73 私がおかしいのか?他がおかしいのか?
いよいよ、明日は傭兵たちがこぞって参加する模擬戦の日。
勿論模擬戦に参加するからと言って、特別なことはしていない。本気を出さなくても、勝てそうな気配がするし。
まあ、一応早めに寝るか~なんて、各々が気楽に過ごしていた。
……ニコレットを除いて。
「そんな暗い顔をして、どうしたのさ?」
ニコレットは打ち合わせがあるからとか言って、今日は1日出かけていた。
で、帰ってきたらこれだ。深刻そうな顔をして、何かを考えている。
だから、「誰が行く?」「エイリーが行け」みたいな目配せ合戦があり、私がこうして声をかけることになったのだ。秒で決まった。
私に押しつけていいのかっていう疑問もあるけど、気になってるし特に気にしないでいっか。
私は優しいのだ。
「うん。ちょっと色々あって」
「なんか問題でも発生したの?」
「そんなところ」
ニコレットは眉間をぐりぐりとしながら、ため息を吐いた。
「で? 何が起こったの?」
こういうのはため込んでないで、話しちゃった方が楽になるよ。
私に解決できる問題かはわからないけど、こっちには超優秀な仲間がついてるんだから!
「ディカイオシュネーの上層部、完全に悪魔に掌握されてることが判明したわ」
「へえ、そっか。で?」
「軽すぎる」
ニコレットがまた、眉間をぐりぐりとする。
今の話で驚くところあったかなぁ。
驚くふりしとけば良かったかなぁ。
「だって、なんとなくわかってたことでしょ? 今更って感じもするし」
悪魔が潜んで何かしてるってのは、教えてもらってたし。
それくらいしか、魔王が復活したタイミングで戦争なんて仕掛けてこない。
ノエルちゃんたちが逃げてきたのもディカイオシュネーだし、前に倒したサルワだって、ディカイオシュネーで権力を握っていた。
「そうね。でも、それは一部、多くても派閥の一派くらいだと思っていた。
でも違った。意味通り、完全に支配されているのよ」
「ふ~ん?」
何が違うのかさっぱりわからないし、何が問題なのかもさっぱりわからない。
「よくわかってないわね、エイリー」
グリーは、ニコレットが頭を抱えている理由がわかるらしい。
他のみんなも、なんとなくわかっているようだった。
え? もしかして、わからないほうがおかしいの?
私の頭が悪いってこと?!
「人間はそれぞれ性格が違うでしょ? それに国を動かす上層部ともなれば、様々な思惑が飛び交って、派閥ができるもの。ここまではわかる?」
「うん。派閥争いって怖いよね」
暗殺してみたり、策を弄してライバルを破滅させたり、恐ろしいものだよね。
そんなことしてるなら、もっと別のことに時間を使えって、いつも思う。
「まとまっている国でも、大きな志は同じでも、皆が同じ意見を持っているわけじゃないわ。多少の小競り合いは生まれるのは必然のこと。つまり、完全な掌握って、想像以上に難しいのよ」
「へえ~。そうなんだ。で?」
「は?」
なるほど、驚いている理由はわかった。
偉い人たちって、色々めんどくさいところがあるからなぁ。意見なんて簡単にまとまらないよねぇ。
「いや、だって、悪魔なら魔法で色々できそうだから、洗脳とか朝飯前なんじゃない?」
「いくら上級悪魔と言っても、意思を奪うほどの洗脳魔法は何十人には使えない。殺して傀儡にした方がよっぽど早い。一応聞くけど、全員、生きてるんだよね?」
「生きてると思うわ。意思疎通はとれるし、個性も失ってないって報告があがっている」
アエーシュマの質問を、ニコレットが肯定する。
「というわけだから、軽い洗脳は使ってるのかもしれないけど、ほとんどは後ろにいる悪魔の実力ってわけだ」
「へえ。頭脳派の悪魔もいるんだねぇ」
すごいなぁ。
魔法以外の方法で、同じ方向を向かせるなんて。どんな方法を使ってるんだろ?
「ねえ、どうしてエイリーはそんなに落ち着いてるの?」
これほど説明を受けても、まだ余裕そうにしている私を不思議に思ったのか、シェミーがそんなことを聞いてきた。
「え? だって、言っちゃえば雑魚が増えただけじゃん? 戦うのにあんまり支障はないし……。親玉の悪魔を倒しちゃえば、何の問題もないわけだし?」
私の言葉に皆は何も言ってこない。
なんか、絶句!!って雰囲気だった。
……あれ? 私、おかしなこと言った? 言ってないよね?
だって、操られているからと言って、邪魔できる手段なんて限られてるし。
仮に一斉に襲いかかって来たとしても、魔法で眠らせちゃえば終わりだし。
強いて言うなら、頭脳戦であれこれ邪魔されるのは厄介。だけど、それだって強行突破しちゃえば、問題ないし?
うんうん。何も問題ないよね。
ちょっと頭が良い悪魔がいるだけだよ!
「みんな黙ってどうしたの? 慎重なのはいいことだけど、心配しすぎはよくないんじゃない?」
にっこりと笑ってみせると、皆が一斉に息を吐き出した。今まで息を止めていたかのような勢いだった。
「自信たっぷりだねぇ。流石~!」
「そんなことを言えるのはエイリーだけだよ」
「本当、頼もしいです」
「その発言を自信過剰で言ってないところが恐ろしいのよね」
彼女たちは私のことをよく知っているので、あっさりと私の考えを受け入れてくれた。
そうそう、それくらい深く考えなくていいんだよ。
「……私はもう、何にも驚きません」
ニコレットだけは、何かぶつぶつとつぶやいていてけど。
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