33 やっぱり、踊る戦乙女は踊る戦乙女(笑)
鎖に捕らえられたタローマティと私は、無言で睨み合いを続けた。
…………いやあ、手加減得意だとか言っちゃったけど、どうしよう?
いつも本気を出してないから、手加減が得意ってことに嘘はないんだけど、上級悪魔に対する“手加減”なんて、ぶっちゃけよくわからないんだよね。
手加減して、その隙を突かれて反撃なんてされたら、たまっちゃもんじゃないし。
このまま、タローマティを倒したいんだけど、ミリッツェアの聖魔法は使えないままだし、リュリュも無事に戻ってこれるかどうかもわからないしなぁ……。
めんどくさいっ! めんどくさいよっ!
「……この鎖、まさかっ?!」
私が頭の中で、わあああと唸っていると、タローマティが深刻そうな表情をした。
ん? そんな顔になるような鎖だったけ、これ。
「魔力を吸っている?」
「え、そうなの?」
タローマティの衝撃的な一言に、即座に言葉を漏してしまう私。
おお、それはラッキーな機能だわ。やったやった。
短い時間で、構築した魔法だから、私自身、まだ理解できてない機能もあるのだ。
私の言葉に、タローマティも、ミリッツェアも、ブライアンも、『はあ? お前、何言ってるの?』って顔をする。
そんな顔しないでほしい。
「……知らなかったのか?」
「うん。初めて使った魔法だし」
「……聞きたいことがありすぎて、逆に聞く気が失せた」
ブライアンは頭を抱えながら、はあとため息を吐いた。
私が問題児みたいな反応するのやめてよ。なんか、この空気、私が悪いみたいじゃない?
「細かいことは気にしなくて良くない? なんか楽にタローマティ倒せそうだし」
魔力を吸われてるってことは、ミリッツェアに使っている魔法に割く魔力がなくなるってこと。しかも、魔力がなくなれば弱体化するから、聖魔法であっさり倒せるはずだ。
良いことずくめだ。ラッキー☆
「細かくもなんともないだろ……」
なんて、ブライアンがぼやいていたが、気にしないことにする。気にしたら負けってことは、もうだいぶ前から知っている。
「で、どうするの、タローマティ。ミリッツェアにかけてる魔法、解くの? それとも、解かないでそのまま滅んでいくの?」
「……うわぁ、完全に詰んでるなぁ、これ」
タローマティの顔から笑顔は消えたが、まだ余裕は残っているように見える。
本当に、どうしてこいつはこんなに余裕なんだ……?
詰んでるとか言いつつも、魔法を解く気配はないし。
「早く魔法を解きなよ」
「できればしたくないんだよね」
「はあ? じゃあ、魔力の吸収スピード早めちゃおうかな?」
「初めて使った魔法で、そんなことできるわけ……」
「できるよ? ……ほらっ!」
その言葉を合図に、魔力の吸われるスピードが倍以上になる。
魔法は私の得意分野なので、こういうことは楽々にできるのだ。舐めないでほしい。
たらりと冷や汗を垂らすタローマティを見て、私はにっこりと微笑んでやる。お返しだ。
「……やむを得ない、か」
かなり苦しくなってきたのか、タローマティの息は荒い。
そして、タローマティは指を鳴らした。
「……っ!」
その瞬間、タローマティを拘束していた鎖はあっさり消滅してしまった。多分、ミリッツェアにかけていた魔法を解いたんだろう。
初めて使った魔法だったから、脆くて当たり前なんだけど、それにしたってどれだけ、ミリッツェアに魔力を割いてたんだよってツッコミを入れたくなる。
「つくづく規格外だね、踊る
「私の魔法をあっさり解いた、あんたに言われたくないんだけど」
あんただって、十分規格外じゃないか、と声を大にして言いたい。
「ふはっ! 上級悪魔と比べちゃうの? 面白いね」
「私は、面白くもなんともないよ」
何が面白いんだか、私にはさっぱりわからない。
というか、また余裕が戻って来てるし。何なの、こいつ。
「もう少し粘れれば、僕の勝ちだったんだけどね」
「はあ? 私は負けるつもりはないけど?」
「僕だって、楽に勝てるとは思ってないよ」
「だったら、どういうこと?」
「僕が勝つんじゃないんだよ。僕たちが勝つんだ」
意味がわからない、そう言葉を漏そうとしたとき、辺りの空気が一気に重くなった。ぴりぴりと肌を刺激するような、威圧感に溢れる雰囲気。
――――間違いない。
「魔王のくそ野郎?」
「我をくそ野郎と呼ぶなんて、良い度胸をしておるな」
空から魔王が優雅に降りてきた。魔王城が空の上にあるのはわかるけど、なんかそうやって登場されるとムカつく。
というか、こいつを見るのは久しぶりだ。こいつはの恨みは片時も忘れたことはないけどなっ!!
「別にはずれてなくない?」
「ちんちくりんな小娘が、我を侮辱するな」
「誰がちんちくりんだって?」
「くそ野郎って言ってきたのは、お前が先だろう?」
やっぱり、人の安眠を妨害するだけはあって、ムカつく野郎だ。
顔を見るだけで吐き気がする。
「これが、魔王……?」
「恐ろしいオーラですけど……。レベルは
「……それには僕も同意するよ」
…………おい、外野。うるさいよ?
これは戦いなんだよ? 私と魔王の真剣勝負なんだよ? お互いの尊厳をかけた、大事な戦いなんだよ?
「お前ら、うるさいぞ!」
ほら、魔王だって同じこと思ってる。
「こいつと我が同レベルだと?! ふざけるなっ!」
「本当だよ! こいつより、私の方がレベルは上に決まってるでしょ!」
「おい待て」
「何?」
そこで、魔王の制止が入る。
何か可笑しいところでもあったかな? 何もなかったはずなんだけどな?
「どう考えても、我の方がお前より格上だろう!」
「はあ~? 何をほざいてるの? この睡眠妨害魔王っ!」
「真実を告げただけにすぎんわ。この脳筋少女っ!」
「調子に乗るなよ?」
「お前こそ」
こうして、私たちの争いは激化していくのだった。
外野が、やれやれと言わんばかりにため息を吐いた気がしたが、絶対に気のせいだろう。
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