44 情報を整理してそして――

 シェミーに会ったら、次はゼノビィアやヴィクターのところに行く予定だったけど、今日聞いた情報が私のキャパシティを超えたので、私は家に帰ることにした。

 要するに、慣れない頭を使ったから、疲れたと言うことだ。仕方ない。

 たいして使ってない気もするが、細かいことを気にしたら負けなの!


 というわけで、アデルフェーでお腹いっぱいになった私は、真っ直ぐ家に帰り、ベッドでごろごろしていた。


「いや~。濃い一日だったなぁ」


 と言っても、まだ午後3時を過ぎたばかりだ。

 これ以上濃い一日にするつもりは、毛頭ないのだ。


「いろんなこと聞きすぎて、マジで頭パンクしそう」


 絶対何か抜けてるって。抜けててもしょうがないって。


「軽く情報整理しとくか~」


 わざわざ全部口に出す意味はあったのかな……? 私の他に誰もいないって言うのに。

 まあ、今更だけど。今更すぎるけど。


 声にした方が覚えるって言うし、何の問題もないよね! うんうん!

 私ってば、天才じゃない? 言い過ぎだけど!


 ……やべえ。疲れてるからか、テンションがすごくおかしい。ハイテンションすぎる。


 流石にまずいと思ったので、私は立ち上がると、深呼吸をする。

 落ち着け~、落ち着け~。


「ふう。ちょっとは落ち着いたかな」


 何回か深呼吸を繰り返すと、変わらずに独り言を呟いて、どすっとベッドに腰を下ろす。

 そして、さっそく情報の整理を始める。


「アエーシュマの正体が、まさかねぇ……」


 メリッサの口から告げられた、ある名前。

 私のよく知る名前。何回も何回も、呼んだ名前。


 あいつが悪魔だったなんてね。


 いつからだったんだろう? 

 出会ったときから、悪魔の気配は感じられなかった。

 だから、考えられる可能性としては、契約をしているか、それとも出会ったときから悪魔だったか。そのどちらかだ。

 途中から乗っ取られてるならば、魂が濁って、簡単に気がついたはずだ。


 どっちにしろ、最悪だ。


「どんな顔して会えばいいんだろうねぇ」


 マジでわからん。

 今日さっさと帰って来たのは、これが理由だったりもする。

 まあ、9割は疲れてたからだけど。


 ……『どういう顔して会えばいいのかわからない~』とか言っておけば、ちょっとはシリアスムードになるかなぁ、とか思ったんだよね。

 ならなかったけど。


 シリアスって難しいねぇ。

 これから、真面目にいろんなことに向き合っていかないといけないのに。

 ちょっとくらい、シリアスになれないといけないのに。


「無理なんだけどおおお?!」


 私、前はもっとシリアス耐性あったはずなんだけど?!

 なんでこんなにポンコツになった?!

 しんみりした雰囲気はそりゃあ、苦手だったけど、もっと我慢できてたはずで……。



 ――――もしかして、ファースたちのせい?!



 ファースたちと一緒にいる時間が増えるようになってから、私はポンコツ化し始めた気がする。

 きっとそうだ、ファースたちのせいだ。

 そうに違いない。そういうことにしておこう。


 ひとつの謎に結論がついたので、次に移ることにする。


「メリッサが言ってた、“悪魔でも、魔物でもない、不思議な何か”って、きっとシェミーとノエルちゃん、いや、アズダハーのことだよね」


 彼女たちは、人間であり、魔物である、特異な存在だ。

 ゼーレ族自体がそうなんだろうけど、シェミーたちは、ゼーレ族よりもはるかに魔物の血が濃いはずだ。

 でも、彼女たちは人間の親から生まれた人の子で、身体は人間だ。

 悪魔でも、魔物でも、人間でも、ゼーレ族でもない、何か別のもの。


 つまり、とっても複雑な存在ということだ。

 結論、雑! でも、こんくらい雑な方が私にとっては、好都合!


「そしてシェミーが言うには、ノエルちゃん、自分がアズダハーだってことを知らないっぽいんだよね」


 確かにそんな雰囲気はあった。

 シェミーと初めて顔を合わせたとき詳しくは1章3節103で、ノエルちゃんは一度、人格が変わった。


 ノエルちゃんはシェミーのことを、『姉ちゃん』と呼んだときがあった。

 そのあと、すぐに元に戻ったけど、『姉ちゃん』と呼んだことを含めて、何もかも覚えていなかった。知らないふりをしていたのかもしれないけれど、ノエルちゃんはそんなことをするわけがない。

 だって、『嘘をつくのはよくない』と、彼女自身が言ってたんだから。


 ――――いやあ、そこまで含めて計算だったら怖いけど、まだ五歳だし……。


「ノエルちゃんの身体には、ふたつの人格が存在するってことだよね?」


 上級悪魔に乗っ取られている人のような違和感を感じなかったのは、きっと元々同じ魂だからだろう。

 同じものだから、混じったところで何もからないんだろうし、そもそも生まれたときから、一緒だったのかもしれない。


「なんにせよ、身体の主導権を握ってるのは、どう考えても、アズダハーの方なんだよなぁ。厄介だなぁ」


 ノエルちゃんと正面からぶつかり合おうとしたら、間違いなくアズダハーは表に出てこない。

 だって、ノエルちゃんの人格の方が、私にとって厄介だってことを知っているはずだから。


「だとしても、私は策略には向かないし! 正面から行くしかないんだけどね!」


 あははは、と笑って誤魔化すと、私はノエルちゃんに、連絡精霊アンゲロスを送った。

 『三日後、アデルフェーで会おう』って。


 どんな展開になったとしても、必ず決着をつけなければならない。

 それがシェミーが願うことだから。


「さあて、やることやったし、寝よ」


 ふああああ、と大きな欠伸をして、私は横になった。

 朝までぐっすりだった。

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