71 ファースと巡るパーティー
「あの〜、ファースさん?」
私の声かけが聞こえてないのか、ファースはおかまいなしに、ずしずし進む。逃げてる、の間違いか。
何でもいいから私は、掴んでる手を離して欲しかった。ファースもそれなりに力あるから痛いんだもん。
「ファースってば!」
私が少し大きい声を出すと、ファースの体がびくりっと震えた。
「どうしたんだ、エイリー?」
「手、痛いから離して。それに、はしたないでしょ」
「……ごめん」
「何よ?」
ファースが半分笑いを堪えるような表情で、謝って、私の腕から手を離してくれた。
「エイリーに“はしたない”って言われるのがおかしくて」
「はあ? 私を何だと思ってるの?」
ファースは知らないと思うけどね、私は元公爵令嬢なんだよ? はしたないか、はしたなくないかなんて、私だってわかるし。常識の範囲内だし。
「エイリーはエイリーだろ?」
「いい意味に聞こえないんだけど」
「気のせいだよ」
気のせいじゃない、絶対。でも、こういう会話をファースとすると、負けるのは目に見えているので、私は諦めて身を引く。
「さ、さっさと挨拶を済ませちゃお」
「早く料理を食べて、帰りたいだけだろ。だけど、残念ながらエイリーは主役なので、最後まで帰れないよ」
「は?」
「あれ、聞いてなかった?」
聞いてないっ! くそ、ロワイエさんも、王妃様も、ファースも確信犯だな。まんまと策略にはまりまくってるんだけど!
あのふたりの連係プレーなんて、回避するの無理ゲーなんですけど!
「……ダンスを踊れってこと?」
「できれば」
にこり、とファースは微笑むがうん、これは踊れってことだな。
「踊りたくないんだけど」
「へぇ、踊れるんだ?」
「……一応は。でも絶対やりたくない。知らない人となんて踊りたくない」
元公爵令嬢だったので、ダンスはできる。幼少期からビシバシ鍛えられた。ルシールには、公爵令嬢という意地とプライドがあったので、かなり頑張っていた。だからきっと、ダンスは人並み以上にできるだろう。
そういうところは、けなげだなぁって思うよ、本当。
できるできないは問題じゃない。やりたいかやりたくないかの問題だ。
「分かった。なら、俺と兄上たちと踊ればいいんじゃないか? それで回数的には十分だろ」
「え、それでいいの?!」
それなら、まあやってもいいかなという気になってくる。踊らないで、美味しいものだけ食べて、帰ることが最善だけどね!
「許容範囲だろ」
「ありがと、ファースっ!」
私は笑顔でお礼を言い、ファースの腕を取る。カップルがやるやつだ。
こういうパーティみたいなのは、男性なら腕を女性がとるのが、一般的である。私はそれをしただけだ。念のため。下心なんてないよ?
「さ、堅苦しい挨拶を早く終わらせよ。美味しい物が早く食べたいから!」
「……わかったよ」
ファースは何故だか分からないが、顔を赤く染める。暑いのか?
「どうしたの、ファース。顔赤いけど」
「え、そうなのか?」
自覚なし? まあ、自分の顔が赤くなってるのなんて、分からないか。
「大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「ならいいけど。さ、早く行って、さっさと終わらしちゃおう!」
そうして、私たちは地獄の挨拶周りを開始したのだ。
* * *
やっと、パーティーが終わり、私は解放された。
どうしてこう、偉い人というのはうさんくさいんだろうか。私のことを品定めするような目で見てきたり、どう利用しようかと考えていたり。そういうの、私嫌い。
ファースたち、マスグレイブ兄弟が異常なんだろうなぁ……。あんな風に、率直に要望を言ってきたり、策略的に利用することを全く考えていなかったり。
私は、そういう方が好きだ。言いたいことがあるなら、はっきり言え。
だが、違うということが今日改めて自覚できたので良かった。ルシール時代に、そういう輩といっぱい出会ったじゃないか。というか、ルシール自身、そういうタイプだった。
そういう人とはなるべく関わらないで生きていこう、そう決心したパーティーだった。
今日は、色々あったな。
クレトに会って、王様と謁見して、王妃様とシェミーを守るために協力体制を築いて、ファースとタパニとノエルちゃんとかくれんぼして、パーティーに出て。
本当に、濃い1日だった。
こうして、非日常な私の1日が終わった。
さて、明日から平穏な日常に帰りましょ!
――――そういかないのが、私であることを私はすっかり忘れていた。
という、フラグを立てておく!
何も起らないと思うけどね! 本当に何も起らないでよね!
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