85 とりあえず、助けに行こう

 さて、どうしようか。

 サルワが消えて、私1人が取り残された。いや、人は結構いるんだけど、起きてるのが私だけっていうね。


「はあ、取り敢えずヴィクターを起こすかぁ?」


 ヴィクター起こして、仲間をささっと助けに行って、サルワの捨て駒起こして、帰るか。

 どうせ、サルワの捨て駒こいつら何も知らないだろうし。あのサルワが情報を知っている奴を放置するわけない。殺すか、連れてくかの二択だろう。


「めんどくさ。こんなに人置いてくなよ」


 サルワに上手くやられて、私のテンションはだだ下がりだ。今すぐ、サルワを追いかけて、シェミーを助けて、サルワをぶん殴りたい。

 それができない状況に、私はイライラしている。


「ヴィクター起こさないで、ヴィクターの仲間を助けに行った方が早いのかなぁ?」


 なんか、頭がうまく回ってない気がする。そんなにサルワに出し抜かれたことが気に食わなかったのか、私。

 自分のことなのによく分からない。


 こういう時は暴れてモヤモヤを発散したいが、魔物もいないし悪魔もいない。倒すべき敵はおらず、救出すべき人とどうでもいい人しかいない。


「くそおおおおおおおおおおお」


 気を紛らわすために叫ぶ。叫ぶ叫ぶ叫ぶ。

 こんなに叫んでるのに、誰ひとりとして起きない。

 それにイライラしてまた、叫ぶ叫ぶ叫ぶ。


 うん、なんかスッキリした気がする。

 お腹も空いてるし、イライラしてもしょうがないよね。


 こういう時は家に帰って、ご飯食べて寝るのが1番だ。

 そのためにも、さっさとヴィクターの仲間を助けに行かないと。


「さ、行こ行こ」


 こうして私は、廃屋へ足を踏み入れた。



 * * *



 ぎぃ、ぎぃ、と音が響く。

 流石、廃屋。老朽化が進んでいるなぁ。これでこそ廃屋だ。

 と言っても、薄暗くて少し怖いだけ。私の魔法で、サルワの捨て駒たちは眠ってしまっている。

 つまらないなぁ、と思いながら、マップを頼りにヴィクターの仲間の場所を目指す。場所は二階の奥の部屋。


「にしても、皆よく寝てるよねぇ」


 ここまで皆、ぐっすりとは。つまらん。

 睡眠魔法なんて、使うべきじゃなかったかなぁ?

 ちょんちょんと倒れている人の頰を突くけど、ピクリともしない。


 さっさと助けて、帰ろ。

 今回は色々とうまくいかなくて、私は凹んでいるのだ。


 そんな感じで、気怠げに歩いていたら、ヴィクターの仲間が監禁されている場所についた。

 今更だけど、無事だよね? 拘束されてるだけだよね? 実は死んでるとかないよね?

 ここに来て急に不安が襲ってくる。


「まあ、ほんと今更だしっ!」


 開き直った私は、ドアノブを回す。鍵はかかっていないようで、すんなりと開いた。


「……趣味悪っ」


 ドアを開けて飛び込んできた光景に、私は思わず、目をパチパチさせてしまう。

 幻覚かなぁ?

 なんて思いながら、ドアを一旦閉める。


 よし、再チャレンジだ。

 そうして、今度は恐る恐る開ける。


「……だよねぇ。こんなのが幻覚なわけないよねぇ」


 ヴィクターの仲間たちは無事だ。傷ひとつついてない。

 問題は、着てる服と部屋の装飾だ。


 一言で言うと、ザ・中二病。

 魔法陣とか、頭蓋骨とか、蜘蛛の巣とかあったり、黒系のカーテンがひらひらしてたり。

 ゴスロリチックな服を着せられてたり、眼帯してたり、包帯ぐるぐる巻きにしてたり。


 痛い。かなり痛い。

 見てるこっちが恥ずかしい。

 これは、サルワの素なのか、私を戸惑わせるためのいたずらなのか、わからない。わからないぞ?!


 サルワの着てた服はいたって普通の服だった。上品な大人の女性の着る服。

 つまり、いたずらの線が強いか?

 むむ、本当に分からない。


「うん、見なかったふりして帰ろう」


 そうして、私はぱっぱっと、拘束を外し、3人を何とかして抱える。

 3人の人持てるのってかなりやばいよね。女子として終わってる気がするなぁ?


 そんなことを思いながら、私は廃屋を出るのだった。

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