第三十二話 入試対策

あの後、第一会議室とかいう椅子とテーブルしかない部屋で待っているとクラさんがやってきて、年齢に関係無く受験する事を許可するという事がかいてある紹介状を渡してくれた。

国王もちゃんと書いてくれたようだ。


「まあ、私が殆どを書いて、最後の署名だけ国王なんですけどね」


一気にありがたみが無くなった。

それでも、これを持っていけば10歳の僕でも入学試験を受ける事が出来はずだ。



この調子で入試の為に必要な事を聞きに行ってみよう。

王立学園の場所はこの辺りからなら迷うことは無いだろう。

なんと言ってもあの天高くそびえる塔が最大の目印になるからだ。

あの中には学園が所有する書籍が塔の上の方まで並んでいるのだそうだ。

特に上層にある図書は貴重な物が多く、その中の一つにラーシュ写本も収蔵されている。


図書塔を見上げながら学園へと歩いていく。

気付くといつの間にか学園の敷地に入っていたようだ。

上ばかり見ていたから正門をくぐっていたのを見逃していた。

というよりこんな風に何となくで敷地に入れて良いのか?この学園。

と思ったら、お年寄りが散歩をしていたり、ジョギングをしている人がいたりと、一般人も自由に出入りできる場所のようだ。


しかし、どこに行けば良いのか分からないな。

建物がいくつかあって、塔があるのは敷地の真ん中だけど、そこは勉強をする建物とは別のようで、図書塔として独立している建物になっていた。

その塔を4つの巨大な建築物が囲んでいる。

中で誰かに聞けば良いか。

ひとまず一番近くの建物に入ってみることにした。


「待ちなさい!そこは中等部棟よ!貴方が行くべきはあちらです」


なんだかキレイなお姉さんに呼び止められた。

制服を着ているからここの生徒かな?

僕の方に近づいて来て、少しかがんで目線を合わせてくれると、背中まであるストレートな金髪がサラッと肩越しから前に流れてくる。

あ、良い匂い。

じゃなくて!


「あ、あの。次の入学試験を受けたくて、その話を聞きに来たんです」

「入学試験を?貴方は初等部ではなくて?」

「初等部?えっと、ラーシュ写本の授業を受けたいのですけど、それをするのが初等部というのですか?」

「いいえ、それなら中等部です。でもこの学園の中等部に入るには12歳になってからという規則があるのです。もう少し大きくなってから来なさい」


ああ、そうか。それはそうなるよな。


「それは大丈夫なんです。これがあるので今回の入試を受ける事が出来るんです」


そう言ってさっき貰ったばかりの紹介状を見せる。


「これは……。そうですか。今年は変わり種ばかりが受験してくるという噂は本当でしたか。飛び級のしかも国王様の招待状付きとは」

「す、すみません」

「?何を謝っているのでしょうか?分かりました。私が事務室まで案内いたしましょう」


どこに行けば分からなかったから助かったけど、建物の中に付いて行くと他の生徒からものすごくジロジロと見られている気がする。

でもよく見ると僕が見られているのではなくて、このお姉さんに視線が集まっていた。

キレイな人だし有名人なのかな?


「貴方は飛び級までして何故学園に?ラーシュ写本の授業を受けたいと言っていましたね。写本を見て何をするつもりなのですか?」

「えっと、趣味?魔法とかスキルとか、あと神様の事ももっと知りたいかなって」

「ふふっ。面白い方ね。貴方ならきっと入学できそう。私はアレクシア・ツヴァイクと申します。次の季節には中等部3年になります。貴方は?」

「あ、申し遅れました!リーンハルト・フォルトナー7段騎士です!あ、しまった段位付けちゃった」

「くっ………、くふっ。ふふっ」


うわ、笑われてしまった。

変な冗談だと思われたかな。


事務室と書かれた扉の前まで来た。


「ここが事務室です。後は中にいる人に話を聞けば良いでしょう」

「ありがとうございます。非常に助かりました」

「………貴方は、実は私より年上なのでは?」

「へ?」

「いえ。おかしな事を言いました。先程の言い回しが、くっ、ふっ。し、失礼。余りにも大人びていて、ふふっ。その、ごめんなさい。でも、あの様な冗談は嫌いではありませんよ」


