26 鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪
邪竜と下級悪魔は、街の中央の空にいた。魔物に襲われている人間たちを見ていた。
高見の見物ってわけですか、そうですか。胸くそ悪いなぁ。
「余裕そうにしてられるのも今のうちだよーだ」
ぺっと吐き捨てるように、私は呟いた。
まだ、邪竜たちとは距離があるため、あいつらには聞こえていないようだ。
幸運にも、まだ邪竜も下級悪魔も動き出す気配はない。
こいつらが本気出してたら、もっと酷い惨状になっていただろう。
君たち、よく我慢してたね、偉いね。私が倒してあげるから安心してね。
「邪竜一匹に、下級悪魔二匹か……」
視界に映るのは、合わせて三匹。
でも隠れている可能性もあるので、私はマップを確認する。だけど、他にはいないよで安心する。
流石にこれ以上いたら、重労働だよ。私でも疲れるよ。
そんなことを呑気に考えながら、私は邪竜たちに近づいていった。
* * *
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」
――――なんて声のかけて良いのかわからず、私はそんなことを口走っていた。
いや、なんでだよ。なんでこんなこと言ってるんだよ。
しかも、鬼じゃないよ。竜と悪魔だよ。
そして、心の中で自分で自分にツッコミを入れていた。
…………私、何してんの?
「……来たか、踊る
そんな私のふざけた声に、渋い声で真面目なことを返される。そして、見事にスルーされる。
喋り方からして、邪竜が言ったのだろう。下級悪魔が喋るときは片言だし。
喋る邪竜は、知能が高い証。つまりこの邪竜は相当厄介。
予想よりも面倒くさいかもなぁ……。
「ふーん。その言い方だと、私を待ってたみたいだね」
「いかにも。我らの役目は、踊る
わーお。
私、滅茶苦茶狙われてたんじゃん。まんまとおびき寄せられちゃったんじゃん。
「それにしては、人数多くない? 1対3って卑怯じゃない?」
「オマエガ、
ヘラヘラと笑いながら言うと、下級悪魔の一匹が鬼のような形相でこちらを睨んできた。
鬼というのはあながち間違いじゃなかったのかもしれない。
悪魔にだって、角はえてるし。
「あ、わかってるんだ。こんなんじゃ、私に勝てないことを」
「……油断シテルト痛イ目ニアウゾ!」
「お気遣いどうも」
ここにいる下級悪魔は、昔戦った下級悪魔たちより、断然強い。上級悪魔に近いような強さを持っているような気がする。
それに加えて喋る邪竜。
厄介だし、普通だったら負けるだろう。
でもまあ、私の場合、普通じゃないんだよなぁ。
レベル300超えてるんだよなぁ。
このくらいだったら、余裕なんだよなぁ。
「……ねえ、邪竜。役目って言ってたけどさ、お前たち、誰から命令されてここにいるの?」
「……っ!」
失言だった、とばかりに邪竜は息を呑んだ。
私、馬鹿ではないんだよね。
「教えてよ。名前とか、今そいつがどこにいるのだとか」
「……言えぬ」
「あ、そう。じゃあいいや」
こういうのは、どれだけ問い詰めても口を割らないだろう。
拷問とか誘導尋問とか、私はそういうのはできない。
だったら、潔く諦めてさっさと倒してしまおう。
――――これが、踊る
それに、早く終わらせて美味しい料理を食べたいしねっ!
私はクラウソラスを抜いて、呪文を歌う。
「輝きの弾丸、耀きの
行けっ! 打てっ! 捕らえよっ!」
光の弾を連射する魔法だ。
邪竜も下級悪魔も、いきなり浄化の魔法を放っても、消えないはずだから、こうして弱らせていくしかない。
どかーんと聖魔法をぶっ放してもいいんだけど、疲れるから遠慮したい。
どどどどど、と勢い良く、光の弾は、邪竜たちを捕らえる。
いきなりの攻撃に、かなり戸惑っている様子だ。
油断してちゃダメじゃん。
「さ、各個撃破と行こうかな」
私は光の弾を撃ちながら、邪竜たちに猛スピードで接近していく。
まず、狙いを定めたのは、邪竜。
「光よ光。纏えよ纏え。聖なる光を味方につけ、悪しきを
クラウソラスに聖魔法をかけ、光を纏う剣にする。
そうすることで、クラウソラスで魔物や悪魔を切り裂いても、浄化する事が出来るようになるのだ。
「ていやああああああっ!」
剣の正しい使い方なんてわからないけど、とりあえず邪竜の首を狙う。
剣の軌道が耀きを纏っていたのではっきりと見えた。
無事に邪竜の首を討ち取ることができたようだ。その離れた部分から、邪竜は光を帯び、消えていく。
「まずは一匹」
休むことなく、今度は下級悪魔たちに突っ込んでいく。
すぱっ、と一匹の悪魔の首を取り、倒す。
ふむふむ、結構この戦闘方法もいけるね。
「ヒイイイイイィィィィ!」
残された最後の一匹は、その様子を見て悲鳴を上げた。
まさかここまで、圧倒されるとは思わなかったんだろう。
いや~、舐めてもらっちゃあ、困るんだよね。
「……最後にもう一回だけ聞くけどさ、お前たちに命令したのって誰なの? まさか魔王に直接とか言わないよね?」
直接私を狙えって言われたんだとしたら、今すぐぶっ飛ばしに行かないとね。
私の安眠を妨害しただけでなく、食事の時間まで奪うとは。死刑だよ、死刑。
「……違ウッ! 我ラハ、タローマティ様ノ配下ッ! タローマティ様ノ命令デシカ動カナイッ!」
「ふ~ん、タローマティねぇ……」
タローマティって、もしかしなくてもあれだよね? 私が解放しちゃった悪魔だよね?
小説だと、ルシール乗っ取ってる上級悪魔のことだよね?
「情報ありがとう、悪魔さん」
そして私は容赦なく、下級悪魔の首を切り落とした。
悔しそうに悪魔は顔を歪めていた。
「ふう。これで終わりだねぇ」
周囲には誰もいない。
だからなんとなく寂しくて、街を見下ろしてみる。ファースたちの活躍のおかげで、街も落ち着きを取り戻したようだ。
「タローマティ、か」
なんとなく、全て繋がった気がする。
多分、私の推理は間違ってないだろう。
「さあて、どうやって仕留めようかなぁ……」
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