103 シェミーとノエル

 その後もまあ、なんやかんやあり、私とシェミーがマノン様に解放されたのは、1時間経った後だった。

 私は飽きていたので、何を話していたかよく覚えてない。

 一般庶民が聞いちゃダメ系の話だったので、覚えてない方がいいだろう。うんうん、私、偉い! 偉いよ!!


 ただ、マノン様にアニスを引き渡していないので、明日もまた城を訪れることになった。

 今日はシェミー誘拐事件の事後処理などで、忙しいらしい。絡んでるのが、ゼーレ族だけならまだマシだったのだが、上級悪魔(やっつけたけど)とディカイオシュネーも参戦してる。ぶっちゃけかなりやばい系の国際問題だ。

 私にはあんまり関係ないけど。


「ああ、シェミー。お帰り、シェミー」

「これいつまでやるの?」


 出口に向かって、私とシェミーはスキンシップ多めに歩いて居た。(勿論、案内役の人もいるけどないものとしている)

 久しぶりにシェミーに会えて、私はテンション上がってるのだ。

 可愛い女の子といると心が洗われるよね。


 シェミーの言うことを無視して、私はシェミーのほっぺをすりすり触る。


「ねえ、いつまでやるの?」

「私が飽きるまで!」

「あ、しばらく終わらないやつね」


 わかってるじゃないか、シェミー。

 私はしばらくこのテンションを引きずるぞ。


「あのさ、エイリー」

「どうしたの?」

「ここ、お城だよね」

「うん」

「どうしてそんなに、緊張感がないの?」

「慣れたから?」

「慣れるまでここに来たことあるの?!」

「最近、来ること増えたし。また、呼ばれてるし」


 本当に、慣れたのだ。なんか、大型連休ごとに来る、デパートみたいな感じ?

 そこまで馴染みはないんだけど、だからと言ってドキドキするかと言ったらしない、みたいな。


「凄いね、エイリー。流石、踊る戦乙女ヴァルキリー

「そう?」


 そうなのかなぁ……?

 慣れればシェミーもなんとも思わなくなるはずだ。


 そんなこんなで、私たちはどうでもいい会話をしながら出口へ向かっていた。

 すると、


「あ、エイリーお姉ちゃん!」


 と天使ちゃんの声が聞こえてきた。マスグレイブ兄弟の末っ子、ノエルちゃんである。


「ノエルちゃん、久しぶりだね。タパニは?」

「うん、久しぶり! タパニお兄様は、お勉強中だよ!

 そういえば、エイリーお姉ちゃん、活躍したんだってね!!」

「まあ、そこそこ」

「凄いね、お姉ちゃんっ! お話詳しく聞かせて?」


 私とノエルちゃんの会話が弾む。


 そういえば、シェミーはノエルちゃんのこと知ってるのかな、と私はシェミーを見る。


 ――――シェミーは何故か、困惑した表情を浮かべていた。しかも、がくがくと震えていた。


「え、まさか、嘘でしょ……?」

「どうしたの、シェミー?」

「そんな、まさか……」


 私の声は聞こえていないらしく、シェミーはひとりでぶつぶつ言っている。

 サルワのせいなのか? そうだそうに違いない。くそぉ、サルワめ!


「え、なんで、どうして、アズダハーも今世にいるの……?」


 シェミーは、震えながらまじまじとノエルちゃんを見る。ノエルちゃんは、なんのことを言っているのかわからず、ぽかんとしている。


 あずだはー? なんだそれは。

 美味しそうな響きだよね。あずきバーみたい。


 私は軽く笑い、なんの冗談なの、シェミーと声をかけようとした、その時。ノエルちゃんの瞳が怪しく光る。


!」

「……アズはずっと?」

「忘れちゃった」


 あはははっ、とノエルちゃんは笑い、


「楽しくなりそうだね、姉ちゃん」


 と、無邪気に言い放つ。いつものノエルちゃんのような喋り方だが、明らかに何か違う。声に宿っている威圧感が桁違いだ。


 しばらく、ノエルちゃんは笑い続けると、突然笑い声が止まる。


「ノエルちゃん……?」

「どうしたの、エイリーお姉ちゃん?」


 いつも通りの天使な笑顔で、ノエルちゃんは不思議そうに私を見ていた。目の怪しい光も、声の威圧感も消えていた。


 今のは何だったんだ? ノエルちゃんは、何かに憑かれているのか? わけがわからない。


「なんでもないや……。ね、シェミー」

「……そうだね」

「ふーん、変なお姉ちゃん。ねね、そういえば、エイリーお姉ちゃん、隣にいるお姉ちゃんは誰?」

「ああ、紹介してなかったよね。アデルフェーの看板娘、シェミーだよ」

「シェミーです、よろしくお願いします」

「で、シェミー。こっちがノエル・マスグレイブ。7人兄弟の末っ子だよ」

「ノエルだよ! よろしくね、シェミーお姉ちゃん!」


 にこりと微笑むノエルちゃんを見ながら、シェミーはまた困惑している。

 え、今の自己紹介にもなんかあった? 至って普通だったよね?


「え、ええ。予想はしてたけど、やっぱり?」

「どうしたの?」

「エイリーはどうしてそんなに、呑気でフレンドリーなの?!」

「何が?」

「ノエル・マスグレイブって、王族でしょ? どうして、ノエル様って呼ばないの?! 敬語使わないの?!」

「なんとなく?」

「なんとなくって何?!」


 いいじゃん、許してくれてるんだから。細かいことは気にしない気にしない。


「ノエル、硬いの苦手だから、シェミーお姉ちゃんも、ノエルこと、ノエルって呼んでいいよ」


 ほら。ノエルちゃんもこう言ってるじゃない。


「どうしてエイリーがドヤ顔なの……。

 いいのですか、ノエル様」

「いいよ! ノエルはシェミーお姉ちゃんとも仲良くなりたいの!」

「わかりました。いえ、わかったよ、ノエルちゃん」

「よろしくね、シェミーお姉ちゃん!」

「こちらこそよろしくね、ノエルちゃん」


 少し戸惑っているシェミーと天使の笑顔を浮かべるノエルちゃんは、握手を交わした。



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