ここは色々否定すべきなんだろうけど楽しそうだし、まあいいか。

さっきまでクールなイメージだったのに、今はコロコロ笑って可愛い印象になった。


「リーンハルトさん。試験、受かると良いですね」

「あ、はい。ありがとうございます」

「受かれば次の季節には、またこの学園でお会いできます。その時はレクシーと気軽に声を掛けてくださいね」

「り、了解致しました!」

「くっ、また、そんな、ふふふっ」


何か今のもおかしかったのだろうか。

女子のウケどころはよく分からない。


レクシーさんと別れ、一人事務室に入る。

中には事務の人だろうか、女性が一人だけいた。


「あのー」

「はい。あら、迷ったのかしら?」

「い、いえ。この紹介状で今回の入学試験を受けたいのですが」


これ毎回説明しないといけないのか。

この見た目だから仕方ないけど面倒だ。

いっそのこと紹介状に紐を付けて首から提げておこうかな。


入学試験は受ける事が出来そうだ。

試験料として1万9000フォルクを支払い、「試験の手引き」という資料がたくさん入った封筒をもらう。

どうやら試験日は3日後らしく、実はもう受け付けは締め切られていたそうだ。

だけど、国王の紹介状を持つ者を追い払う訳にもいかず、奥から偉そうな人も出て来て、話し合った結果、特例として今回の試験を受けても良い事になった。

なんだかお手間を取らせてすみません。


しかし、3日後かぁ。

試験勉強とか全然してないんですけど。

受験票は間に合わないので、試験当日に受付でくれる事になったから、少し早めに来てくれと言われて、事務所を出た。


さて、ギリギリだったけど、入試を受けるのは無事出来そうだから、今度は勉強というか、受かるために「傾向と対策」?とやらをしないとだ。

この言葉、絶対、真実の書の知識だな。


家に帰ると集中できなさそうだったので、近くのカフェに入って貰った資料を見てみる。


何々、試験内容は2つに分かれているのか。

前半は筆記試験か。

フォルクヴァルツ語と共通語の読み書き。

フォルク貨を使った簡単な計算。

フォルクヴァルツ王国の歴史と周辺諸国との関係。

マナの基礎知識。

魔法、スキルの利用ルール。


この内容なら何とかなるか?

読み書きとか計算は元からできていたし、王国の歴史は何故か知識があるから、多分真実の書のお陰だろう。

周辺諸国との関係は騎士団に入ってヴォーさんとかに聞かされていたから問題ない。

マナの知識とか利用ルールってどんなだ?

いま知ってるので十分なのかな。

後でラナ辺りに聞いてみよう。


後半は実技か。


実技は魔法使い系と剣士系で別れるのか。

魔法使いはマナの簡単な操作と魔法かスキルの実演だな。

剣士は剣技系のスキルを披露するのか。

お、これ、普通は片方だけを受けるけど、両方を併願しても良いみたいだ。

少しでも合格する可能性を上げるためにもどちらとも受けてみるか。

剣のスキルは無いけど、まあレベルが高ければ何とかなるでしょ。


こっちも大丈夫そうだ。

流石に実技は軍で実戦をしてるんだから余裕でしょう。

ちょっと安心してきたな。


ドンドンドン!!


「うおお!」


ビックリしたービックリしたー!

