40 騙されやすいんでね!

 メリッサたちの家を出ると、次はデジレのところに向かった。

 デジレには自分の居場所がバレないように、マカリオスの情勢――ルシール・ネルソン探しと銘打って、色々情報を探ってもらっていた。

 嘘を吐いていたわけだから、一番会うのが気まずい奴だ。


 行きたくないけど、ちゃんと説明しないといけないしなぁ……。

 さっさと終わらせて、昼ご飯を食べに、アデルフェーに行こう! 私の癒やしのシェミーに会いに行こう!


 そうやって、やる気を出して、私はデジレのいる部屋のドアをノックする。



 * * *



「……踊る戦乙女ヴァルキリーさん」


 複雑そうな顔で、デジレは私を見つめてくる。

 まあ、こういう反応が返ってくるのが普通だ。わかりきっていたことだ。


「こんにちは、デジレ。今日は、色々説明に来た。聞きたいこと、沢山あるでしょ?」


 デジレがヘラヘラしてないと、こっちの調子も狂う。なんとなく、私もしんみりしちゃうじゃないか! 似合わないのに!


「まあ、そうっすね」

「今日は何でも聞いてくれて構わないから」


 空いている椅子にすわりながら、私は言う。


「それじゃあ、まず……」


 デジレの言葉に、ごくりと唾を飲む。

 最初は何を聞かれるんだろうか。質問されるってよりも、怒られる方が先かなぁ?


「なんか元気ないっすね? どうしたんすか?」

「あんたがしんみりしてるからだよ?!」


 思い詰めたような顔から一転、デジレはいつものヘラヘラした顔に戻る。

 考えるよりも先に、私はツッコミをいれてしまうが、仕方ないと思う。


 お前が言うなよ?!

 お前の方が元気なかったじゃねえか!


「あはははっ! キレのいいツッコミっすねぇ! 流石っす!」

「ムカつく……。マジでムカつく……」


 つまり、あれだろ?

 落ち込んでるふりをして、私をからかったんだろ?


 また騙された! 悔しい!

 悔しすぎたので、どんどんと音を立てながら、床を足で踏みつける。


「こんなにあっさり騙されるとは思ってなかったっす!」

「悔しいけど、騙されやすさには定評があるんでねっ! 本当に悔しいけどっ!」


 色々な人から、口を揃えて言われるからね。『エイリーは騙されやすい』って!

 そんな評価、ちっとも嬉しくないんですけどね!


 壺にはまったのか、デジレはなかなか笑うのをやめない。

 そんなにツボることだったのか! そんなに面白かったか!


 悔しすぎて、どうにかなりそうだった。


「……どうしてこんなことしたのさ?」


 デジレの笑いが収まってきたころを見計らって、問い詰める。


「うーんとですね、簡単に言えば、腹が立ったからっすよ」

「はあ?」

「俺も情報屋っすからね。騙し合いには慣れてるつもりっす。俺も情報を手に入れるために、嘘を吐くっすからね。それに、人には隠したいことのひとつやふたつ、あって当然っす。

 だから、踊る戦乙女ヴァルキリーさんに、騙されたことには、これっぽっちも怒ってないんっす。ただ……」

「ただ?」


 デジレは私の顔を真っ直ぐ見つめて言う。


「踊る戦乙女ヴァルキリーさんに、騙されたのが、悔しくて、悔しくて! だから、仕返ししてやろうと思ったんっす!」

「……そんな理由で、あんなことしたの?」


 いやあ、確かに騙されやすそうな私に(実際、騙されやすいし)、騙されたことはかなり屈辱かもしれないけどさぁ。

 デジレのことを騙せてたのは、魔法のおかげだし。


 それに、私が言うのもなんだけど、仕返しってこんなんでいいの? はっきり言って、しょぼくない?

 もっと他にあったでしょ。私、騙されやすいから、結構なんでも引っかかると思うけど。


「そんなことってなんすか! 俺、悔しくて悔しくて、たまらないんすよ!」

「いや、しょぼいなぁって」

「こんなしょぼいので騙されると思ってなかったんすよ、こっちは! 他にも色々考えてたことあったのに、全部台無しっすよ」

「最初から、そっちをやるべきだったね。私の騙されやすさを舐めるな」

「舐めてました、すみませんっす」

「謝らないでよろしい」


 悔しいのはお互い様ってことか。喧嘩両成敗ってやつだね、うんうん。


 てか、しょぼいのに、引っかかる私って、何なの……。この騙されやすさ、異常じゃない?

 自分でも、かなりショックを受けてるんだけど。


「……とにかく、デジレは怒ってないってことで、いいのね?」

「はいっす」

「じゃあ、何も説明しなくても問題ないね!」

「なんでそうなるんすか?! 怒ってなくても、詳細は聞きたいっすよ!」

「でも、あんた情報屋でしょ? そういうの、自分で調べられるんじゃない?」

「情報屋だって、楽をしたいんすよ。本人が教えてくれるなら、喜んで聞くっす!」


 デジレはなかなか諦めてくれない。


「私だって、楽をしたいんだよ。だって説明するの、めんどくさいじゃん?」

「本音を隠す気もないっすね?!」

「隠す必要ないからね」


 そもそも私、説明するの下手くそだし。下手な奴から何か聞こうとしたって、気疲れするだけじゃん?

 素直に諦めた方がいいと思うんだけどな~。


「自分で言ったじゃないっすか! 『今日は何でも聞いてくれて構わないから』って!」

「まあ、確かに言ったけど」


 あれはデジレがへこんでるように見えたからだし。実際そうじゃなかったんだから、無効じゃん?


「だから、色々と聞かせてもらうっす」

「え~」


 結局、デジレの押しに負け、私は今回の件に関係あること、ないこと、色々なことを説明したのだった。

 本当、こいつちゃっかりしてやがる。

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