117 家に押しかけてくるなっ!

 ファースと秘宝探しに地下迷宮に行った、次の日。

 割と疲れていたので、今日はゆっくりすることにした。(いつもだろ、とかいうことは考えない)

 何をするかと言うと、寝て寝て寝て、ご飯食べて寝るというどうしようもない生活だ。町に出て買い物したり、友達と遊んだりするのも休日の過ごし方なんだろうが、ぶっちゃけめんどくさい。外に出たくない。

 ゲームとか漫画とかあればまた違った過ごし方ができるんだろうが、異世界にそんな娯楽は存在しないので、残念だ。まあ、徹夜で熱中しなくなったので、肌が心なしかすべすべしてる。ルシールの素材がいいのもあるのだろうが、やっぱり十分過ぎる睡眠をとっているのがでかいと思う。


 とにかく私は、お昼を過ぎても布団から出なかった。なんて心地のいい時間なんだろう。一生こんな風に生きていきたいなぁ。

 なぁんて、思っていた、そんな時だった。


 こんこんこんこんこんっ!


 聞き覚えのある勢いのあるノックが聞こえてきた。

 ……いやあ、まさかね。

 私は聞こえないふりをして、布団をかぶる。


 こんこんこんこんこんこんっ!


 だがノックの音は止むことはなく、むしろ強くなる一方だ。

 むむむ、今度こそ負けないんだからっ!

 私は私だけの、だらだらした休日を手に入れるんだからっ!


 こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんっ!


 ノックは止まない。

 叩く音は激しさと速さを増し、叩いている人を尊敬してくなるほどだ。人間の技ではない。


「エイリー、いるのよね? 居留守は酷いんじゃないかしら?」


 ノックの音をかき消す声で、グリーがそう言ってくる。

 え、このノックしながらそんな声出せるの? あんた本当にお姫様なの? 最近、上品な方も疑わしくなってきたよね?


 返事をするよりも、そっちに意識がいってしまう。


「確かにいるはずなんだけど。ゼーレ族の部隊私の監視役に調査を頼んだけど、家にいるって言ってたし」


 よく聞き慣れた声が、もう1種類聞こえてくる。


 ――――シェミーだ。


 だけど、どうしてシェミーがグリーと一緒にいるんだ?

 面識が有るちゃあ有るけど、そんなに親しかった訳でもないよね?


 てか、私のことあっさり知られてて怖いんだけど。プライバシーの侵害なんだけど。

 ゼーレ族には幻想魔法が通じないので、この家ゼーレ族に対しては防御力0に近いんだよなぁ……。(私の家は防犯として、幻想魔法で存在が薄くなっているのだ)


「まあ、エイリーのことだからさ、呑気に寝てるんだと思うよ」


 またまた聞き慣れた声がする。


 ――――お前もいるのかよ、ゼノビィア。


 なんだろう、この摩訶不思議なメンツは。濃すぎるだろ。

 アイオーンこの国のお姫様に、ゼーレ族(先祖返りを起こしていて、部隊の指揮権を持っている)、鍛治師見習い+冒険者(大型ギルドに所属していて、かなり強い)。

 ぶっちゃけやばいわ。こんな奴らが私の友達だったんだね! 濃すぎるね!!


「でもこんなに激しいノックをしても、起きないの? ……エイリーならあり得そうね」

「そうだね」

「うんうん」


 異議ありっ!

 私だってこんな家中に響き渡る激しいノックを聞いたら起きるわっ! と言うか、元々起きてたわっ!!


 と、言いたいところだが、言ってしまえば私が家にいて、尚且つ、起きていることがバレてしまう。それだけは避けなくては。

 我慢、我慢だよ、エイリー!


 私の反応がないので、グリーたちも手詰まりになってしまい、考え込んでいるようだ。色々と物騒な解決策が聞こえてきて、ヒヤヒヤするけど。

 そんな考えなくていいから、今日は諦めて帰ってよ! また今度、相手してあげるからさぁ!!


「……うーん、やっぱり実力行使しかないね」

「そう思うわ」


 ゼノビィアの案にグリーが乗っかる。

 おいおい、人様の家に何しようとしてるんだよ!!


 お願い、シェミー2人を止めて!!

 貴女は常識人だって、私は信じてるからね?!


「いいんじゃないかな」


 シ、シェミー!!!!!!

 シェミーまで……、そんなっ!?


「じゃあ、決まり。エイリー、最後の忠告だよ? 早く出てきなさい?」


 ゼノビィアが立てこもり犯に忠告するみたいなことを言う。

 え、私が悪いの? 私の家なのに? むしろ悪者そっちだよね?


「10秒以内に出てこないと、家を燃やすよ? 私たちは本気だからね?」


 おいおいおいおいおい!

 なんの権限があって私の家を燃やすんだよ!

 てか、こいつら本気でやりそうで怖い!


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!」


 私は遂に我慢できなくなり、家のドアを開けた。

 そこには、にこりと微笑む、グリー、シェミー、ゼノビィアがいた。


「ご機嫌よう、エイリー」

「お、おはようございます」


 グリーの圧に私は思わず縮こまってしまう。


「いるならもっと早く出てきて頂戴っ!」

「アポなしなのはそっちでしょうが!」

「アポ……?」

「……約束してないじゃん!」


 こっちだと、『アポ』は通じないんだ。不便だな!


「だとしても、いるなら直ぐ出てくるべきじゃん? 今の時間いらなくない?」

「それは、そうだけどさ!」


 ゼノビィアにも追い打ちをかけられ、私は何も言えない。


「……ところで、エイリー?」

「な、何でしょう?」


 さっきとは違う声音で、グリーが聞いてくる。さっきより怒りが増した気がする。


「何、この家は?」

「……と言うと?」

っ!」

「どうしてって言われても」

「この家はゴミが沸くわけ? わたくしが片付けてから、一週間経ったか経たないかくらいじゃない?!」

「それは……、そうだね」

「綺麗な部屋を保とうとか思わないのかしら?」

「思わない」

「潔いわね?!」


 だって、部屋を綺麗に保つってめんどくさくない?無駄な労力使わない?


「諦めた方が楽だよ、グリー」

「そうだよ、エイリーは住んでる次元が違うんだ」


 ぽんぽんと肩を叩きながら、シェミーとゼノビィアは言う。

 何その、“経験者は語る!”感。


「……そうよね」


 それに対して、グリーも何かを悟ったようだ。

 だからなんなの、3人で通じ合ってる感は!


 まあ、兎にも角にも。

 ここまで来たら、流石の私も追い返すなんてことはしない。


「まあ、とにかく入ったら? 多少散らかってるけど」

「まずは掃除からね」

「そうだね」

「さっさと済ませよ」


 そう言って、3人は掃除のやる気を見せながら、私の家に入ってきた。


 こうして、私の家はまた綺麗になるのだった。






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