125 このくらいで終わりにしませんか?

 倒れているチェルノを見たメリッサは、ファースを見向きもせずに駆け寄った。


「チェルノ、チェルノ?!」


 メリッサの声かけに反応はなく、チェルノは真っ青な顔をしていた。

 でもまあ、死んでないはずだ。


「大丈夫だよ、メリッサ。多分、疲れてるだけ」

「……どういうことですか?」

「チェルノは魔法が使えないんだよね?」

「はい」

「そういうこと」

「はい?」


 どうやらメリッサはよくわかっていないようだ。

 仕方ないですね~。このエイリーちゃんが詳しく教えてあげましょう!


「チェルノって、魔法使えないし、効かないでしょ? だから、

「……つまりどういうことですか?」

「私たちみたいな魔法が使える人は、魔力に触れない日はないんだよ。でも、チェルノは魔力を頻繁に頼ることはないじゃん? 体が魔力に慣れてなくて、こうしてすぐ疲れちゃうわけ。あとは、砂の国の民の身体の構造の問題かなぁ。私も詳しくは知らないんだけどね」

「はあ……」


 メリッサはなんとなくわかったような返事をする。まあ、私もそんな感じなんだけど。こういうのは、なんていうか感覚だよね!

 というか、私に難しい説明をさせるな! 向いてないんだから!


「そんなんでさ、チェルノもお疲れみたいだし、ここらで終わりにしません?」

「そんなの、できるわけないじゃないですか……」


 悲しそうな顔をして、メリッサは剣を握りしめる。


「どうして?」

「私には、私たち姉弟には、これしか道がないからです」


 そう言って、私たちを睨みつけるメリッサ。その手は微かに震えており、彼女の苦しみが伝わってきた。


「王家の秘宝を盗んで、こうやって捨てることが、お前たちのただひとつの“生きるための”道なのか?」

「……そう、言っているじゃないですか」


 低い声で問いかけるファースに、怯むもののメリッサはきちんと言葉を返す。

 メリッサ、結構度胸あるんだよなぁ。強いよね。

 本当に、強い。


「本当に?」

「え?」

「本当に、それだけが生きられる道なの?」

「……何が、何がわかるというんですかっ!」


 私たちの言葉と視線に、メリッサは心の声を叫び出す。


「私たちには、これしかないんです。これしか、なくなってしまったんです! ほかに、方法があるなら私だって、そっちを選びましたっ! 好きでこんな道を選ぶわけないいでしょうっ!」

「メリッサ」

「ずっと恵まれた環境で、何不自由なく暮らしてきた貴方たちにはわからないでしょう!」


 わかって、たまるものですか。

 メリッサはそう呟いた。


「そっか。まあそうだねぇ」


 私も色々あったけど(本当に色々ありすぎて、思い出したくもない)、こうやって毎日そこそこ楽しく生きている。


 メリッサはきっとそうではなかったんだろう。

 何があったのかはわからないけど、真っ暗な暗闇の中、必死に光を求めていたんだろう。そして、やっと見つけた道が“これ”だった。

 それだけの話だろう。道を間違えたのでもなく、踏み外したわけでもなく、“これ”だけしかなかったのだろう。“これ”だけしか見えてなかったのだろう。


「だから、私は戦います。自分自身のために、チェルノのために。私たちが生きていくため、あるいは死ぬために」

「そっか」

「だから、手加減なんてしないでください」


 それは暗に、『殺してください』と言っているようなものだった。


「わかったよ」

「ありがとうございます」

「でもまあ」


 そんなことを言いながら、私は動き出し一瞬にして、メリッサの背後に回り込む。


「え」


 そしてクラウソラスの柄を思いっきり首に叩きつけて、


「手加減しないとメリッサ殺しちゃうからね。ごめんね〜」


 メリッサを気絶させた。


「「「えげつない」」」


 そんな私を見て、ファース、グリー、レノが口を揃えて言った。


「うるさいな」

「だって」

「ねえ?」


 いや、言いたいことはわかるよ?

 あんな会話をした後、すぐにこんなことするなんてどうかしてると思うよ?


 でもさ、やっぱり。

 私はメリッサに生きてて欲しいんだよ。笑って生きてて欲しいんだよ。

 それに、私たちまだそんなに仲良くなってないし。


 生きてて欲しいっていうのは私のわがままだけど、それでも生きてて欲しいから。


「……まあ、そうしたくなる気持ちはわかなくもないけど」

「でしょ?」


 ファースが賛同してくれたので、私はにかっと笑ってやる。


「とりあえず、一件落着ってことでいいのか?」

「そうじゃない?」


 気絶したメリッサのバッグを漁りながら言う。これは断じて怪しい行動ではない。


「ほら、ネックレスもあったし」


 王家の秘宝が全てあるかどうか確認してただけだ。怪しい行動ではない。


「だな。秘宝は全部集まったし、犯人も捕まえたし」

「だよねだよね。やっと終わったよ〜」

「そうだな」

「とりあえず、今日は帰りましょう?」


 剣を鞘に収めて、グリーは言う。


「上品な方に戻ってる」

「あら、がさつな方が好み?」

「……どっちでも」


 そんな感じで談笑しながら、私たちは森の外を目指して歩き出した。

 勿論、気絶しているメリッサとチェルノも一緒に。


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