132 魔王復活の『からくり』なんてそんなもの

「魔王を復活させるため……?」


 どう言うこっちゃ? ムーシュの言っていることがよくわからなかった。


「……もしかして知らない?」

「何が?」

「魔王がどうして、封印から復活するのか」

「そんなの封印が弱まるからでしょ?」

「それもそうなんだけど、もっと根本的な理由」

「はあ?」


 なになになに、魔王復活ってもっと根本的な理由があるの? 初耳なんだけど??


「人間たちには知られてないんだ」

「え? は? ちょっと待って?!」


 意外そうにムーシュが言うので、私は余計混乱する。

 だから、どう言うことなの?! え?!


「どうしたの、そんなに慌てて」

「いや、だって!」

「落ち着きなよ」


 ムーシュが呆れたので、私は一応深呼吸をすることにした。

 でも、そんなもんで落ち着くはずがなかった。だって衝撃の事実すぎない?


「つまり、魔王が復活するのは封印が弱まったと言うのにも別に理由があるわけ?」

「そう言ってるじゃん」

「ちなみにその理由って?」

「……どういうこと?」


 言っている意味がわからない。封印が弱まってるんだから、力を取り戻すのは当然と言っちゃ、当然じゃない? 意味がわからない。


「魔物たちは、魔王様の魔力からできてるんだよ」

「は?」

「封印される時ね、魔王様は力を外に出して魔物を発生させる。そして、魔物が倒されると力は魔王様に戻る」

「それってつまり……!」

「そう、

「はああああああ?!」


 なにそれ、そんなことがあっていいの? いやダメでしょ。


「魔王様も爪の甘いところがあるから、まんまと人間に封印されるんだけどね。ここ何百年、そうやって無限ループが続いてきたわけ」


 魔王が復活して、人間に封印されて、人間が魔物を倒し、魔王が復活する、というループか。

 いや言っちゃ悪いが、どっちの陣営も滑稽すぎないか。

 なんなんだ、この無意味な無限ループ。


「……効率良く魔物を倒させるために、秘宝を使ったのか」

「そういうこと」


 成る程、やっと納得がいったよ。魔物を一箇所に集中させれば、倒してもらいやすいもんね。


「でも、エイリーのせいで計画が予定よりも上手くいってないけど」

「そりゃまたどうして」


 魔物を倒した数は、多分世界一かそれくらいな自信あるよ? ばりばり協力してた気がするんだけど?


「聖魔法で浄化された魔物は、魔王様の元には還らないから」

「そうなんだ、よかった〜」

「あたしたちからしたら、良くないけどね」


 あはは、と呑気に笑いながらムーシュは言う。なんか、他人事みたいだ。


「てかさ、こんなにべらべら喋っちゃって大丈夫なの?」

「え、なんで?」

「なんでって、あんた魔王陣営でしょ。私は敵でしょ」

「あー、そんなこと」

「……舐めてんの?」


『こんくらいの情報与えたって、どうにもできないでしょ』なーんて思ってるんじゃないの?! そこまで舐められるとは、思ってなかったんだけど?


「そんなわけないじゃん! サルワ様倒したエイリーをなんで舐められるのさ?! おかしいでしょ!」

「じゃあ、なんでよ」

「理由は単純。今回は多分人間陣営につくことになりそうだからだよ」

「はい?」

「なにそのすっとぼけた声」


 いや、予想外の答えすぎるじゃん。上級悪魔が裏切るなんて、誰が想像するのさ?! 誰もしなくない?!


 混乱した状態の私を見て、ケラケラと呑気にムーシュは笑っていた。

 ちょっとムカつくけど、いちいち怒っていたら話にならないので(私だって成長するのだ)、理由を尋ねることにした。


「メリッサは人間陣営につきたいだろうし。どうせ、メリッサあたしは捕まってるんだし、協力するか消されるかの二択じゃん」

「逃げ出そうとか思わないわけ?」

「目の前に踊る戦乙女ヴァルキリーがいるのに?」


 それもそうか。私、一応、悪魔倒してるからねー。


「その上で、取り引きがしたいんだけど」

「言ってみて?」


 このタイミングで取り引きを提案してくるんだから、なんとなく内容はわかってるけど。

 どうせ、あれでしょ? 協力するから住処をよこせ、的な。


「魔王陣営のことなんでも喋るし、魔王討伐にも協力する。だから、メリッサたちの安全を確保してれるように、国王にかけあってくれない?」

「いいよー」

「即答っ?!」

「てか、国王に言わなくてもなんとかできるし」

「はあああ?! どういうこと?」


 ふふふ、してやったり。色々衝撃な事実を、聞いてばっかりで悔しかったから、今度は私が驚かす番だよねっ!


「メリッサとチェルノの今後、全部私の思い通りってこと!」

「意味わかんないんだけど」

「メリッサとチェルノを私の思うがままにできるってこと!」

「どうして?!」

「まあまあ、落ち着けって」

「その言い方、少しイラッとくるね」

「ストレート過ぎない?!」

「だって本心だもーん」


 だとしてもさぁ、せめてオブラートに言って欲しかったなぁ。

 とにかく、場の雰囲気を戻さないといけないので、私はこほんと咳払いをする。


「秘宝探しの報酬でもらったんだよ、そういう権利」

「……あんた馬鹿なの?」

「さっきから酷くない?!」

「なんで罪人をどうにかする権利、貰うの? ……まさかっ! メリッサたちを酷い目に合わせるため?!」

「んなわけあるかっ!」

「健気なあの子たちに、あんなことやこんなことさせるの?!」

「断じて違う!」

「……じゃあ、やっぱり馬鹿なんだ」

「どうして、そうなる?!」


 思考が偏り過ぎだろ!


「冗談抜きで、どうして?」

「メリッサたちを信じたかったからだよ。それだけ」

「……やっぱり馬鹿じゃん」

「……馬鹿かもね」


 ムーシュが涙ぐみなが言った。それはきっと、メリッサを大切に思っているからで。


 変な悪魔がいるもんだと私は改めて思った。


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