70 初めまして、傭兵ギルド
翌日、私たちはさっそく傭兵ギルドを訪れていた。
善は急げって言うし、細かいことを考えても仕方がない。そもそも、考えることは私の仕事じゃないし。
傭兵ギルドに入ると、中にいた傭兵が皆、私たちの方を見る。
私たちっていうか、ニコレットが連れてきた私たちってところだろう。
「ニコレットだ」「ニコレットが見たことない奴といるぞ」「見込みがある奴なのか?」
ひそひそと会話している声が聞こえてくる。ひそひそ話の意味が全くない。
聞かれたくないなら、もっと徹底してやりなよね。
ニコレットはそんなことも気にせずさっさと歩いて行く。
そんな姿に、ここで何をしてるんだよ、と思わずにはいられない。
これだけ注目を集めるんだから、相当なことをしたんだろうなぁ……。
「こんにちは。ちょっと相談があるんだけど、いい?」
「こんにちは、ニコレット様。ここで話しても良い内容ですか?」
「あ、うん。たいしたことないから」
受付嬢も慣れているのか、笑顔を浮かべて対応している。
まあ、他の受付嬢の顔は、引きつってたり目が泳いでいたりと微妙な感じだから、この人だけだけど。
ニコレット担当受付嬢ってところか。
「私、徴兵の件、断ったでしょ?」
「ええ、事情があるんですよね」
「うん。ちょっとした事情がね」
こいつ、あえて事情の内容を告げないことで、周りに勝手に想像させてるな?
この様子を見ると、ニコレットは強者の立場にいる。
そんな実力のある彼女が参加しないとなると、色々と想像が膨らむ。
軍部が潜り込ませたスパイだったり、監視者であったり、他国のスパイであったり。
どんな事情にせよ、深く追求すれば消されるだろうから、皆不用意に口には出さないのだろう。
策士だなぁ~。
別に怪しまれても、ニコレットは陽動担当みたいだから、痛くもかゆくもない。むしろ好都合って感じか。
「私的にも申し訳ないって思ってるから、代わりになる子たちを連れてきたよ。もしかしたら、私よりも強いかもね」
「そこまで言われるのですか! 相当な実力者なんですね」
「それは保障するよ。だから、一番近い模擬戦に飛び入り参加させてくれない? きっと面白いものが見れるよ」
半信半疑で私たちの方を見る受付嬢。
こんな小娘が実力者だと信じるのは無理な話だ。
それはわかる。グリーとか、シェミーとかは特に戦うようには見えないもんねぇ。
でも、みんな異常なくらい強いんだよね。
私とグリー以外は悪魔に関わる能力持ってるし。
グリーだって、お姫様のくせに剣の腕ヤバいし。
このメンバー、最強過ぎないか?
「信じられないなら、戦って実力を証明して差し上げましょうか?」
わずかに声を弾ませながら、グリーが言った。
あーあ。完全にスイッチ入っちゃったみたいだ。
かろうじてお嬢様言葉が残っているけど、目はギラギラしてて、がさつなグリーが現れるのがわかる。
「そりゃいいねぇ。ニコレットが連れてきた小娘たちの実力、見てみたいもんだ」
そんなグリーの言葉に反応したのは、がらの悪そうな男たちだった。
「俺たちも丁度5人組だし、チーム戦でもやらねか?」
「それは良い考えだね。君たちに勝てば彼女たちの実力もはっきりするしね」
ふむ。この男たちはかなりの実力者っぽい。
ニコレットもあっさりと提案を受け入れた。
う~ん。でも私的に、ひとつ引っかかることがあるんだよなぁ……。
「ニコレット、ちょっと時間頂戴?」
「いいけど、何か問題あった?」
「ひとつだけ」
ちょいちょいと手招きし、5人で輪になる。作戦タイムだ。
「おいおい、怖じ気づいたか?」なんて、下品な声が聞こえるけど、気にしない気にしない。よくあることだ。
「こうして相談しようってなったことは、やっぱりエイリーもそう思った?」
にやりと笑ったのは、アエーシュマだ。
他の3人もそれらしい表情を浮かべているので、考えていることはみんな同じだろう。
「うん。ぶっちゃけ、ひとりでも余裕で勝てるよね?」
「そうだね。その通りだよ。つまんないね」
私の質問にアエーシュマがうんうんと激しくうなずく。
この上級悪魔め。お前に敵う人なんて、滅多にいるはずないじゃないか。
「私はひとりで5人相手するのは自信ないけど、他の4人なら余裕だと思う」
「シェミーの能力は戦闘向きじゃないもんね」
戦闘向きじゃないとは言っても、シェミーの中にはザリチュの記憶がある。魔法は相当な腕前のはずだし、戦闘技術だってあるだろう。
5人相手するのも、いけると思うけどなぁ……。
まあ、こんな可愛いシェミーにそんな危険なこと、させませんけど。
「ひとりで5人の相手をするか、それぞれがひとりずつ相手をして、瞬殺するか、どっちがいいかって話ですよね?」
メリッサの質問は本当にその通りだ。
つまり、どちらの方が印象に残るかっていう話なのだ。
そんな悩ましい問いに答えるべく、真っ先に口を開いたのはグリーだった。
嫌な予感……。
「わたくしが5人の相手をするわ! いいかしら? いいわよね? 久しぶりに剣を振るえるんだもの! 盛大にやりたいわ! 5人じゃ少し物足りないけど、仕方ないわよね。だって、前哨戦だもの! ああ、楽しみだわ!!」
あの~。グリーさん? とりあえず、落ち着いてください?
色々とツッコミどころがあるんだけど、まず落ち着け。
流石に引くわ。
声をかけてみるが、止まる気配はない。当たり前だ。もう半分以上、がさつなグリーなのだ。
しかも、様子から察するに、最近は満足がいくまで剣が振れていないのだろう。
そのせいで、余計に酷くなっている気がする。
私も他のみんなも止めるのを諦めたらしく、流れに流されることにした。
「相談は終わりましたわ」
満面の笑みでグリーは剣を抜いた。
「アタシがまとめて相手をしてやるよ」
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