第43話 謝罪と感謝です

「王女殿下、狭苦しい場所ですがこちらへどうぞ」

ジェード様に招かれて部屋の中に入とテーブルの上には見舞いの品と思われる美味しそうな木の実やら本やらお茶の葉など色々置いてあった。


私もなにか持ってくればよかったかな…元々来る予定じゃなかったから何もない…


後日改めてお見舞いの品を用意しようと思ってるとジェード様が椅子を勧めてくれる。

「あ、あの…!ジェード様はまだ横になっていてください!私は平気ですから」

「しかしアリス様の前で寝ているわけには……」

「大丈夫です、いいから寝ててください!」

私は問答無用でジェード様をベッドに押しやるとすぐ傍に椅子を持ってきてちょこんと腰掛けた。

その様子を見てジェード様は苦笑浮かべ大人しく枕に頭を預ける。

それに安堵したのも束の間、何を話良いか分からなくなった私は俯いてしまう。


体調はどうですか、って悪いのは分かるし悪くしたのはそもそも私だし…

そう、まずは謝らないと!


「あのっ…ジェード様…、怪我をさせてしまって本当に…申し訳ありません、でした」

顔を見ることができずに、かといって謝る側が顔をそらしていると言うのも失礼なのでジェードが頭をのせている枕に視線を向けて言葉を紡ぐ。

目が合っているように見えて合っていない、と言うやつだ。

「私が…もっと、しっかりしていたら、きっと…あんなことには」

「アリス様」

私の言葉を遮るようにジェード様が優しく声をかけて、私の方に手を伸ばし膝の上にあった私の手に自分の手を重ねる。

じんわりと熱が伝わって手が暖かい。


「私にとってこの傷は勲章です、ダニエル殿下と貴女を守ることが出来た証なのです。ですからその様に憂れう必要などありません、思ったより傷は深くありませんし完治するまでにそう時間はかからないとの事ですから……ね?」

ジェード様は子供に言い聞かせるように目を細めて微笑む。

あまり気にしていますと態度に出してしまえば、ジェード様に逆に気を使わせてしまうかもしれない。

私が頷くのを確認したジェード様は「それに」と言葉を続ける。


「烏滸がましいとは分かっているのですが…私はアリス様の笑顔を好ましく思っているのです。ですからどうか、笑顔でいてください。その方が私はもちろんダニエル殿下や周りの者達も喜びます」

ジェード様の言葉が頭のなかで復唱される。


好ましい……って言われた!?


自分に都合の良い部分だけだがそれだけで私の胸は高鳴り出してしまう。きっと赤くなっている頬を見られないように視線を落として俯いた。

「はい……あの、守ってくださってありがとうございます」

そう言葉にするのが精一杯だ。

「どういたしまして」

そう言ってジェード様が微笑む気配がした。

「あぁ、それと…」

ジェード様はそう呟き、手を離して枕の下をごそごそと漁る。

「これ、持っていてくださったんですね」

取り出されたものに視線を向けると少し汚れの増したお守りのリボンがそこにあった。


あの時、落としたと思ってたのに…ジェード様が拾ってくださったんだ…


「借り物だったのに中々返せなくて、しかも汚してしまって…すみません」

私が謝ればジェード様はゆっくり首を横に振る。

「いえ、持っていてくださって嬉しかったです。お気になさらないでください」

その言葉に私はさらに申し訳なくなってしまう、さっき気を使わせないようにしようと思ったばかりなのに早速気を使わせてしまっている。


「これはもう大分ボロボロになってきましたから、今度新しいものを贈らせていただけませんか?」

ジェード様の言葉に私は顔をあげた。そこまで気を使わせてしまっているのかと、凄く申し訳なくなる。

「あ、あの…そんなに気を使わないでください。寧ろ私がジェード様にいろいろ御詫びしなければいけない立場なのに…」

そう告げるとジェード様は目を瞬かせた後、私の手をとってじっと視線を合わせてきた。

「気を使っているわけではありませんよ、私がしたくてしているのです…だからどうか私の願いを聞き届けていただけませんか?」

「………本当、ですか?」

「本当です」

じっと見詰めればその瞳と視線が絡み合う。

数秒見詰め合った後、私が頷けばジェード様は嬉しそうに笑ってくれた。


コンコン


「っ!」

「!!」

急に部屋のドアがノックされて私達はびくりと肩を震わせジェード様が私から手を離す。

「ジェード、居るかい?見舞いに来たんだが」

ドアの向こうからするのは兄の声だ。なんというタイミング。

ジェード様の返答を待つことなくドアが開いて、兄が入ってきた。

「おや、アリスも見舞いに来ていたのかい?邪魔してしまったかな」

困ったように眉を下げる兄に私は首を横に振り慌てて椅子から立ち上がる。

「いいえ…私はそろそろ戻るつもりでしたから。それではジェード様、お大事に!」

慌ててぺこりと頭を下げると私は二人の顔を見ることもせず、脱兎のごとく部屋から飛び出して自分の部屋に戻った。

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