74 これだから悪魔は……
そんなこんなで、模擬戦当日になった。
この間、グリーが暴れた闘技場には、多くの人が集まっていた。
参加する人だけでなく、観戦する人もそれなりにいるようだった。
そこそこ人気のあるイベントのようだった。
「グループ出てるみたいだよ」
ニコレットがグループ分けが書かれている紙を見せてくれる。
この模擬戦は、バトルロイヤル形式だ。予選グループで一位になると、決勝グループに進むことができる。
参加者の人数がそこそこいるので、こうしてまとめた方が早く終わるのだろう。
決勝グループに進むと賞金が貰える。優勝すると、軍で好待遇を受けられるらしい。
予選落ちでも、使えると判断された場合、声をかけられるらしい。
まあ、実力のある人はほとんど引き抜かれているとニコレットが言っていたけど。
予選グループは4つなので、同じグループになるふたりが出てくる。
で、誰と誰が一緒になったのかと言うと。
「エイリーとゼノビィアが同じグループですね。一番嫌な組み合わせですね」
メリッサが少し難しそうな顔をする。
5人の中で誰が強いのか。純粋な力比べだったら、一番が私、次いでアエーシュマだろう。他の要素が組み込まれたら、また順番は別だろうけど。
私とアエーシュマがいきなり予選で当たってしまうのは、少々都合が悪い。
私たちの目的は、優勝することではなく、目立つことだ。
予選から、私とアエーシュマがやり合ってしまうと、決勝が霞んでしまう。
「なんとかなるでしょ」
ぶっちゃけ、それだけの問題だ。
予選で目立とうが、決勝で目立とうが、裏でこそこそやっている悪魔に見つけて貰えれば、それでいいのだ。
「エイリーって、悩みなさそうだよね」
ニコレットが呆れたように笑った。
*
「ニコレットじゃねえか」
闘技場を歩いていると、後ろから声がする。
振り返ると、そこにはグリーがぼこぼこにしたラルフとその仲間たちがいた。
「ラルフ。来てたんだ」
「お嬢ちゃんたちが出るんだろ? 見に来るに決まってるだろ」
「それもそうだよね」
グリーに負けた挙げ句、そのグリーが「私が一番弱い」と言ったのだ。
私を含め、他がどんな戦いをするのか、気になるのは当たり前だろう。
ラルフはともかく、他のメンツは私たち――主にグリーに怯えているようで、挙動不審だ。
少女にびびるいい年した男ってどうなんだろ?
ただ言えるのは、絵面がとても悪い。
元々交流があったのか、ニコレットとラルフは楽しそうに話をしている。
「ねえ、エイリー。ちょっといい?」
それに飽きたのか、アエーシュマが声をかけてきた。
*
私たちは、ニコレットたちから少し離れた、人気のないところに来ていた。
「どうしたの? 聞かれたくない話でもあるわけ?」
「うーん、そんな感じ」
私の質問に、曖昧な答えを返すアエーシュマ。
なんなんだよ、それ。はっきりしろっての。
アエーシュマはどう切り出すか迷っているようで、すぐには口を開かなかった。
様子が少しおかしい。何か、良くないことでもあったのかなぁ……。
「……ディカイオシュネーに潜んでいる悪魔、わかったよ」
「はあ?!」
「私と同じ、
へらへらとアエーシュマは笑う。
どことなく、楽しそうだ。
「なんで言わないのさ?!」
「なんでだろうねぇ~」
何がしたいんだ、こいつ。
今は仲良くやっているとはいえ、こいつは腐っても上級悪魔。あのくそ野郎な魔王の部下なのだ。
いつ裏切ってもおかしくないわけで。
契約魔法をアエーシュマにちゃんとかけてなかったなぁ。
のらりくらりとかわされちゃったんだよね。まあいっかって、私も思っちゃったし。
少しだけ、そのことを後悔した。
「この間……ギルドに言った日の夜、抜け出したのは、ドゥルジと会うため?」
「あ、気がついてたんだ。流石、踊る
変わらず、楽しそうに笑うアエーシュマ。
この悪魔、本当に掴みどころがない。
「あんたの目的は何? 味方なの? 敵なの?」
重い声で、アエーシュマに問いかける。
「裏切るなら黙ってて、ここぞってときにバラした方が良かったんじゃないの? あんたの行動、意味がわからないんだけど」
何故、私だけにこの話を、このタイミングでしたのか。
そもそも、私に負けたからと言って、魔王を裏切る行動をとったことも謎なのだ。
潜り込んだスパイにしては、魔王側の情報をかなり喋っていたし。
彼女の基準である『楽しいこと』が、意味不明なのだ。
「魔王様、今回割と本気なんだって。だから、手伝えってドゥルジに言われたんだよね」
「そんなこと言われたら、手伝いたくなくなるのが、あんたの性格だと思ってたけど」
「それはそうさ。だって、人から指図を受けて何かをするって、退屈じゃん?」
でもさ、とアエーシュマは続ける。
「魔王様、本気なんだって。惰性で続けていた、人間との戦いに本気なんだって! そんなの、楽しくないわけないよね?!」
そして、あははははと狂ったように笑い出した。
はっきり言って、不気味だった。
わからない。
こいつがわからない。
「だったら、魔王様に従えばいいんじゃないの?」
「でもさ、同じくらいエイリーといるのも楽しそう。もしかしたら、魔王様を倒しちゃうかもしれない。それを見られるのも、楽しそうなんだよ。だから私、迷ってるんだよ」
なんだそれ。
お願いだから、理解できる言語で喋ってほしい。
「……忠誠心の欠片もないんかよ」
アエーシュマの話の中でわかったのは、これだけだった。
つまりは、自分が楽しむためなら、魔王の命でさえ道具のひとつということ。
サイコパスか? サイコパスだわ。
「私はそういう悪魔だからね」
今まで見た中で、一番不気味な笑みを浮かべた。
鳥肌がたった。悪寒もする。
「だからさ、エイリー。今回の模擬戦で、私を楽しませてよ。満足させてよ。そしたら、私はエイリーにつく」
「はあ?」
意味がわからない。
「勝ってみせて」じゃなくて、「楽しませて」だって?
「それだけだから」
そう言うと、アエーシュマはみんなのところに戻って行った。
私はその場で、しばらく考えて――。
「めんどくせええええええ」
と大声で叫んだ。
わけがわからねえよ!
これだから、悪魔は!!!!
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