51 親友を連れてきたよ!

 私が散々辱めを受け、ひと段落ついた頃、ブライアンがやってきて、色々と伝言をくれた。


 まず、国王様と謁見は、明日の10時からということ。立ち会うのは、宰相さんとブライアンだけ。前回の私のやらかしを考えると妥当だろう。

 でも、あの宰相さんいるのかぁ……。

 シェミーは私のストッパーとして、立ち会いを許可された。ストッパーってなんだよ。


 次にネルソン公爵に『エイリーと友人が来ている』と伝えてくれたらしい。すると、ものすごい勢いで、自宅に帰っていったという。

 大方、『エイリーたんが来た?! 出迎える用意なんて、できてない! まずい! 出迎えに妥協なんて許されない! こうしてはいられない。帰って準備をしなくては』的な感じだろう。簡単に想像がつく。

 ちなみに明日の謁見、父さんは立ち会わない。まあ、健常な精神をしている人は、父さんを立ち会わせようとは考えないだろう。

 当の本人は駄々をこねてそうだが、私が帰って来たからプラマイゼロどころか、プラスなんじゃないかな。



 そんなことがあり、一応気を遣って、王城でのんびりしてから、私とシェミーはネルソン公爵家に向かった。ネルソン公爵父さんに気を遣った結果、王城で待つというのは、なんか間違っているような気もするけど、気にしたら負けだ。


 そして、私とシェミーは、ネルソン公爵家の大きな門の前で、最後の事前打ち合わせをしていた。


「シェミー、すごいから覚悟しててね」

「そんなに?」


 私がいつもに増して真剣に言うものだから、シェミーは逆に冗談かと思っているようだ。

 冗談みたいにすごいんだよ。でも、あの人たち本気でやってるんだよ。それが怖いんだよ。


「舐めてたら痛い目見るよ」

「でも、溺愛されてるのは、エイリーでしょ?」

「そうだよ。シェミーはその友達なんだからね」

「はあ……」


 シェミーの反応がイマイチなので、しっかりと説明しておくことにする。

 ちゃんと説明しておかないと、あとで絶対怒られる。ふざけて隠せるものじゃない。

 説明したって、半信半疑がいいとこだろうし。


「あのね、シェミー。ルシール・ネルソンには友達という友達がいなかったの。だから、『友達を連れて来た』って言っただけで大騒ぎだよ。『これからも仲良くしてくれ』なんて念入りにお願いされたり、『特に惹かれたところはどこだ?』なんて質問攻めにされたり」


 私でも想像がつくことだけでさえ、やばいのだ。

 だが恐ろしいことに、あの人たちは余裕で想像を超えてくる。どんな混沌とした状況になるのか、全くわからない。


「嘘……じゃないんだよね」

「信じられないでしょ。でも本当だから。頑張って」

「どっちかというと、頑張るのエイリーの方だよね?」

「私はもう慣れたというか、諦めたというか」


 それでもうざいって感じるんだから、溺愛っぷりは本当に異常だ。

 一度、医者に診てもらった方がいいと思う。医者に診てもらったくらいで、治るかどうかはわからないけど。というか、絶対に治らないと思うけど。


「……エイリーって慣れるの早いよね」

「えへへ、そうかな?」

「褒めてないよ」

「そうなの?」

「褒めてるかどうか、微妙なところ。だから、そんなに嬉しそうにすることでもないよ」


 シェミーは私の話を少し信じたのか、気が重そうだった。


「悪い人たちじゃないから! そこは大丈夫だから!」

「でも、変な人たちなんでしょ?」

「うん」

「即答……」


 間髪入れずに頷くと、ますますシェミーは不安そうな顔をした。

 一応、父さんたちのフォローをしたつもりだったのに。まあ、フォローにならないのはなんとなくわかってたけどさ。


「百聞は一見にしかずって言うしさ! 中に入りましょ」

「そもそも平民の私が公爵家にお世話になるだなんて、前提がおかしいんだよ。私、街の宿でいいよ」

「ダメだよ。私が許さない」


 シェミーにいてもらわなくちゃ困る。

 友人のシェミーがいることで、親バカ・シスコンの熱が少しは和らぐはずだ。

 初対面のシェミー、私の初めて紹介する友人なわけだから、父さんたちは最低限の常識は守ってくれるはずだ……。守ってくれるよね……?


 逃がさないぞ、と思いを込めて、私はシェミーの腕をしっかりと握る。

 シェミーと力くらべをして、負ける気など、さらさらない!


「それにもう友人が来てるって知ってるんだから、宿に泊まっても、すぐに連れ戻されるよ。遅いか早いかの問題だよ?」

「……そこまでやる?」

「あらゆる権力を行使して、1秒でも早く見つけようとするね。お金惜しまないと思う」

「権力とお金の無駄遣い……」

「皆まで言わないであげて」


 優しいシェミーもついそんなことを漏らすとは、なかなか父さんたちのヤバさが伝わって来たんじゃないかな?

 私的には大満足な結果だ。


「というわけで、シェミーに逃げ場はない! さあ、勇気を出して、一緒に行こう? ヤバさに慣れちゃえば、快適だからさ?」

「ヤバさに慣れる自信もないし、公爵家で快適に過ごせる気もしないんだけど……」

「細かいことは気にしない! そして、そろそろ入らないと、父さんたちが飛び出して来ちゃうと思う。それは嫌でしょ? ちなみに私は嫌だ」


 外でぎゅう地獄はやめてほしい。知らない誰かに見られる危険性があるなんて、考えただけで恐ろしい。


「嫌とか嫌じゃない以前に、お貴族様にそんなことさせられないでしょ……」

「でしょでしょ。じゃあ、行こう!」


 私はシェミーの腕を引っ張って、魔法で開いた門をくぐり、ずかずかと歩いていく。

 シェミーが何か言っているが、今更だ。覚悟を決めないとね!


 そして、屋敷の大きなドアをばああああんと開けて、


「ただいまっ! 親友を連れて来たよ!」


 大きな声で言った。

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