69 かくれんぼどころじゃなくなりました

 私は、空から中庭を見下ろした。

 本当に広いし、どれだけお金かけてるのっていう手入れの仕方。財力にぽかんとするしかない。


 そんなところでかくれんぼって、私何してるのかなぁ……?

 いや、気にしたら負けだぞ、エイリー!


「さてさて、ファースはどこかなぁ?」


 上からパッと見た感じ、ファースもタパニもノエルちゃんも見えない。空から見えないところに隠れているようだ。

 とりあえず、私はファースが隠れている場所に近くに着地する。


 さて、ここからは自分の足で探すしかない。

 この辺に隠れているはずなんだけど。

 植木の後ろとか、ベンチの下とかを探してみるけど、中々いない。


 うーむ、どこに行ったんだろう?

 そんなことを考えながら、よそ見をして植木と植木の間を歩いていたら、何かにどんっ、とぶつかった。だが、

 おかしいなと思った私は、ペタペタと目の前に手を当てる。すると、そこには何かがある。見えない何かがある。


「ああ、そういうことか」


 うっかりしていた。というか、かくれんぼにはもってこいの魔法じゃないか。見落とすなんて、まだまだだな。

 つまり、ファースは不可視の魔法を使って、自分を見えないようにしているのだ。

 これでは、そこにいると分かっているが、『みぃつけた!』とは言えない。 


「魔法を解除しろ」


 踊るのがめんどくさくなった(それでも踊る戦乙女ヴァルキリーか?なんてツッコミはいらない)私は、それだけを言ってファースの魔法の解除する。


 すると、顔を真っ赤にしたファースが目の前に現れた。というか、近い。一歩間違えれば抱き着いてしまいそうな距離だ。


「どうしてそんなに、顔が赤いの、ファース?」

「……エイリーのせいだろ」

「どうして?」

「どうしてって……、とにかく、手をどけて、離れてくれないか?」

「いいけど」


 なんか、うまくファースにかわされた気がする。どうして奴はそんなに照れてるんだ?

 そんなことを考えながら、ファースから距離をとる。


「あ。忘れてた」

「なんだよ、エイリー」

「みぃつけた、ファース!」


 にかっと笑い、私はファースに向かって、勝利宣言をする。これも忘れるなんて、一からかくれんぼを勉強し直す必要がありそうだ。

 ファースは、一瞬何故かドキッとした顔を浮かべたが、それもつかの間。すぐに呆れた顔をして、私を見つめてきた。


「……で? エイリー、これはどういうことかな?」


 ギクリ。私は、冷や汗を垂らす。くそ、ファースも気付いていたか。

 いや、気付かない方がおかしいんだけどね。この悲惨な状況じゃ。


 中庭は、今や無法地帯となりつつあった。植物たちは自由に動き出したり、得体のしれない何かを放出していたり。物は話したり、勝手に浮いたり。ここは、どこなんだよ。ここだけ、世界観が違うよっ!


「何のこと~?」


 私にはさっぱり分からない。本当だ。どうしてこうなったの?


「この状況がだよっ!」

「私は魔法を解除する魔法を使っただけだよっ! それ以外何もしてないしっ! 少し、制御が足りなかったかもだけど? せいぜいファースの魔法が消えるだけだと思ってだけだし! こんなの予想もしてないし、てかできるわけないでしょ?!」


 この中庭で魔法を使ってるのは、ファースだけだと思っていたので、魔力を制御する必要なんてないと思っていた。だって、誰が予想するんだ?


 この平穏な中庭が、魔法具や、魔力を持つ植物で形成されるなんて!


 腹黒い王様が好きそうなことだ。流石ですよ、国王様っ! 

 最早、腹黒ってより、変人ですね!?


「まあ、そうだよな。俺も知らなかったよ……」


 なんて、ファースも途方に暮れ始めた。

 さて、この状況をどうしようか、と考えていると、


「なんなんだよ、これ?!」

「きゃー、怖いよぉ~」


 聞き覚えのある声がした。


「あ、エイリー?!」

「エイリーお姉ちゃん!」


 植物に追いかけられている、タパニとノエルちゃんがこちらに向かって走ってくる。二人とも、おびえた表情をしている。


「あ、タパニ、ノエルちゃん、みぃつけた!」


 よし、今度は忘れずに言えた。


「呑気だな?! 早くこの状況何とかしてくれよ?!」


 こんな状況でも、ツッコミを忘れないファースもすごいと思う。


「大丈夫だって、元に戻せばいいんでしょ?」

「……うん、もう驚くのはやめよう」


 ファースの反応が気になるが、この状況をどうにかしないと、タパニたちが危ないし、他の人たちにも被害が及んでしまう。それに……、国王様に見つかったら、どうなることやら。


 私は、クラウソラスを抜いて、呪文を歌う。


「荒ぶる魂よ、落ち着きを取り戻して。怒れる魂よ、幸せを思い出して。希望はそこにあったでしょう?安らぎはそこにあったでしょう? 戻って、戻って、その時間に」


 すると、一瞬で中庭は元の形を取り戻した。

 ふう、初めて使う魔法だったけど、成功したみたいで良かったー。


「え、エイリー……?」


 タパニが信じられないという顔をした。


「わあ! エイリーお姉ちゃんすごぉい!」


 ノエルちゃんがキラキラした目で、私を見てくる。


「えへへ。凄いでしょー」


 褒められるって嬉しいなぁ。


「凄いなんてものじゃないだろ……」

「何が?」

「この魔法がだよ! どうして時を操る魔法が使えるんだよ?!」

「使えるだからしょうがないじゃん」


 タパニはどうしてそんなにも衝撃的な顔をしているのだろう。ファースを見習って、もっと落ち着くべきだ。


「タパニ、諦めるんだ。エイリーはそういう奴だ」

「そうした方が、懸命ですね……」


 ファースの助言に、タパニは戸惑いながらも返事を返した。ていうか、ファースには、素でも敬語なのね。


「そういう奴って何よ」

「まあ、エイリーはエイリーってことだよ」

「そう言うと、なんかいいように聞こえるね」


 まあ、このまま突き詰めても結局ファースにかわされるだけなので、深く追求しないことはやめた。


「じゃあ、そろそろパーティー会場に行くか。丁度いい時間になったな」

「へーい」

「ほら、タパニもノエルも行くぞ」

「わかりました」

「はーい!」


 そして、これから地獄の時間が始まるのだった。

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