59 降参の意味わかってる?

「降参……?」

「あれごめん。降参の意味わからなかった?」

「それは知ってるし!」


 降参の意味くらい知ってるけど。そこまで馬鹿じゃないんだけど。

 とりあえず、魔力の弾を空に向かって放つ。どんっと花火みたいに爆破した。

 うわ~。結構魔力たまってたんだなぁ……。


「やる気出して魔法ぶっ放そうと思った瞬間に、『降参しまーす』って言われる私の気持ち考えたことある? ないでしょ。ないからそんなひどいこと言えるんでしょ」

「そんなに怒らなくてもいいじゃん。戦わずにして勝てたんだよ?」

「降参するならもっと早くしてほしかった! 何もかも無駄だった! 私、疲れてるんだよ?! それなのにクラウソラス使えないし! 最悪!!」

「そう言われても。ハンデをつけたから、勝てるかなって思ったんだけど。無理だった。ごめんね」


 今にも「てへぺろ☆」と言いそうな軽さで、アエーシュマは言ってくる。

 悪いと思ってないな、こいつ。


「そんなことより」

「そんなこと?」

「こんな無駄な口論いつまで続けるの? これこそ時間と体力の無駄」

「うぐ……」


 確かにアエーシュマの言う通りだ。

 私の時間と体力を無駄にさせたのは、そう言ってる本人なんだけどね。


「ほら。聞きたいことなんでも答えるから、言ってみて?」

「どうして若干上から目線なの。負けたのあんたでしょ」

「え? 降参したけど、負けてはないし?」

「降参の意味わかってないのあんたじゃない?」


 アエーシュマはけろっとした顔をしている。

 こりゃ一生負けたことを認めないだろうなぁ。


 まあ、いいんだけどさ。

 私の質問に嘘偽りなく答えてくれて、クラウソラスを元に戻してくれれば、私的には何の問題もない。


「それじゃ、最初の質問」

「どうぞどうぞ」

「あんた、いつからゼノビィアの体にいるの?」

「ふ~ん。それから聞くんだ。ま、そうだとは思ったけど」


 さっさと答えろ、と睨み付けると、「怖い怖い」とおちゃらけながら、座った。

 服が汚れるとか気にしないんだ。気にしなそうだけど。

 私も立っているのは疲れたので、よっこらせ、と腰を下ろす。


「最初からだよ」

「最初から?」

「エイリーと出会ったときは、すでに私はゼノビィアだった」

「そっか」

「ずいぶんあっさりしてるね? もっと驚くかと思った」


 驚いたのはゼノビィアが上級悪魔に憑かれてると知ったときだ。

 だって、上級悪魔の気配をまるで感じられなかったから。

 上級悪魔と何回も出会っている私が見逃すなんて、ありえないのだ。


 気づかなかった可能性として、考えられるのはふたつ。

 ひとつはゼノビィアが悪魔と契約してること。これなら魂は濁らないので、気づきにくい。

 ふたつは私と出会ったときに、すでにゼノビィアはアエーシュマだったということ。魂が多少濁っていても、それが当たり前だと思ってしまう。


「ゼノビィアが上級悪魔だってわかった時点で、それはわかってることでしょ」

「それはそうだね」

「それで、?」

「どうだろうね?」

「はぐらかさないで」


 ゼノビィアの瞳を真っ直ぐ見つめて言うと、アエーシュマはため息を吐いて、私を見つめ返してくる。


「とっくに死んでるよ」

「だろうね」

「わかってたなら聞くなよ。趣味わる~い」


 私はゼノビィアに魂の濁りを感じられなかったのだ。

 つまり、私の会ったことがない本当のゼノビィアは死んでる、と考えるのが妥当だ。


「あんたが殺したの?」

「まさか。濡れ衣もいいところだね」

「それ、悪魔が言っちゃう?」

「本当のことなんだから、仕方ないじゃん」


 アエーシュマが言うには。

 封印が解け、依り代を探してさまよっていたところ、森の中で死にかけのゼノビィアをたまたま見つけたらしい。

 魔力量が豊富で依り代にぴったりだったことから、彼女が息絶えるのを見届けると、その体を頂戴したというわけだった。


「ゼノビィアちゃんが優秀だったのは、中身が上級悪魔アエーシュマだったからなのでした!」


 確かにやけに信憑性の高い噂話を知ってたり、瞬間錬成とかいうオリジナルの技を作っちゃったり、戦闘能力も高かったり、上級悪魔って言われた方が納得がいく。


「それはわかった。じゃあ、次。どうして、メリッサとチェルノを使って、秘宝盗みなんかさせたわけ?」

「魔王様を復活させるため」

「そういうことを聞きたいんじゃない」

「じゃあ、どういうことが聞きたいのさ?」


 挑発するように言ってくるアエーシュマだけど、私の言葉もたりなかったので、文句を言うことは控えることにする。


「頼れる大人がいない、お金もない、明日生きていけるかわからない。そんな少女たちにそんな大罪を犯させるなんて」

「私には、私たち悪魔にとっては、罪とかそんなの、関係ないじゃん。大体敵対してる人間のあれこれ守る義務なんてないでしょ」


 そう言われれば、確かにその通りなんだけども。

 私だって、魔王を敬う気なんかさらさらないし。


「でも、悪魔と契約したメリッサはともかく、チェルノは人間だった」

「私はまだマシな方じゃない? 衣食住は保証してあげたんだし、人間を殺すことはさせてない。それに万が一捕まったら、助ける気もあったし」


 私はそこまで冷酷じゃないんだよ~と笑うが、どの口が言うんだか。

 悪魔のくせに。悪魔のくせに!!


「エイリーと出会った時点で、そんな面倒くさい心配もしなくてよくなったんだけど」

「はあ?」

「お人好しのエイリーなら、なんとかするかなって」

「他人任せすぎない?」

「事実、なんとかなったでしょ! よっ、お人好し!」


 そんな風に褒めれれても全く嬉しくないんだけどな……。


「聞きたいことは大体聞けたから、もういいや」

「あれ、そうなの?」


 他にも聞くべきことがたくさんあるんだろうけど、私が本当に聞きたかったことはこのふたつだけ。

 ぶっちゃけもう疲れたし、こんな悪魔の相手はしたくないのだ。


「で? あんたこれからどうするの?」

「え? 負けた身だし、大人しくエイリーの味方しようかなって思ってるけど?」

「はああああ?!」


 なななな、何言ってるんだこいつ。

 五悪魔衆アンユ・ダエーワとか呼ばれてる、上級悪魔でしょ? 実力者なんでしょ?! 魔王様の臣下なんでしょ?!

 そう簡単に味方するとか言っていいの?!


 当の本人は私の驚きようを見て、けらけら笑っている。


「エイリーといた方が、この先楽しそうだし。今までだって、楽しかったのは事実だし」

「そんな理由で寝返っていいの?」

「いいのいいの。ぶっちゃけ、魔王様とエイリーが戦って、どっちが勝つかわからないし。面白い方に賭けるのが、最高に楽しいじゃん?」


 ギャンブラーがいる。やべえギャンブラーがいる。


「というわけで、これからもよろしくね~!」


 こういうわけで、愉快な上級悪魔が仲間になったのでした?

 わけがわからないよ!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る