124 まあ、ぶっちゃけ余裕です

「エイリーっ!」


 メリッサばかりに注目していた私を、激しい声でレノが呼ぶ。

 なんだ、と振り返って見ると、チェルノが私を狙って振り下ろした槍をレノが剣で受け止めていた。


 え、嘘。なんで?! だって、チェルノは、メリッサの隣にいたはず……!

 自分の目が信じられなくて、もう一度メリッサの方を向く。そこにはやはり


「えっ、チェルノがふたりっ?!」


 なんでっ?! 分裂でもしたの?!


「……槍の魔石の効果だよ」

「え?」

「槍についてる魔石は、自分の分身体を出すことができるんだ」

「はあ?!」


 戸惑っている私に、ファースがご丁寧に説明してくれる。

 なにそれ、めっちゃ羨ましいんだけど?! 分身とか、楽できるやつじゃん! しかも、かっこいいし!


目をキラキラさせていると、グリーが呆れた顔をして、一言。


「……呑気すぎるっ!」

「あんたに言われたくない、がさつなグリー!」

「この場合は言わせろよ! 危ない所をレノに助けてもらったのに、何でそんなに余裕なの?!」

「いやー、人生ってなるようになるじゃん?」


 それにあのチェルノの攻撃が当たってたとしても、たいしたダメージにはならなかっただろうし。

 レベル300の余裕ってやつ?


「そんなに余裕だったら、レノに応戦しろよ!」

「えー、レノならなんとかするでしょ」


 ぶっちゃけ、めんどくさいし、チェルノたちと戦いたくないんだよねぇ。

 ちらっと横目で激戦を繰り広げているレノとチェルノを見ながら思う。

 ふたりでこんな熱い戦いやってるのに、私が水を差すのはダメじゃん?


「エイリーだったら一瞬で終わるだろうがっ!」

「それはそうだけどさー。グリーが行けばよくない?」

「はあ? どうしてそうなる」

「婚約者が心配なんでしょ? 私とこんなくだらない会話してないで、助けてあげなよ」

「アタシは本気マジで言ってたんだけど?」


 そう、グリーと割とくだらない言い合いをしていると、


「「いいから手伝えよ」」


 と、レノとファースに言われてしまった。2人とも息ぴったり。


「てか、ファースも戦ってたんだ」

「戦ってる!」

「てか、剣使えたんだね」

「それなりには使える!」

「てか、なんで魔法使わないの?」

「いいから手伝ってくれ!」


 ファースの得意な戦闘スタイルは特殊魔法だ。だけど、メリッサとは剣でやりあっている。

 ファースは剣が得意ではないこともあるんだろうが、それ以上に剣の質の問題もあって、ファースは押されていた。と言っても、“すぐにやられそう”という状況じゃないので、こうやって余裕を持ってるけど。


「普通に魔法使えばよくない?」

「効かないんだよ!」

「あー、そっか。砂の国の民だもんね」


 メリッサは砂の国の民だから、魔法が効かないのか。魔法が使えるからすっかり忘れてたよ。


「それもあるけど、それ以上に厄介なことがあるんだよ」

「え? 何それ」


 メリッサの攻撃を剣で受けながら、ファースは解説してくれる。


「盾の魔石の効果は、魔法を吸い取って、その力で相手を攻撃することなんだっ!」

「まじで?!」

「まじでっ!」


 なるほどなるほど。またまた強い効果を持つ魔石ですか。羨ましいなぁ、欲しいなぁ。


「いいから、手伝えよっ! グリーだって動き出したぞ?」


 ファースにそう言われて、グリーを探す。視界に入ったグリーは、チェルノの分身体と激しい戦いを繰り広げていた。

 うわー、白熱してるわー。グリーは何やら楽しそうにやっているが、それの相手をしているチェルノもすごい。しかも、分身体を操りながらだ。


「えー。でも、ファースひとりで十分じゃない?」

「な、舐めないでくださいっ!」


 私たちが会話をしながら戦い、しかも舐められた発言をされたので、流石のメリッサでもご立腹のようだ。

 メリッサの剣の攻撃がさらに激しさを増す。


「エイリーのせいで、また手強くなっただろ!」

「そう言って余裕そうじゃん」

「余裕なんかじゃない!」

「まあまあ、落ち着けって。最初から最終兵器が出てきちゃダメなんだよ」

「なんで?!」

「よくあるじゃん。ヒーローは遅れてやってくるんだよ?」

「意味わかんないぞ?!」

「わかってよっ!」

「見事な逆ギレありがとう!」


 全く、ピンチに駆けつけるヒーローの良さがわからんとは、終わってる。最初から一番強い奴とか技とか出てたらつまんないじゃん。


「さっさと殺すなら殺してくださいっ!!」


 私たちの呑気な会話に、メリッサの悲痛な叫びが混じる。


「メリッサ……?」

「もう、なんなんですか。さっさと殺すなら、殺してください……」

「メリッサ、どうしてそんなこと言うの……」

「もう、もう、辛いんです。死にたいんです。だから、早くして……」


 メリッサの心からの叫びに、私たちはどうすることもできなかった。ただ、戦いの手を止めて、口を閉じただけ。戦いの最中とは思えない、静かな空間だった。



 そんな時だった。



「……おい、おい、大丈夫か?!」

「チェルノっ?!」


 レノとグリーの叫び声。

 その声につられて振り向くと。



 そこにはチェルノが倒れていた。

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