76 状況把握(脱出は一瞬)
「ここ、どこ?!」
最初に目を覚ましたのは、私だった。
キョロキョロと辺りを見渡しても、真っ暗で周りをよく把握できない。
けれど、なんとなく鉄格子らしきものが見えるから、多分ここはどこかの牢だ。
近づいて触ってみたけど、鉄格子だった。
さて、私たちはどうしてこんな場所に飛ばされたんだろう。
時間稼ぎみたいなニュアンスのことをアズダハーは言ってたけど……。
うん。こういう考える系は、シェミーとかメリッサの仕事だ。
とりあえず、ふたりを起こそう。そうしよう。
さっさと決断をした私は、後ろに倒れているふたりの体を揺する。
決して諦めたわけじゃない。本当に本当だからね? 適材適所って言うじゃん! 合理的な判断なわけなんだよ。そうなの。そうなんだからっ!
「ねえ、おはよー。起きてよー。ここがどこだかわからないよー」
そんな私の困った声が聞こえたのか、すぐにふたりは起きてくれた。
「えーと、ここはどこ?」
「私にもわからない」
「閉じ込められてるんですか?」
「そうなんだよー」
起きて一瞬で、状況把握をしてしまうなんて、流石ふたりとも優秀だぁ!
これなら、なんとかなるね。うんうん。
当の本人たちは、
そして、ため息を吐いて、一言。
「「何も考える気がないね?」」
ぴったりハモった。
「あはは~、バレたか~」
バレてしまったか~。
考えるのがめんどくさくて、思考を放棄してました。
だって、私より頭良い人が、ふたりもいるんだもん。別にいいじゃん。
その代わり、力仕事で実力を発揮するわけだし。
「エイリーさ、もう少し考えなよ。そんなに難しい謎解きでもないでしょ、これ」
やれやれと言うのは、メリッサだった。
いや、メリッサというか――――
「その話し方は、ムーシュ?」
「そうそう。この状況なら、あたしの方が役に立つかなって」
確かにその通りだ。
この状況は、アズダハーが作りだしたもの。そして、それにはドゥルジとかいう上級悪魔も関わっているはずだ。
何か気になることでもあったのか、ムーシュは目を閉じた。
多分、この辺一帯の気配を辿ってるんだろう。
「ここ、なんか嫌な気配を感じるんだよね。上級悪魔の気配もするけど、それより近くになんか、いる。うーん、これは邪竜か?」
「邪竜?! 近くにいるの?!」
近くに邪竜がいるなんて、驚きだ。
そういえば、ゼノビィア――というか、アエーシュマと、邪竜を倒したことがあったなぁ……。
「厄介なところに閉じ込められたかもねぇ」
と言うわりには、そこまで深刻そうな感じはしなかった。
私だって邪竜を倒したことがあるし、ムーシュもなんらかの対処方法を知っているのだろう。
「そうでもないかもしれない。まあ、厄介な場所なことは変わらないけど」
「どういうこと?」
良い報告をするであろうシェミーの方が深刻そうな顔をしていた。
「ここ、王宮の真下みたい」
場所を知ることのできるマップを見ながら、シェミーは言う。
「マジで?!」
敵地に飛ばされたってわけか。ラッキー!
わざわざ出向く必要なくなったじゃん。
「だから、上級悪魔の気配もしたんだね。ザリチュ様があたしたちをおびき出すために、わざと気配を出していたんだ」
ムーシュも納得した様子だ。
そっかぁ。
王宮の地下に囚われてるのかぁ。
「……てか、地下に邪竜がいるって大丈夫なの?」
「一番に気にするとこ、そこ?」
「だって、偉い人が集まる王宮の地下に、あんなに大きい邪竜がいるなんて、危なくない?」
ザリチュとかなら、楽勝で倒せるんだろうけど、地上に出て暴れ出したときの被害がヤバそう。
大きさにもよるけど、下手したら王宮とか片足で潰されそうじゃん?
「大丈夫だよ。きっと、空間隔離的なことしてるはずだし、使役もしてるんじゃない?」
呆れたようにため息を吐いたあと、ムーシュが教えてくれた。
確かに、上級悪魔、しかも
状況はざっと把握できたかな。
ここは、王宮の地下牢。邪竜が近くにいる。
話からするに、計画したのは、十中八九ドゥルジなんだろうなぁ。
「空間隔離されててもされてなくても、この地下牢の出口を見つければいいってこと?」
その言葉に、シェミーもメリッサもうなづいた。
「じゃあ、とりあえず、この鉄格子、壊せばいい?」
「ちょっと待って」
え? 力強く止められたんですけど?
え? 今の脱出しようって流れだったよね?
なんで、止めるんですか??
本気でわからないんだけど……。
「その前に、聞いておかないといけないことがあります」
ぴしっと姿勢をただして、シェミーがこっちを見てくる。
敬語だし、逆に怖いよぉ。
私もつられてぴしっとすると、シェミーは満足そうな表情を浮かべた。
「こんな状況になったんだし、エイリーの隠してたこと、教えてもらわないといけないわ。話してくれるよね?」
それは「話せ」って言う脅迫じゃ……。
「話してくれるよね?」
念を押されてしまった。
笑顔が怖いよ、シェミーさん……。
こうして私は、アエーシュマとの話をひとつも漏らすことなく話したのだった。
*
「「いや、間違いなくそれが原因じゃん」」
ハモり再び。
話を聞き終えたシェミーとムーシュは、何故か納得したご様子。
「エイリーが逃亡した風に見せて、アエーシュマを仲間に引き入れようとしてるでしょ」
「まあ、簡単にアエーシュマ様のことを信用するって方が難しいか」
え? そうなの? マジで?
「この状況の原因が、私とアエーシュマの戦いにあるって言うの?」
「むしろそれしかないでしょ」
「だって、戦いのこと、誰にも漏らしてないはずだよ」
勿論、それはアエーシュマだって同じはずだ。
わざわざ、『敵にまわる可能性がありますよ~』なんてことを宣言するはずがない。
「
「え。そこまで考えられちゃうの?」
「ザリチュ様なら、やると思うよ。もしくはその会話を聞いてたか」
「ひえええええ」
頭が良い人って怖いな。
あらゆる可能性を考えちゃうんだもんな。
「でもさ、タイミングがタイミングなんだし、『もしかして?』くらいは考えようよ。相手の頭良い悪い関係なしにさ」
エイリーは少しも考えてなかったでしょと、シェミーは呆れたようにつぶやいた。
その通りなので、反論ができない。
「だって、めんどくさかったんだもん」
代わりに言い訳をしておく。
アエーシュマの考え方、あいつの“楽しい”を考えて、叶えるのがめんどくさかったんだもん。
……シェミーたちの視線が痛い。
思考を放棄してた私も悪いけど、でもだって、本気でめんどくさいんだもん。
これ以上何かを言われる前に、先手を打つことにした。
強行突破は私の得意分野だ。
「ええい。もういいでしょ。さっさと先に進もうよ!」
ふたりが何かを言う前に、魔法でドッカーンと鉄格子に穴を開ける。
「ほら、これで先に進める! 行こう行こう!」
そんなことを言いながら穴をくぐり、ふたりを急かす。
ふたりは驚いた様子で見つめ合っていたが、諦めて穴をくぐった。
よし、3人そろって脱獄成功!
「相変わらず豪快な……」
なんてつぶやく声が聞こえたけど、無視無視!
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