42 いるよねこういうお姫様
デジレが拠点にしている部屋の前に着くと、私はいつものように、ノックを3回、呼び出しベルを2回鳴らした。
……今更だけど、デジレがここにいるかどうか調べずにきちゃったな。本当にここにいるのかなぁ。
でもまあ、呼び出すくらいだし、いるよね。いなかったら、おかしいよね。流石にそこまで、非常識じゃないよね。信じてるよ、デジレ!
でも、一応。一応、念のため、私はマップを開く。デジレがここにいることを確かめるために。
マップを開くと、ちょっと、いやかなり驚くことがあって、私は思わず、え、と声を漏してしまう。
デジレは、いる。いるには、いる。
が、しかし。もうひとり、いる。もうひとりいるのだ。
大事なことなのでもう一度言おう。もうひとりいる。デジレ以外にもうひとりいる。
――――その名も、ベルナディット・マスグレイブ。
ファースとグリーのお姉さんで、7人兄弟の1番上のお姫様だ。
なんで、なんで、なんで?!
どうしてこんなところに? どうしてこんな古臭い家にいるのさ?!
しかも、デジレと一緒? なんで?! どういう繋がりなの?!
ファースといい、グリーといいベルナディット姫といい、王族って結構自由にしてるんだなぁ。
とにかく。デジレはお取り込み中なので、邪魔者は退散しますかっ!
決して悪い予感がするとか、絡まれたらめんどくさそうとか、そんなこと思ってるから、帰ろうとしてるんじゃないからね? 本当だよ?
邪魔をしちゃ悪いので、私は帰るのだ。
あ、そうそう。もしかしたら、逢い引きなのかもしれないし! 禁断の恋って燃えるよねぇ。私は応援してるよ!
そう、私が帰ろうと足を踏み出したとき……。
幸か不幸か、いや不幸だけど、扉は開いた。
「おおっ!
私が逃げ出す隙もなく、がばっとベルナディット姫が飛びついてきた。おそらく、この人がドアを開けたのだろう。
部屋で、面白そうに私を見ているデジレが目に入る。……くそぉ、あとで覚えとけよ。
こういうことになるから、私は逃げたかったのだ。さっさとお暇したかったのだ。
「そうですけど……、とりあえず、離してくれません?」
「すまん、すまん。ついついテンションが上がってしまっての」
笑いながら、ベルナディット姫が私を解放してくれた。
巻かれてふわふわしている銀髪、綺麗な翡翠色の瞳、地味だが良い生地を使っているとわかるワンピースを着用している。
なんというか、古風な喋り方だなぁ。
「まあ、外で立ち話もなんですから、お二人とも入ってくださいっす!」
けたけたと笑いながら、デジレが言う。他人事だなぁ、おい。
ここで帰る、というのは色々と面倒なので、私はしぶしぶ部屋に入った。
* * *
「ほらほら、妾の予想通り午前中に来たであろう、デジレ」
「たまたまっすよ、ベルナさん」
どうやら、私がいつ来るか賭けをしていたらしい。
ということは、あれか? 私を呼び出したのは、ベルナディット姫なのか?!
私が状況を飲み込めず、呆然としているのに気づいたベルナディット姫がこちらを見て、にやにやしている。
「……なんですか?」
「ふふふ。なかなか可愛い顔をしておるな、と思ってな。まあ、妾ほどではないがな」
いきなりなんなんだ?! そんなに見つめてそんなこと言わないでよ。恥ずかしいな!
あとちゃっかり、自分の容姿自慢挟まないでくれます?
「というか、なんでこんな所にいるんですか、ベルナディット姫」
「おお、ばれておったか。妾は有名だし、仕方ないか」
「はあ……? で、私はなんで呼ばれたんでしょう?」
ベルナディット姫に何かしたっけ、私。
「其方に会って見たかったからじゃ。デジレから、話は聞いておったしの」
「……デジレから、情報を買っていたってこと?」
「そうじゃの」
ほんと、後で覚えとけよ、デジレ。めっためたにしてやる。
「ただ、私に会いたかったわけではないんでしょう、ベルナディット姫?」
「ベルナディットは長いから、ベルナで良いぞ」
「じゃあ、ベルナ」
「いきなり妾を呼び捨てにするか」
私が呼び捨てにすると、鋭いベルナのツッコミが入る。
まあ確かに。王族を呼び捨てるのは良くないよね。反省反省。
「じゃあ、ベルナ姫?」
なんとなく『様』をつけて呼びたくなかったので、私は最期に『姫』をつけて呼ぶ。
これで文句はないだろ。
「妾を怖がらないのも、珍しい。特別に、妾をベルナと呼ばせてやる」
「で、ベルナはなんで私に会いたかったの?」
「敬語は使え。王族という前に、妾は年上だぞ」
別に、ベルナは王族ということを誇示したいのではなく、年上には敬語を、という礼儀を徹底させたいのだろう。
なるほど、それは一理ある。でも、変わってるよなぁ……。
「まあ、確かに」
「其方、それはわざとやっておるのか?」
「いや、別にそうじゃないんだけど……、ですけど」
ただ単に、敬語が苦手なだけです。だってこの3ヶ月、ろくに敬語なんて使ってないもん。敬語使うのロワイエさんくらいだし。ロワイエさんにだって、かなり砕けた敬語だし。
そりゃあ、忘れるよね。仕方ない。
「まあ、良い。本題に入ろうではないか」
ベルナがにやりと笑うので、私はついついごくり、と唾を飲んでしまった。
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