32 挑発してる方がムカついてる
「……あー、笑った笑った」
涙が出るほど笑った私は、ふう、と息を吐く。
ここまでツボにはまるとは思わなかった。引っ込み事案なリュリュの姿で、あんな男口調になられちゃあねぇ。
「で、なんだっけ?」
目の涙を拭いながら聞くが、何の言葉も返ってこない。
「ねえ、タローマティ。何の話してたんだっけ、って聞いてるんだけど」
「…………お前、変ってよく言われないか?」
「言われるけど……。急に何?!」
それ、一番に聞くことなのかなぁ?!
確かに、いきなり笑い出したのは変だったかもしれない。でも、いきなりそんな質問投げかけてくる人いる?! 話に関係ないよね?!
「流石、踊る
ははっ、と乾いた笑いをするタローマティ。その笑い、ムカつくなぁ。
「で? そろそろ本題に戻らない? あんた、なんか聞いてきたよね?」
笑ってたから、何を聞かれたか、良く覚えてないのだ。
お前が話を逸らしたのによく言うよ、とタローマティは呟くと、すっと威圧感のある顔つきに変わる。
――――流石、上級悪魔。中々強そうじゃない。
「お前はいつ、どうして、僕が上級悪魔だと、リュリュ・ゼビネじゃないと気がついたんだ?」
「最初見たときからだよ。何故かって決まってるじゃん。魂が濁っていたから。あんた、リュリュを殺したわけじゃないんでしょ?」
「僕、結構誤魔化すの上手いって思ってたんだけど、一目でばれちゃってたのか」
「……あんたは殺さないんだね」
生きている人間を乗っ取る時、少なからず魂に濁りが生じて、違和感がある。それを感じ取れる人間も少数だけどいるので、こんなことを言うのもあれだが、殺してしまった方が手っ取り早い。
サルワは必ず殺すって言ってたし。
「殺したらつまらないだろ」
「は?」
タローマティの口から出たのは、なんとも悪魔らしい言葉だった。
「僕はね、持ち主の精神力を弱らせて、身体の主導権を握る瞬間がたまらなく好きなんだよ。まあ、
リュリュなら、あっさり悪魔に屈しちゃうだろうなぁと納得してしまう。『ここはなんてこと言うの』って怒るところ何だろうけど。
そういうのは、ヒロインとかヒーローの役目で、案の定、ミリッツェアもブライアンも、タローマティを睨んで、そういうことを口々に言った。悪役令嬢の出番なんて元々なかった。
「じゃあ、私からも質問いい? どうして、ミリッツェアの魔法を封じたの?」
「そんなの決まってるだろ? 聖魔法は僕らの天敵だからさ」
「そうだろうね。でも、私が聞きたいのはそういうことじゃない」
真面目な顔をして、私はタローマティを見つめる。
「どうして、ミリッツェアだけを狙ったの? 狙うなら、私を狙えば良かったのに」
そして、挑発するように言ってやる。
だって絶対、ミリッツェアより私の魔法を封じた方が、良いと思わない? 自慢じゃないけど、私結構強いんだけど?
すると、タローマティは嘲笑を浮べた。
「馬鹿なの? できたならとっくにやってるよ」
「はあ?」
「僕の得意な魔法は、魔法封じの魔法だけど、この魔法、聖魔法と相性が悪い。だから、ミリッツェアの魔法を封じるのにも3ヶ月以上の時間を費やした。その上、踊る
そんなこともわからないのか、と呆れるようにため息を吐くけど、ちょっと待ってほしい。
内容は自分の力不足を嘆いてるように聞こえるんだけどさ、どうして私が馬鹿にされてる感じがするの? 喋り方の問題?
とにかく、タローマティ、すっごくムカつく。
「つまり、あんたが弱いってこと?」
「ま、そういうことだね」
ぐぬぬ、なんだこいつの余裕はっ!
あっさりと認めやがって、少しは挑発に乗れよ、くそ野郎っ!!
「……あんたを倒せば全部解決できる?」
「それはどうだろうね?」
だからなんでこいつこんなに余裕なのさ?!
私が本気を出したら、あんたなんて一瞬で消えちゃうのに!!
ムカつくっ!
…………て、思考が何だか、雑魚キャラが強い相手を前に見せるあれに似てるな。
あれ? これ私がやられちゃうパターン?
いやいや、まさかね!!!
「まあ、どっちでもいいや。あんたは倒す。これは確定事項なんで」
「あ、一応言っておくけど、僕が消えても、ミリッツェアにかけた魔法は消えないからね。解除方法はただひとつ。僕自身が魔法を解くことだけ」
私の殺気を感じたのか、命乞いにも聞こえる言葉をタローマティは発する。
ふ~ん、なるほどね。こうやって、私に躊躇させようというわけか。
「そうか。
…………そんなのも関係ないけどねっ!」
そう言うのと同士に、私は頭の中で構築していた魔法を発動するため、クラウソラスを抜いて、歌って踊る。
「正義の力を宿した光の鎖。聖なる加護を受けし光の鎖。正義を持って、悪を捕らえよ。光を持って、闇を消し去れ!」
クラウソラスから伸びた4本の光の鎖が、タローマティの手足を捕らえ、動きを封じた。
拘束したのは、逃げられないようにするため。前にサルワに逃げられた時、悔しかったので、こういう魔法を創っておいたのだ。
私は、学習する女なのだ。
「要するに、あんたがミリッツェアの魔法を維持するのに使っている魔力を、私との戦闘に持ち込まないといけないくらい、追い詰めれば良いんでしょ?」
「……っ!」
「私、これでも手加減するの上手だから、安心してね?」
初めて焦りを表情に出したタローマティに向かって、私はにっこりと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます