21 リュリュの気持ち
どうして、と疑問を投げかけてきたリュリュ。
そっか。リュリュにとって、ミリッツェアにとって、私は天敵みたいなものだからね。私にとっても、2人は天敵だけれども。
複雑な気持ちを抱くのはわからんでもない。だって、私だって、複雑だから。
そう思うと、あっさりと受け入れたミリッツェアって、本当にすごい。
普通、リュリュのようになるはずだ。私に怒りをぶつけたくなるかもしれない。
この子、できた子だぁ……。
「どうして、ね。本当、どうしてなのかしらね?」
リュリュの問いに、ミリッツェアははぐらかすように言う。
「私には、到底、この方と、こんな風に話すことなんて、できません……。中身は違うんでしょうけど、それでも、それでも……」
「そんなに思い詰める必要、ないんじゃないの?」
リュリュのたじたじした話し方に、少しむっときて、私は口を挟む。
元々こういう子なのはわかっているんだけど、それでもむっとくるものはむっとくる。
自信なさげに話すのは、まだ許容できる。だけど、ミリッツェアの行動を当たり前だと捉えていて、それが自分にできないことを恥じている感じが、嫌い。
ミリッツェアが異常で、リュリュが普通なのだ。何も、恥じることなんてない。
というか、自分は自分、他人は他人でしょうがっ!
「リュリュの気持ちくらい、私にだってわかる。私と仲良くしたくないなら、しなきゃいいじゃん。無理する必要なんて、どこにもないでしょ」
私だって、無理して仲良くされても、嬉しくない。そんなのいらない。
「ミリッツェアには、ミリッツェアの考えがあるように、リュリュにだって、リュリュの考えがあるでしょ。私のことが嫌なら、それでいいじゃん」
ぶっちゃけ、リュリュに深い思い入れなんて、これっぽっちもない。
ルシールが悪いことしたな〜、申し訳ないな〜、くらいの気持ちしかないのだ。
仲良くなりたいかって聞かれたら、NOだし。
こういうタイプの子、私、苦手なんだよ……。イライラしちゃうんだよ……。
「それとも、何? そんなこと我慢してまで、私と仲良くならなきゃいけない理由があるの?」
……そんなもの、あるとは思えないんだけど。
だって、中身はともかく、外見はいじめの主犯、ルシール・ネルソンだ。
中身が違うとしたって、嫌悪感が滲み出てしまうことは仕方ない。
「……あるんですよ」
ぽつりとリュリュは漏らした。
まさかまさか、そんなのあるわけないでしょ。きっと空耳だよね!
うんうん。空耳に決まってるさ!
「ごめん、よく聞こえなかった。なんて言った?」
「そこまでして、貴女と仲良くならなくてはいけない理由が、あるんです」
今度ははっきりとリュリュは言った。
「なんで?!」
予想外の答えに、私は思わず声をあげてしまう。
なんでなんでなんで?!
自分の気持ちを無視してまで、私と付き合っていかないといけない理由って何?!
「理由は、詳しくは話せないんですけれども、私は貴女と仲良くしたいんです。しなきゃ、いけないんです」
「なんで?!」
「詳しい理由はお話できません」
「いや、そういうことじゃなくてね?!」
そこまでして、私と仲良くするメリットって何?!
私、思いつかないよ?! 自分で言うのは悲しいけど、戦闘くらいしかお役に立てないよ?!
そんな私たちのチグハグな会話を見て、ミリッツェアはくすくすと笑い出した。
何が楽しいのかわからないけど、凄く楽しそうにしている。
なんなの、この人?!
私たちは、ミリッツェアの笑う姿をただ見ていることしかできなかった。
そんな中、ミリッツェアは満足するまで笑い続けた。
「ふたりとも、不器用すぎだわ」
なんだと?!
いや、確かに私は不器用かもしれないけど……。それでもさあ。
ミリッツェアはその一言を境に、すっと表情を真剣なものに戻す。
「リュリュ。今のは全面的に、貴女が悪いわ」
「……申し訳ありません」
ミリッツェアがリュリュの方を見て、たしなめる。
「貴女が全てを呑み込んでまで、エイリーと仲良くしたいのであれば、その感情を表に出すことをしてはいけないわ。あの状況、理由を聞かれても仕方がないわよ。追求されたくないなら、ちゃんと最初から隠しなさない」
「わかりました」
ミリッツェアが、貴族らしいこと言ってる! いや、貴族なんだけど。正真正銘、伯爵家の令嬢なんですけど。
言っていることが、貴族として生き延びる術的な感じだ。
昔の彼女なら、こんなこと言えなかったのになぁ。本当に、変わったんだなぁ。
「まあ、私も貴女の気持ちがわかるわよ」
「そうなのですか?」
「ええ。私だって、人間よ。何でも許せる訳ではないわ。
……でも、時には受け入れないといけないことがある。私は、受け入れるのが上手くなっただけ。それだけの話なの」
「……ミリッツェア様」
なんかこの人たち、私を除いて良い雰囲気作ってません?
私、完全にのけ者ですね?
あれぇ? おかしい。私がここに呼ばれたはずなのに?
「だから、リュリュも上手い付き合い方をみつけなさい」
「わかりました。ありがとうございます」
こうして、なんか良い雰囲気でまとまった。
ややこしいことにならなくて良かった。
…………まあ、ここで下手なことをしたくなかったんだろうけど。
解せぬ、とため息を吐きながら、私はそう思った。
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