47 滞在するのはいいけど、条件があるわ。
「話はなんとなくわかった」
ブライアンが頭を押さえながら、言う。
「なんとなく?」
「お前の話なんか、なんとなくしかわからんわ!」
勢いよくブライアンはツッコミを入れると、こほんと咳払いをして、また話始める。
「だから、俺から言えることはひとつ。早く帰れよ」
「冷たっ! ブライアンがそんなに冷たい人だとは、思ってたけど!」
「思ってたのかよ」
帰れってなによ、帰れって!
そういうこと言う人だとは思ってたけど、もっと言い方ってもんがあるだろうが!
……十中八九、私のわがままで、マカリオスに来たわけだけど。
でも、マカリオスにいるだけで、ブライアンたちに迷惑をかけるつもりないし!
ファースが会いに来たら、ちょっと付き合ってもらうかもだけど! どうせ、ファース来ないだろうし!!
「ブライアン様。少しの間は滞在しても良いと思います」
一向に話が進まない私たちに助け舟を出したのは、例のごとくミリッツェアだった。
この子、本当に優秀。
「エイリーがこちらの要望を聞いてくれればですけど」
「はい???」
ミリッツェアの声が一気に低くなる。
驚いたものの、すぐに彼女が何を言っているのか理解しがたかった。
要望? 魔王討伐の他に、要望出されちゃうの? なんで?
「わからないとは言わせないわよ」
「本当にわからないんだけど」
そんな私を見て、ミリッツェアは深いため息を吐く。
「この間、マカリオスに来たとき、挨拶も何もなしに帰っていったでしょ?」
「そんなこともあったねぇ……」
「そのあと、ネルソン公爵家が一騒動起こしたのは知ってる?」
「あー、小耳に挟んだ気がする」
鬼畜国王がめちゃくちゃ怒っていたような気がする。
少し悪いとは思ったけど、仕方ないじゃん! あの人たち、おかしいんだもん!
そんなところに身を寄せようとする私ってなんなんだろうな……。
居心地はいいんだよね。あのウザ絡みがなければ。なければ、最高なんだけど!
「ちなみにどんな騒動だったか聞きたい?」
「聞きたくないです遠慮します」
何をやったのかは知らないけど、きっと想像を絶するようなことだろう。何よりそれ聞いてしまったら、罪悪感が増幅するから聞きたくない!
ルシールを溺愛してるは、私のせいじゃないもん! 私だって、被害者だもん!
「まあ、良いわ。それをおさめるために、色々な方が協力してくださったの」
「……なんかごめんなさい」
ほらああああああ!
話を聞かなくても、申し訳なくなるじゃん!
困った家族だよ、本当!
「申し訳ないと思ってるのね?」
「思ってるよ。でも逃げるように帰ったことは後悔してない」
「潔いわね」
「だって、帰してくれない可能性だってあった!」
その言葉に、若干引き気味で納得した顔をする、ミリッツェアとブライアン。
ほら! あんたたちだって否定できないでしょ!
「同情はするわ。でも、これとそれとは話は別ね」
「別にしないで。同じにして」
「無理」
即答されてしまった。悲しい。
「……でもまあ、要望を受けること自体は、別に嫌じゃないからいいんだけどね」
「そうなの?」
「申し訳ないって思ってるのは事実だし。陛下に挨拶しないで帰ったのも、よく考えたら問題だったし。できる範囲でならやるよ」
できる範囲ならね!!!
戦闘極振りの要望じゃなければ、無理だからね!!
パーティーとかに出るのは、絶対にごめんだからね!!
「言ったからな?」
「言ったよ! “できる範囲で”ってね!」
ブライアンの確認に、私は“できる範囲”を強調して、言葉を返す。
できる範囲じゃなかったら、やらないからね! だって、やっても失敗する未来しか想像つかないもん!
「とりあえず、要望は保留だ」
「え? ブライアンたちが何かあるわけじゃなかったの?」
「あるにはあるが、父上の確認を取らねばならない」
「父上……?」
「ああ、父上だ」
「マカリオスの国王陛下ってこと?」
「何を当たり前のことを言ってるんだ?」
話がめちゃくちゃ大きくなってきたんだけど?!
いや、まあ、ミリッツェアの話を聞いた時点でなんとなく察してはいたけど。
何を言い渡されるって言うのさ?! 私、たいそうなことはできないんだけど?!
「と言うわけで、国王陛下への謁見の申請をしてくる」
「えー」
「安心しろ。人数は最小限にしてやる」
「わー。ありがとー」
「心のこもってない感謝をするな」
「だって、実際嬉しくないし」
偉い人と会うの疲れるんだよなぁ。堅苦しい言葉使わないとダメだし。
アイオーンは皆フレンドリーだから、まだいい。だけど、マカリオスは貴族の国と呼ばれるだけあって、仕来りをかなり大事にするから、堅苦しいものがさらに堅苦しくなるのだ。
行きたくないよおおお。
「だから、帰れと言ったんだ。こういうことになるのは目に見えていた」
「そこまで考えてたの?」
「多少は。まあ、お前と一緒に居たくないってのが、本音だけどな。それにお前の謁見を見てるだけでストレスだ」
そして、ブライアンは簡単な挨拶をシェミーに向けてすると、立ち上がり部屋を出て行った。
「……ストレス感じるほど、ヤバい言葉づかいとか態度とか、してるの?」
「それを素で言えるエイリーをすごいと思うわ」
ミリッツェアは、呆れたようにため息をこぼした。
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