カフェの窓に何かがへばりついている。

いや、これレティだよ。



「いやあ、見つかって良かった良かった!もう、王都中を歩き回っちゃった。あ、王都中は大袈裟か」


どうやらマルネの冒険者ギルドに出した異動届はすぐに受理されて、急いで王都に向かったらしい。

だけど、僕達がどこに住んでいるのか、そもそも連絡すら付かず、途方に暮れてこの辺りをさまよっていたところ、カフェにいた僕が目に入って、さっきのへばり付きになったのだそうだ。


「あ、私も何か飲みたい!何飲んでるの?」

「えっとカプチーノだよ」

「私もそれにしよ。あ、注文お願いします。カプチーノとケシの実入りのチーズケーキくださいな」


店員がカプチーノとチーズケーキと炭酸入りの水を持ってくるとレティはまず水を一気に飲み干してしまう。

歩き回って余程喉が渇いていたみたいだ。

チーズケーキを少しずつ食べながらカフェを飲んでようやく落ち着いてきた。


「お疲れ様。今度、連絡手段は用意しておくね。あ、あと家に行ったら懺悔するから」

「えっと、前半はともかく後半は意味は分からないけどちょっとドキドキするわね。あら?これ王立学園のパンフレット。早速取りに行ったの?」

「ああうん。受験申し込んじゃった。3日後だって。入試」

「へ?3日後?そんなにすぐだったの?よく間に合ったわね、というより年齢制限はどうしたの?」


国王に会って言い争いになりつつ紹介状を書いて貰った事やそのお陰で期限を超えていたけど、受験させてもらえることなどを説明した。


「はららー。国王様に喧嘩売って紹介状もぎ取ってる来るなんて男前ね、リン君は」

「どう解釈したらそうなるのさ。喧嘩なんて売ってないよ。ちょっとだけ言い合いになっただけだよ」

「普通の一般王国民は国王様と言い合いにはならないと思うの」


そ、そうかな。


「おお、これが試験内容?どれどれ、わあ大変そう。私も受験したけど、このマナ知識と利用ルールは苦しめられたわ」

「レティって学園に行ってたんだ。その苦しめられた辺りをもっと詳しく!」

「ふあああ!リンくんにお願いされた!任せて!このレティシア・バルシュミーデがリンくんの為に一肌脱いじゃう!」

「あ、ありがと」


マナの基礎知識と魔法やスキルについての利用ルールというのは、よく知られている内容が殆どで一般的な常識を持ち合わせていれば、間違えるようなものではないらしい。

ただ、たまに嫌な引っ掛け問題があって、そのせいで毎年不合格になる子もいるのだそうだ。

レティもその引っ掛け問題のせいでギリギリの合格だったらしい。


「例えばねー。問題!『知り合いに向けて攻撃魔法を打ってはいけない』はい!マルかバツか?」

「え?マルでしょ?そんなの当たり前じゃない」

「はい、ハズレー!正解はバツでした!『知り合いでなくても打ってはいけないからバツ』だってさ!こんなのばっかりよ」


そんなバカな。質問の条件に対してはマルとしないといけないじゃないかよ!

これでバツを正解にしたら知り合いに魔法を打ってもいい事になってしまうよ。


「それホントなの?」

「ホントホント。こんなので文句言ってたら合格なんて出来ないわよ」


このタイミングでレティと話が出来て良かった。

つまり、その条件以外にも当てはまる事があるならバツにしておけば良さそうだ。


その後もレティが受けた試験内容を色々聞いて、「傾向と対策」をしていった。


「あーん、私ももう一度学校に行きたいなー」

「なんでさ。卒業してるんだし、今の公務員なら勉強し直すような必要も無いんじゃないの?」

「リンくんと同級生になりたかったの!リンくんと授業受けて、リンくんとお昼食べて、リンくんと青春したかったのー!」

「そ、そうだったのか………。レティ、今まで本当に苦労かけてごめんね。いつも独りぼっちにさせたり振り回しちゃって」

「ちょ!待って!本気で謝られると逆に苦しくなるからやめて!私、今、結構幸せだから!リンくんと一緒に住んで、なんかフィア達が増えたけど、楽しいしみんな家族だし、リンくんとは本当の意味での家族には、その、まだだけど、でもとっても幸せなの!」


あ、あれ?レティの事をまともに見れなくなってきた。

恥ずかしいからじゃないな。なんだこれ?


「あ、あのさ!家に行こう!買ったんだ。家。みんなの所に行こう!」

「え?あ、これ飲んでから!ケーキもまだ残ってる!」


レティもいつもの調子が出ないらしい。

変な動きでケーキとカフェを口に放り込んでいる。




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