74 ヴィクターについて語る

 私たちは転移魔法によって、ヴィクターがいるはずの村へ向かった。

 村に着いたのはいいが、当の本人ヴィクターが見当たらない。知らない村の人々はいるのに。


「いないなぁ……」


 どこ行ったんだよ、あんな連絡よこしたんだから、待ってるのが筋ってもんでしょ。

 早く無事な姿見せなさいよ。


「なあ、エイリー。ヴィクターってどんな人なんだ?」

「えーと、高そうな鎧を身につけてる槍使いだよ。髪の色は確か、赤髪だった気がするなぁ……?」


 ファースの質問に、私はそう答える。実際に人のことを尋ねられると、よく思い出せないんだよなぁ。一目見れば分かるんだけど、説明するのが難しいっていうか。私だけかもしれないけど。


「そうじゃなくて、人柄を聞いているんだが……」

「今のお兄様の発言で、そんな答えを返すエイリーってマニアックね」

「え、そんなことないでしょ」


 大体人探しをしてるんだし、身体的特徴かと思うじゃん。

 ずれてるのは果たして私なのか、ファース達なのか。いや、絶対ファースたちだと思うけど。


「で、ヴィクターの人柄? そうねぇ、今はいい奴だよ。リーダーの素質があって、皆に好かれてる。私のことは異常に尊敬してて、正直うざったるいけど」

「うざったるいって……」


 私の言葉に、レノが苦笑いを浮かべる。レノの顔は、経験がある顔だ。騎士団長様も大変なんだなぁ。


「まあ、私からすると忠犬って感じかな?」

「そういえば、“今は”って言ったよな。昔は違かったのか?」

「いい質問です、ファース君。昔は、ヴィクター、調子にのっててかなりうざかったんだよ」


 ヴィクターの第一印象は最悪だったな。人間誰だって、調子に乗っちゃうことはあるので仕方はないんだけど。


 むしろ、ヴィクターは典型的な雑魚キャラの性格をしていたので、扱いやすかったと言える。小説とか漫画とかで、最強系主人公に喧嘩売って自滅する奴そのものだ。私の場合、喧嘩は買ってないけど。


 それに今は改善したしな。変わろうとすれば変わるもんだ。

 元々、性格も悪いわけじゃなかったし、傲慢じゃ無くなってからは、より多くの冒険者に好かれるようになった。今では、王都でも有名な冒険者の1人だしね。

 ほんと、ルシールとは大違いだ。その部分だけは、ヴィクターを尊敬している。


「そこまで言われると、気になるわ」

「面白くないよ? 普通に単純な話だよ?」


 グリーが興味津々で言うが、事の成り行きを説明しようとしたら、簡潔にまとめられるのだ。


 流れとしては、

 ヴィクター調子にのってる→レベル300の私が現れる→私に喧嘩をふっかけてくる→無視する→ヴィクターたちピンチっ!→私が助ける→性格改善。


 とまあ、こんな感じだ。よく見るテンプレ展開だ。面白さのかけらもない。


「なんか気になるんだよなぁ」


 レノもそんなことを言う。


「そもそも会ったことないじゃん」

「噂で聞いたことはあるわよ? 凄い槍使いの冒険者がいるって」

「ほんと?」

「ああ、本当だ。そもそも槍使いなんて、聞かない」


 魔法があるんだから、そりゃ普通武器なんて持たないわな。持つとしても剣とか弓とかナイフとかだもんな。

 槍は独特な距離感があるので扱いが難しいのだ。


「騎士団にも槍使いがいないから、皆、一度見てみたいって言ってるぞ」


 へえ、騎士団の耳にまで入ってるのか。良かったな、ヴィクター。


「だから、聞かせて頂戴?」

「だからの意味が分からないんだけど……」


 でも、ここで引き下がることはできないだろう。彼らの本気の押しには敵わないのだ。


「まあ、いいよ。聞かせてあげる」


 どうせ、恥をかくのはヴィクターだし。私関係ないし。

 それに、私を呼び出した挙句待たせてる罰だ。むしろこれくらいで済むのだから、感謝すべきだ。


 こうして、私はヴィクターとの出会いについて話し始めた。

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