58 王様と謁見ですっ!

 私は、城への入り口で――――入り口と言っていいのかどうかもわからないほど豪華なんだけど、そこでアナクレト王子とレノと別れた。


 レノの護衛は城の外までらしく、国王様までの案内はいかにも“ベテランです”って感じの執事さんがしてくれた。

 歩き方といい、喋り方といい、全てが洗練されていた。プロだ、プロだわ。


 ネルソン家にいた執事もかなり出来が良かったが、この人は格が違う! 流石、王家だっ!


「こちらでございます、エイリー様」

「ありがとうございます」


 完璧な案内のもと、私は国王様がいるという部屋に着いた。多分、ここがいろんな人と謁見する場所であり、いろんな人が説教される場所なのであろう。

 執事さんがドアをノックし、


「エイリー様をお連れしました」


 と、告げる。


「入って良い」


 そう重苦しい声が聞こえると、執事さんは手慣れた手つきでドアを丁寧に開ける。


「どうぞ、お入りください」


 なんなの、この執事。完璧なの?! 完璧すぎるんだけども?!


「お主は下がれ」

「了解致しました。失礼致します」


 国王様にそう告げられると、完璧執事さんは部屋から出て行った。


 ぴり、と言う空気が場を支配している。大方、金髪に金色の瞳をした、ザ・王様な男の人が放っているのだろう。

 流石、腹黒王様、フォルテュナ・マスグレイブ。威圧感が半端無い。私もつい気後れしてしまう。


 だが、この雰囲気を放つ国王様の隣に何食わぬ顔をして座る、銀髪に翡翠色の瞳を持つ、凛々しい女性のこと、マノン・マスグレイブもすごいと思う。

 流石、王妃様と言ったところか。


 静かな空気を破るのは、国王様の一声。


「お主が、踊る戦乙女ヴァルキリーのエイリーか。……それともこう呼んだ方が良いか? ルシール・ネルソン嬢?」


 目を細めて、国王様は私を見てくる。

 やっぱり、バレてるよなぁ。隣には、純血のゼーレ族がいるんだし。

 予想がついていたので、対処もできる。


「……失礼ながら申し上げますが、その話は後からにしませんか? 本題を先に済ませましょう」

「それもそうだな、座るといい」


 この部屋の作りは特徴的で、国王様サイドに二つの椅子――――つまり国王様と王妃様が座るところがあり、それと正面に一つ椅子が置いてあるだけだ。机はない。雰囲気は面接会場に似てる。嫌な作りだ。


「失礼致します」


 私は一言言って、国王様の目の前に座る。

 うわー、緊張する。そんな怖い目で私を見ないでよ。


「では、本題に入ろうか。お主に頼んだ依頼のことだったな」

「はい。詳しい説明をお願いしたいのですが」


 あれだけだと、情報量が少なすぎる。流石の私でもそれでは身動きの取りようがない。


「言うまででもないが、他言無用だぞ?」

「心得ております」


 いちいち敬語使うのめんどくさいな。でも、国王様だしな。

 マスグレイブ兄弟とは、格が違う。いや、マスグレイブ兄弟にも敬意を払わないといけないんだけどさ。


「マスグレイブの秘宝と呼ばれる物は全部で7つあるのだ。王位第一継承者を示す宝石がはめ込まれているネックレスを筆頭に、盾、剣、指輪、弓、ブローチ、槍だ。その全てが魔力を持っている。そのうち、剣以外の全てが二週間くらい前に宝庫から盗まれたのだ」

「セキュリティの方は万全だったんですか?」

「せきゅりてぃ? なんだね、それは」


 不思議そうに尋ねてくる国王様。

 こっちにセキュリティという言葉はないんだったわ。その時点でなんか終わってる気がするけど。


「要するに、警備状態のことですよ。簡単に盗まれる作りにしてませんよね?」

「勿論だ。人の存在を察知して起動する魔法を駆使した罠や、魔法に頼らない罠もかけておる。第一宝庫の鍵は我しか所有していない」


 前世ほどではないが、警備体制はまあ万全と言っていいだろう。それにわざわざ王家に喧嘩を売るような盗人がいるのだろうか?

 何か、裏がある気がする。

 私がそんなことを考えていると、


「お主の意見が聞きたい。事情を説明するためでもあったのだが、どちらかというとこちらが目的だ。――――我のポケットマネーをぶんどっていくのだから、このくらいは当然であろう?」


 にやり、と笑みを浮かべて国王様は言う。

 あはは、やっぱりこの人腹黒いわ。笑えん。


「……かなり、プロの盗人だと考えて間違い無いかと。

 そして、もう一つの可能性をあげるのであれば、砂の国の民、の仕業ではないでしょうか?」

「砂の国の民だと?」


 アイオーンやマスグレイブがある大陸の、三分の一を国土とする砂の国・イスキューオ。

 国土の殆どが砂漠であり、に優れていると言う噂だ。鎖国状態といっても過言ではないくらいに、他の国とは関係を持たない。


 まあ、ここで大事なのはそんなことじゃない。


 ――――イスキューオの国民は、魔法を使えず、魔法が効かないのだ。


 だから、魔法発動式の罠は効かないし、そもそも科学技術が進歩しているイスキューオの民だ、仕掛けられている罠なんて子供の遊びみたいなものだろう。


「その線もありえなくないが、可能性は低いな」


 そりゃそうだ。砂の国の民がイスキューオからわざわざ出てくるわけない。


「しかし、可能性としてはありえない話ではないわ」


 話を黙って聞いていた王妃様が口を挟む。


「犯人探し、私も手伝います。そっちの方が色々手取り早いですし」


 大体、怪しすぎるのだ。盗んだ宝を適当に放置していることが。そりゃ、持ってたら一発で分かってしまうが、だからと言って捨てるくらいなら、盗むなって話だ。

 それに、マスグレイブの秘宝がある所には必ず上級の魔物がいる。もしかして、が目的なのかもしれない。


 ――――裏で糸を引いているのは悪魔なのかもしれない。


 十分にあり得る可能性である。

 だったら、取り返しても、また取り戻しにやってくるだろう。さっさと犯人を捕まえた方がいいのだ。


「良いのか?」

「勿論です。ですので、都合の良い時に、宝庫を見せていただけませんか?」

「……許可しよう。日程は追って連絡する」


 少し考えてから、国王様はそう言った。


「これからの話なんですが、セーファース王子達と、宝を探せば良いのですか?」

「その方向で頼む」


 こんな感じで、何だかんだ本題はまとまった。


 ――――だが、私にとってここからの話が大問題なのだ。

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