第77話 竜騎士見習いⅠ
「竜騎士、だって!?」
俺の言葉に、三人が驚く。
「それこそ今しがたジリオンが言ったように、竜に乗って戦う存在だ」
「それに、俺たちがなる……っていうのか?」
そんな反応に、ああ否、と俺は否定を述べた。
「そこまでは言ってない。興味あるかどうかで、なるならないは別問題だ」
俺の言葉に、三人がよくわからないという顔をした。
「と言うと?」
「前提がいくつかある。
まず、心構えの問題だな。竜騎士になるってことは必然的に俺たちの敵と戦う事になる。そうしたら命の危険と隣り合わせだ」
俺は、言葉を続ける。
「相手の命――それが人間だろうと魔物だろうと、奪う場面だって今後は出てくるかもしれない。もちろん、俺が盗賊相手にやったように殺さないで拘束なんて事もできるが、それはそれだけの力があっての事だ。そこで殺さなかった結果、将来自分や仲間を危険な目に合わせる可能性も出てくる。まあ、ここまでくるとただの可能性になってくるけど」
だけれども。
「戦場は、その『可能性』でいっぱいだ。それでも覚悟が出来るか、そういう話だよ」
「…………」
「で、覚悟があったとしてだ。次の問題は、竜たちがお前らを認めるか」
どちらかと言えば竜騎士云々に関して問題の重要度が高いのはこちらだろう。
「こいつらだって、俺とミドの眷属だからまだ大人しいけど、生態系の頂点に立つ『竜』だ。人を乗せて、なんてのはプライドの観点から本来許すはずは無いんだよ」
しかし、
「サラマンダーたちに、自らの背を預けるのに値する傑物、もしくは信頼できる仲間だと思わせられるなら、それも問題は無い」
前者に関しては難しい。だが、後者はどうか。
「出来ない事じゃないよな? まあ、魔人たちと仲良くなるよりは難しいのは確かだけど」
そういう事を含めての、『なる』か『ならない』かであり、その前段階が、いわば修行に『興味』があるかと訊いたのだ。
「……そこまで聞くと、即答は出来ないな」
ベリオスが目を伏せて言った。
確かにそうだろう。彼らは、少し前に未来を失うところだった。それをわざわざ危険に晒すというのは、憚られるはずだ。
「俺は、お前らアルドスの子どもたちを戦わせるつもりは無かった。今もそうだけど」
それでも、こんな可能性の提案をしたのには理由がある。
「お前らが隠れて鍛錬してるのは知ってるからな」
「!?」
そう、亜人たちの中で自主的に鍛錬を行なっている者たちが居た。それが、この三人と数名の少年少女たちだ。
「魔人たちの鍛錬の様子を見様見真似でやってる、ってところか?」
俺の言葉に、ジリオンがため息をついた。
「……だって仕方ないだろ。まともにやろうもんなら――」
「大方、俺やジョルトから止められると思ったからだろ?」
こくり、と三人が頷く。
「まあ、おっさんはよく思わないだろうな」
ジョルトはアルドスのリーダーだった存在であり、亜人の中で唯一生き残った大人だ。子どもたちを守らねばならないという思いは強いだろうし、それは俺とて理解している。
それゆえに、亜人は戦闘系には組み込まないという考えだった。
「……サキト殿は、どう思う? 私たちが力を欲する事について」
ベリオアスが、ジルニトラから離れ、こちらをまっすぐに見て訊いてきた。
「……力を求めるのは悪くない。だけど率直に言って、戦闘系を望むのは止めた方がいいのは確かだ。お前らは魔人たちと違ってスキルを持っていないし、頑丈な身体の作りでもない」
魔人は、元の魔物にもよるが、人間よりは身体が頑丈だ。
「それに、さっきも言ったが戦場は常に危険と隣りあわせだ。気がついたら死んでたなんてよくある話だしなー」
皆、そうならないために己の力を高めている。
しかし人間、努力だけではどうにもならない事もある。
成長限界。
普通の人間では、どれだけ努力を重ねても力の上限にすぐに到達してしまうのだ。
「ではやはり――――」
「ただし、だ。お前らはエルフの血を引いている。俺もエルフについてはよくわからないけど、だいたいエルフってのは魔力が高い傾向にあるらしいんだ」
これはジンタロウの言なので、自分としては断言できない。だが、亜人について気になっている事もある。
「ジョルトのおっさんが、俺のポーションで若返っただろ? あれの副作用――いや、若返った事自体がもう副作用なんだけど、加えて何故か魔力の質と量が微妙に上がってるんだ」
これについて、ゼルシアたちと話し合った結果、エルフの血が活性化したのではないかという仮定が出ている。
「ちゃんと調べないと解らないけど、不老長寿とかのエルフの特徴が蘇ってる可能性もある」
これはもう近日中にジョルトに調査対象になってもらうことで了承を得ている。
「魔力による身体強化は、魔力が強ければそれに比例して良くなる」
「ということは、魔人の皆さんと同じように戦えるという事ですか?」
キリューの問いに、頷きを返す。
「スキルに関しては、なんで魔人のみんなが持ってるかもよくわからないからなんとも言えないけど、普通に戦う力はただの人間以上に手に入るだろ」
「なるほど……」
ベリオスが口元に手を当て、考え込む姿勢をとった時だ。
「…………俺はやるぜ」
ジリオンが右の拳と左の掌をぶつけ合わせて言い放った。
「ジ、ジリオン。そんな簡単に決めちゃって良いの!?」
「キリュー、何も出来なかったんだぜ、俺たちは」
「ジリオン……」
あの日の事を言っているのだろう。
「今だって守らなきゃいけないやつが多い。そんな中、またあの日みたいなことが起こって、何も出来ないなんてのは俺には我慢ならない!」
「ぼ、僕だってそうだよ!」
「……ああ、そうだな」
想いは同じだと、キリューとベリオスが応える。
「だったら、答えは一つだろ」
拳を握り、ジリオンが言った。
覚悟はあると。それは、こいつらの目を見れば解る事だ。
(あえての脅しも逆に奮起させたみたいだしな……)
ならば、こちらが言う事は一つ。
「まあ、いいんじゃないか? 勝手に暴発されても困るし、燻ってる奴らを放って置く程、人手に余裕があるわけでもないからな」
これは事実だ。
アルカ・ディアスの人員は非戦闘員を合わせても現状百数名。機工人形を量産はしているが、それでも限界がある。
(それに竜と一緒の方が機動力も攻撃力も高いから逆に安全かもしれないしなー)
思い、ふうと息を吐いた。
「……ジョルトには俺から言っておくけど、後でお前らも自分で言っておけよ?」
本人たちが言わなければ、彼も納得するものもしないだろう。
ただ、彼らが努力を重ねるのであれば、俺も出来うる限りのバックアップはする。
だから、最初のアドバイスをする事にした。
「あー、じゃあ、竜騎士になる条件。さっきの覚悟云々はクリアしたとして、竜との信頼関係の方な」
それをクリアするには、一つ。
「とりあえずお前ら、竜たちとずっと居ろ、食う時も寝る時も」
そうして、三人の青年たちは竜騎士見習いとなったのだ。
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