夢を叶えた貴女へ



 拝啓、

 春爛漫の好季節を迎え、毎日お元気でご活躍のことと存じます。


 ……とか堅苦しい感じで書き始めたけど知っての通り私堅苦しいの苦手だから普通に書こうかな。


 やぁ、娘よ、元気かい? (笑)

 忙しいのは分かるけど……彼氏とばっかりいないで実家にも少し顔を出してほしいかな。


 知ってるでしょう、お母さん寂しがりなの。

 また桜の木の下でお父さんに「春が帰って来てくれないの!!」って泣かなきゃいけないじゃない! 少しは顔を見たいもんだよ。



 そういえば夢を叶えたお祝い、そしてお母さんに綺麗な青のネイルをしてくれたお礼に、何時だったか聞いてくれた「なんで春なのに爪が青いのか」という質問に答えようと思います。


 それはね、貴女に見せていなかった方の手紙に答えがあります。その手紙はいつか貴女が結婚するときに見せてあげるね。




 軽くは高校生の時に話したかもしれないけど……重複する内容だったらごめんね。まぁ単刀直入に言うとお父さんとの思い出、かな。



 一緒に海辺を歩いた時の思い出として、その夏に青く塗ったの。爪に思い出を閉じ込めたかったの。まだその時大学生だったのに、お父さんったらプロポーズみたいなこと言うんだもん、ビックリしちゃったよね。 

 その後も爪が青いままだったのは、私の仕事が忙しくなってしまったり、お父さんが入院したこともあってそのままネイルを落とす機会を失っちゃっただけなんだけどね。




 結局そのまま私は春を迎えてしまって……そうして爪は青いままお花見に一緒に行って、あの木の下で躓いたと(笑)



 けどその次の春を一緒に迎える事は無かった。あの人の隣を歩く事は無かった。


 一緒に桜を見て回った次の年に貴女のお父さんが亡くなったの。



 私は何も出来ない自分が悔しくて、しばらくは何もせず泣いてばかりいた。


 そんな中、病院に残っていたあの人の荷物とかを片付けているとき、担当だった先生が来て、

「僕が亡くなったら彼女に渡してくれってさ」

 と、私は先生からとある手紙を受け取った。


 そこにね、

『貴女の爪はまだ青いままなのでしょうか? あの海のようにキラキラして透き通った色のネイル、僕は好きだったよ。』


 って書いてあったのよ。死んでから言わないでよ、面と向かって言ってほしいよ! って感じでしょう? もう本当にあの人には何度頭を抱えさせられたことか……(笑)



 まぁ僕は好きだったよとか書かれちゃったら毎年青にするしかないよね。分かってくれる? 別にお子さまには分かんなくてもいいけどね! (笑)








 今でもね、お父さんと結婚したことで幼かった春を置いて仕事に行ったことは申し訳無かったと思ってる。ごめんね。


 でもそれ以上に私はあの人との間に出来た貴女を他の誰かにも触れさせず、大事に育てたかった。それだけは許してね。



 結局私は自分の幸せだけを求めちゃったのかもな……反省してます。春が嫌いになっても仕方ないとは思ってるよ。自分勝手な親でごめん。



 来週あたりにまた『お父さんの木』に会いに行くためにお花見に行こうと思うんだけど、一緒にどう? 勿論あんたの彼氏連れてきてさ(笑)

 あ、嫌だったら断って。1人で日本酒煽ってベロベロになりながら桜の木抱えて泣くから。母が不審者になる前に一度帰っておいで。これでも心配なんだよ?



 まぁこれ以上書いて『チッ、お節介ババアが!』ってなりたくないからここらにしておこうかね。


 命令:健太も連れてさっさと帰って来い、高松くんもあんたのお父さんも(多分)心配してるから。


 以上、言いたいこと全部は言えてないから今度会ったときに話すね。じゃあね。


                 敬具


           寂しがり屋な母より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青い便箋 東雲 彼方 @Kanata-S317

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