86 帰ります、帰らせてください。

 私は寝ている3人を抱えて、外に出た。

 そこで、寝ているヴィクターを見て、起こすのを忘れていたことを思い出した。


「むむむ、どうしようかなぁ?」


 別にあと1人くらい持つことは可能だ。

 起こす魔法をかけない限り、ヴィクターを含む寝ている人はあと数時間は起きないだろう。


 魔法で起こしてあげてもいいんだけど、ここで色々説明するのは怠い。と言うか、ファースたちにまとめて説明した方が楽だ。


 ――――仕方ない、持つか。


 しかし、両手がふさがってるので、ヴィクターを乗っけることができない。いちいち下すのも面倒だしなぁ? だから、


「浮いて浮いて、ヴィクター浮いて♪」


 と適当に呪文を歌って、ヴィクターを人の上にのせる。えーと、誰の上だろう?

 正直、今私が抱えている人の名前、ヴィクター以外分からない。自分で勝手につけた、ニックネーム?的なものも忘れた。顔と名前が一致しない。

 ……重傷だな、これ。本気でヤバイ気がしてきたぞ?


 まあ、兎にも角にも、帰るか。

 ファースたちも、きっと心配しているだろう。……してるかなぁ?


 こうして、寝ているサルワの捨て駒を放置して、私は村へ向かうのだった。4人の眠り姫を抱えて。



 * * *



「……エイリー?」


 村に着くと、予想通り村に留守番組だった面々に、苦い顔をされた。

 やっぱり、4人を抱えて戻ってくるのは駄目だったかなぁ?


「どこからツッコミを入れていいのか、わかんないんだが?」

「だよねぇ~」


 ファースの呆れ顔を見ながら、私は4人をどさどさとその場に下す。


「もっと、丁寧に扱いなさいよ」

「というか、ヴィクター以外の趣味の悪い服なんだ?」

「これ着せられてたんだよ……」

「犯人は?」

「あー、今からまとめて説明するから。先にこいつら起こしちゃうね」


 そう言って、私は魔法をかける。


「朝が来るよ、朝が来るよ。気持ちいい目覚めが待ってるよ。新しい一日が始まるよ。新たなスタートを切りましょ。おはようおはよう。さあ、起きましょう」


 すると、さっきまでぐっすりだったことが嘘みたいに、皆が目を開ける。

 改めて、魔法ってすごいなぁ。


「あれ、ここは?」

「霧の中で襲われて?!」


 段々と意識がはっきりしてきて、気絶する寸前のことを思い出した誘拐された組は、真っ青な顔をした。


「セオ、シエナ、アメリア!!」

「無事でよかった……!」


 ヴィクターの仲間の待機組の二人が、勢いよく3人分を抱きしめる。

 なんとも言えない、良い光景だった。特に、ヴィクターがハブられてる辺りが。


「すっかり忘れられてるね、ヴィクター」

「ははは、それほど他の皆が心配だったんでしょう? そのくらいわかってます」

「本音は?」

「俺も混ぜて欲しいです……!」


 悔しそうな顔をしてるヴィクターを見れて、本当に満足な私。

 まあ、ヴィクターはほとんど寝てるだけだったしな。このくらいの報いは当然だろう。


「……エイリー、悪い顔してるぞ?」

「え、嘘」

「鏡はいるかしら?」

「嘘だ、絶対嘘!」


 私が悪い顔するはずがないでしょ!

 ……少しにたにたはしてたかもしれないけど!


「でもまあ、無事に帰ってきてくれてよかったよ」

「本当よ」

「エイリー、騙されてないかなぁって心配だったんだぞ」


 レノが、グリーが、ファースがそんなことを言ってきた。

 ……ファースさん、鋭いんだけど?! 私、騙されたというか、敵の策略に見事にはまちゃったんだけど?!


「あははは」

「……え、まさか?」

「何のことかなぁ?」

「とりあえず、報告してくれ」

「……はーい」


 私は、ヴィクターとその仲間たちを呼び、森であったことを詳しく説明するのだった。



 * * *



「まさか、ゼーレ族の復活派とディカイオシュネーが組んでるなんてな。国際問題だぞ」

「その頭が封印から逃れた、上級悪魔なんてな……」

「そんなことより、シェミーは無事なのかしら? 殺した相手に憑依するんでしょ、サルワという悪魔」


 各々が各々の感想を述べた。

 流石は、ファース達。いいところに着目してくれる。


「だから、私、先に帰るわ」

「まさか、一人で行こうなんて、馬鹿なこと考えてないよな?」

「まっさかぁ。サルワに騙されたばかりの私だよ? ファース達連れてかないと、また騙されるよ~」


 私は成長した。人に頼ることと、冷静になることを覚えたのだ! 今までの私とは、一味違う!

 ……冗談はさておき。


「じゃあ、どうしてだ?」

「ちょっとねぇ。あ、ファース、王妃様に連絡精霊アンゲロス送っといてくれない? できるだけすぐに会いたがってるって」

「母上にか?」

「うん。息子さんたちお借りしまーすって、許可とってくる」


 あとは、シェミーが攫われた時の経緯とか、今後の対策とか話し合いたいしね。

 まあ、サルワをぶっ潰すだけだけど。


「そんなこと、しなくてもいいのに」

「まあ、他にも色々ね。じゃあ、私先に失礼するわ~。連絡よろしくね」


 逃げるが勝ち。私はそうして、ファース達の追求を逃れたのだった。



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