47 ゼノビィア、つよぉい

 冒険者省を出ると、私はすぐにマップでゼノビィアの居場所を確認した。

 ゼノビィアは今どこにいるんだ……?

 少しだけ、心臓の鼓動が早くなる。

 無事でいて、ゼノビィア……!


 そんな私がマップでゼノビィアの居場所を確認するのと同時に、


「あ、エイリー。ごめんごめん」


 と、ゼノビィアの声がした。マップから声のした方へ視線を移動すると、私を見つけたゼノビィアが走ってきていた。


 どこにも怪我をしてないし、表情もいつもと変わらないので、何もなかったように見受けられる。

 良かった、危険な目にはあってないみたいだ。


 おそらく、寝坊か、家の用事か、まあ大したことではない理由で遅れたのだろう。

 本当に良かった。柄にもなく心配しちゃったよ……。


「ゼノビィア、遅かったね。どうしたの?」


 理由を聞かないのが美徳ってやつなのかもしれないけど、私としては理由を聞かずにはいられない。

 待たされたんだからね。これくらい許してほしいよね。


「ああ、ちょっと危ない輩ナンパ野郎に襲われて」


 あはは、と笑うゼノビィア。いや、笑って言うことじゃないでしょ。

 ゼノビィアの言うナンパ野郎って、(一般的に)強い奴とか危険な奴が多いんだよね。そんな奴らを意図も簡単に倒しちゃうゼノビィアってすごい。

 まあ、私に言われたくないだろうけど。


「へー。まあ、撃退してきたんしょ?」

「そうそう。倒すのはすぐ終わったんだけど、そこに捨てておくわけにはいかないでしょ? めんどくさいけど、自警団に引き渡してきたのさ」


 自警団、というのはこの世界の警察みたいなものだ。


「捨てておけばよかったのに。どうせ気絶してたんでしょ? ……いや、させた、というべきだけど」

「それは、そうだけど。誰かが見つかる前に起きたら厄介じゃん」

「まあ、ゼノビィアが無事で本当に良かったよ。柄にもなく心配しちゃったし」


 全ては、変なことを言い出すヴィクターのせいだ。あいつのせいで、余計な心配をしちゃったじゃないか。


「またまた〜。私はそこらの奴らには負けないし。一番それを知ってるのは、他でもないエイリーでしょ?」

「まあね」


 ゼノビィアは、本当に強い。

 主の戦闘スタイルは、ナイフで、投げる技術は一級品。狙った獲物は逃がさない。もう暗殺者にでもなったらいいんじゃない、と思うくらい。

 それだけでもかなり強いんだけど、ゼノビィアには、きっとゼノビィアにしか使えないだろう技がある。


 通称・瞬間錬成。


 私もどうやっているのかはよくわからないが、色々な魔法を駆使して一瞬で、針を作ってしまう恐るべきものだ。針には毒が塗ってあり、本当に一瞬で無力化できてしまう。

 鍛治師と冒険者、両方をやっているからできる技なんだだと思う。


 ……ゼノビィアもかなりチートだよね。


「さ、じゃあさっそく行こう」

「今日は何が目当て?」

「邪竜の鱗」

「……はあ?」


 ゼノビィアが恐るべきことを言った気がしたが、きっと気のせいだろう。

 私の聞き間違い。そうに違いない。


「エイリー、私ね、邪竜の鱗が欲しいんだ」

「……本気で言ってるの?」

「勿論!」


 この世界には、竜種も存在する。聖竜と邪竜。竜種、とは言うけれど、魔物の一種だ。

 聖竜は、白い鱗が特徴的で、人間に害をなさない生き物だ。神の使い、としている国もある。

 邪竜は、黒い鱗が特徴的で、人間に害をなす、魔物となんら変わらない。


 竜種は、魔物のくせに知恵を持っており、力もあるため魔物の中では最強種であり、下級悪魔と同じくらいの力を持つ。

 少し厄介な相手だ。


「2人だけで狩りにいくの? 邪竜を?」

「何信じられないみたいな顔してるの。ひとりで悪魔と手下の魔物を倒した英雄さんがいるから余裕でしょー。できないわけないでしょー」

「そりゃそうだけどさ?!」


 こう言う時だけ、英雄よばりしやがって。こいつ、私に全部やらせる気だな?


 というか、懐かしい話を持ち出すなぁ。私が悪魔を倒したのなんて、1ヶ月くらい前の話だ。もう過去の話だ。


「だったら、何も問題ないでしょ。さっ、行こう行こう。こうしてる間も時間が勿体無い」

「はいはい。仕方ないなぁ。で? どこに邪竜がいるのさ?」


 竜種はそんなに数は存在しない。当然だ。悪魔と同等の強さを誇る魔物がごろごろいるなんて、想像するだけで恐ろしい。

 最近、竜種が出現したなんて話、聞いてないんだけど。


「北の洞窟にいるっぽいのよね」

「そうなの? 初耳だわ」


 情報通のゼノビィアのことだ。これはかなり確信のある情報なのだろう。

 でないと、邪竜倒しに行こう! そうしよう!ってならない。


「比較的新しい情報だからね」

「へー。流石だわー」

「棒読みで言われても、全然嬉しくないよ」


 私たちは、どうでもいい会話をしながら、北の洞窟へ向けて歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る