルトナーと申します」


こっちのみんなも自己紹介をする。

リュリュさんか。いい名前だ!覚えやすい!


「リーンハルトはヒトの中でも強い方だと見たのだが合ってるかな」

「えっと、どうだろう、中の上くらいかな」

「ぐわっはっは。謙虚だな。それなら上を目指すか?その剣を振れるならもっと上にいて貰わないと困る」

「は、はあ」


そんな事言われてもな。最近レベル上がんなくなっちゃったし、レベルは今の7もあれば大抵の場合はなんとかなるからな。

あ、でも一度死んじゃったし、ノルドのあの人にも全然勝てなかったな。


「上、目指したいです」

「そうか、それなら、剣の腕を見てやろう。その若者の毛から作った剣ならワタシの輝く毛は斬れないだろうからな」

「あ、お願いします」


何故かリュリュさんに剣の腕を見てもらう事になった。

でも、ギベオンベアーを倒せば英雄と呼ばれるってあのノルドに人も言ってたし、なんせ見た目も強そうだしね。

稽古を付けてもらおう。


家の外に出て、二人、、、一人と一匹が向かい合う。

みんなは家の窓からそれを眺めている。


「さあ!いつでもかかって来い!思いっきり斬りつけても構わないぞ」

「じゃあ、行きます!」


これはあれだ。本当に思いっきり斬ると悲惨な光景になるパターンだから、最初は軽くが良いはずだ。

流石にもうわかって来たぞ。


上段からゆっくりめにギベオンソードを振り下ろす。

リュリュさんも左腕を上げて腕毛で剣を防ごうとしている。

あ、リュリュさんレベル高いんだな。

こっちの身体能力を少し上げてもリュリュさんの動きは全然遅く感じない。

むしろ、こっちの早さにまだ合わせてくれているみたいだ。

剣が腕に当たりガチンッと硬い音が洞窟内に鳴り響く。

そして、その後ズゾッと音がして、リュリュさんの腕に剣がめり込む。

と言うか腕の途中まで斬れてるー!


「うわあああ!ごめんなさい!ごめんなさい!こんなに斬れるとは思わなかったんです!」

「…………も、問題ない。少し皮膚まで達しただけだ。た、ただ、出来れば回復魔法を掛けてくれると助かるのだが」

「ああああ、掛けます掛けます!リーフデの癒し!リーフデの癒し!」


使えないと困るだろうからと学校が始まる前に覚えておいて良かった。

リュリュさんの深々と斬れた腕は見る見る内に回復し、銀色の硬い体毛も元どおりに治る。


「ふ、ふう。これでよし。あの、すみませんでした」

「いや何。こちらも少し油断していたようだ。次は問題ない。我が誇り高き体毛にマナを注げば硬度は更に増す。今の斬れ味は覚えたからもう斬れないぞ」


本当かな。

まあ、やってみよう。斬れそうになったら直ぐに剣を止めよう。

さっきと同じくらいの強さで剣を振る。

カキンッと今度はもっと硬い音がして、剣は止まった。

良かった〜。

これで何度も剣筋を見てもらえる。

色々な構えから攻めてみる。


「うむ、よし!なかなか良い剣筋ではないか!そうだ、下からはもっと体を捻るんだ!いいぞ!」


おお、剣の修行なんてしてもらった事無いから面白いや。

それにしてもマナを込めると強度が増すのか。

勉強になるな。

こう、自分の周りにもマナが広がるというか、例えばこの剣がリュリュさんの毛だとしたら、こんな感じでマナが。


ズゾゾッ


ああああ!マナを込めたら斬れちゃたー!

そりゃそうだ。マナ無しなら斬れるんだから、お互いマナを込め合ったら、マナ無しと同じじゃないか!


「リーフデの癒し!ごめんなさい!リーフデの癒し!ごめんなさい!」

「構わない。こうやって治してくれるしな。少し痛いが」


ううう!せっかく稽古してくれるのに、怪我させちゃってどうするんだよ!


あ!この感触!

これ、レベルアップした!

絶対そうだよ。

なんだよ、今まで散々いろんな事をしてきても上がらなかったのに、リュリュさんの腕を2回斬ったらいきなりレベルアップかぁ。

いや、ただ単に丁度レベルアップ寸前だっただけかもしれないぞ。


でも、また何回か腕を斬っても良いですか、とか言えないしな。

それでも、レベル8になれたのは良かった。

これであのノルドの隊長さんにも勝てるようになったかもしれない。

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