73 トラブルに愛される英雄さん
私たちは雑談をしながら部屋を出て、冒険者省を後にしようと出口に向かって歩いていた。
――――何ともない、平和な日になるはずだった。
「エイリーさんっ!」
受付で、顔を真っ青にしたロワイエさんに引き止められるまでは。
「ど、どうしたんですか、ロワイエさん」
あまりの勢いに、私は押される。
何だ何だ何だ。また厄介事か? 私はこんなに、トラブルに愛される女だったか?!
「ヴィクターさんから何か連絡が来ました?」
「え、いえ、何も。
……え、え?! ちょっと待ってください?! ま、まさか、連絡が取れないんですか?!」
確か、ヴィクターたちのパーティは上級魔物を倒しに行ったはずだ。まだ、戻ってきてないの?
まさか、ヴィクターたちが負けた? 上級魔物に? 油断しない限り、ヴィクターたちの強さなら負けないはずだ。
ロワイエさんの表情に、私は不安を掻き立てられる。何だかんだ言って、ヴィクターのことを私は嫌いではなかったのだ。
「いえ、連絡は取れます。というか、今連絡が来ました」
何だよ、生きてるのかよ。死んだかと思ったじゃん。紛らわしいな、おい。
少し安心するが、どうしてロワイエさんが不安そうな顔をしていたのか、疑問が強くなる。向こうで、やばいことが起きてるのか?
そんな私の予想は当たった。当たらなくていいんだけどなぁ……。
「簡潔にいうと、エイリーさんにきて欲しいとのことでした」
「……私にしか倒せない敵でも出たんですか?」
上級悪魔とか、出ちゃったのかなぁ? 私でも勝てるかどうか怪しいのだけど。
「よく分からないのですが、相手側がエイリーさんを要求しているらしくて」
「は?」
はっきり言って意味がわからん。相手側って何? ヴィクターたちは、何を相手にしてるの?
「私もよく分からないんです。ヴィクターさんたちもかなり切羽詰まってるようでして。
「まあ、緊急事態で冷静になれる人種なんて限られてますしね。私もパニックになっちゃいます」
「いや、エイリーさんはかなり冷静な方だと思いますよ」
「そんなことないですよ〜」
「そんなことあると思うぞ」
「その通りだわ」
「間違ってないな」
ロワイエさんの言い分に、黙って話を聞いていたファース、グリー、レノがツッコミを入れた。
え、私のイメージってどうなってるの? 私、そんなに冷静じゃないんだけども。
「……皆揃って酷い」
「事実だから仕方ない」
ファースが真顔で言う。なんか傷つくなぁ。
「で、取り敢えず、ヴィクターのところに行けばいいんですね?」
「お願いします」
「どこですか? どうやって行けばいいんですか?」
「東方の村です。転移魔法の準備はできています」
「転移魔法?!」
準備が早いな、ロワイエさん。緊急事態に、転移魔法を使えるのはありがたい。
「はい。では、早速行きましょう」
「わかりました」
ロワイエさんの言葉に頷くと、私はファースたちの方を向いて、
「聞いての通り、私はこれから用事ができたので、ご飯はまた今度でいい? ごめんね」
と、謝る。ファースたちと一緒にご飯に行きたかったなぁ……。
ヴィクターって本当空気が読めないよね。もっとタイミングっていうか、なんというか、あるでしょ、全く。絶対会って文句言ってやる。
「待って、エイリー」
そんな私の言葉に、グリーがストップをかける。
「どうしたの、グリー」
「わたくしも連れて行って頂戴」
「え?」
グリーの口から出た言葉に、驚きを隠せない。聞き間違いかなぁ?
「わたくしも、連れて行って。エイリーの邪魔になることぐらい、わかっているわ。でも、わたくしにしかできないこともあるはずよ」
「でも……」
「グリーが行くなら、俺も行くぞ。それに俺もいた方が何かと便利だろ」
レノもそんなことを言い出す。
「じゃあ、俺も行く。エイリーが心配だしな」
ファースも便乗してくる。
「でも、ファースたちには関係ないことだし。これは私の問題だよ」
関係ない人を、増しては王族たちを巻き込むわけにはいかない。
それに、私は1人でも何とかなる。
「エイリー、もっと人に頼れよ」
「え……?」
「確かに、エイリーから見たら皆、頼りないのかもしれない。でもな、仲間がいることちよって、できることもあるはずなんだ」
ファースが。
「それに、水臭いのよ、エイリー。わたくしたち、友達じゃない」
グリーが。
「それに、俺たちばかりが頼りきりってわけにもいかないだろ?」
レノが。
皆、私に協力を申し出てくれる。
――――本当に、変な人たちだ。
「わかった。一緒に行こう……、いや一緒に行ってくれる?」
「「「勿論」」」
私の頼みに、3人は快く頷いてくれる。
「ロワイエさん、皆、転移魔法で送れるの?」
「流石にこの雰囲気で、無理とは言えないでしょう。何とかしますよ。少し、時間をください」
ロワイエさんが、困ったようにでもどこか嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。少しだけなら、私も力を貸せますよ」
「いや、大丈夫です。向こうで暴れる分の力がなくなってしまうのは困りますし」
「……あはは」
ロワイエさんの言葉に、私は笑うしかない。そんな私につられてなのか、はたまたそんな私が可笑しかったからなのか、ファースたち3人も笑い出した。
こうして、私たちは4人でヴィクターのところへ向かうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます