35 ドキドキ♡メニュー選び
シェミーに案内され、私たちは一つのテーブルに座った。
メニューを見ながら、今日は何を食べようかなぁと考える。
アデルフェーには、前世の世界で言う洋食は勿論、中華も和食も、ここにはなんでも揃っている。
こんな食堂があるって、素晴らしい。おかげさまで、私は充実した食生活を送れている。
どうして、これだけのメニューがそろってるのか。
理由は簡単で、料理好きの店主が色々な国を旅をして、色々なレシピを手に入れたからだ。
店主には感謝しかない。ありがとう!
「ファースたちは何にするの?」
私はまだ決められないので、ファースたちに話を振った。
「俺は、焼肉定食かな。食べたことないけど、名前からして美味そうだし」
レノはもうすでに決まっているらしい。流石、騎士団長様、がっつり行くんだ。
「ここは外れはないから大丈夫」
「……全部のメニュー、食べたのか?」
「勿論!」
「どんだけ通ってるんだよ……」
メニュー数が多いことが自慢のアデルフェー。全部制覇したのは、最近だ。
いやー、私よく頑張った! ほぼ毎日、通ったかいがあるってもんだ。
「へへ〜」
得意げに私が笑うと、
「自炊はしないのか?」
レノが鋭いところをついてきた。
「すると思う?」
「しないと思う」
「そういうこと」
基本的に、私は料理を作ることはしない。
王都に来て一人暮らしを始めた時、初めは頑張ってみたのだ。でも何故か、人が食えるものにならなかった。だから諦めた。当たり前だ。
苦労して自分で作るのに、美味しくないなんて、地獄でしかない。自炊なんて諦めて、外食した方がいいに決まってる。
アデルフェーは、安いし、美味しいし、コスパがいいのだ。万々歳! ありがとう!
「ファースとグリーは何にするの?」
「……このメニューに載っている料理の殆どが聞いたことないのだけれど」
「どんな感じなのか、いまいちよくわからんな」
メニューの文字とにらめっこしながら、グリーとファースは言う。
「まあ、王族様は口にしたことのない庶民の料理だし、異国のもあるから。むしろ、異国のものの方が多いから」
「王族とか言うのやめてくれよ」
私がにやにやと嫌味ったらしく言った言葉に、ファースが周りを確認しながら、ため息をついた。
慌ててるファースの姿、面白いなぁ。
「大丈夫だって。ここの料理はなんでも美味しいから。私が保証する。はずれはないから。心配すべきなのは、好き嫌いくらい」
ファースの言葉を無視して、私はアデルフェーの魅力を語ることに専念する。
「そうよね……。エイリーのオススメは何かしら?」
「んー、全部?」
「答える気ないでしょ」
「よくわかったね、グリー」
私は、彼らが直感で料理を選ぶところを見たいのだ。そして、それを食べた時の顔が見たいのだ。美味しそうな顔にせよ、不味そうな顔にせよ。
「そりゃ、わかるわよ。エイリーだもの」
「それ、理由になってないよね?!」
わざとらしく、私はほっぺを膨らます。絵面的に誰得だよって感じなので、すぐやめたけど。
「うーん、俺は、まるげりーた?ってのにしてみよう」
私とグリーがくだらない会話をしている間に、ファースは決めたようだ。
マルゲリータかぁ。日本の宅配ピザ屋に劣らない美味しさだ。
比べる基準がおかしいかもしれないけど、私のなじみがあって美味しいと感じるマルゲリータは、宅配ピザなのだ。仕方ない。だって、庶民の味覚だもん。
「じゃあ、わたくしは、ちんじゃおろーす?っのにしてみようかしら?」
グリーも散々迷った挙句、
……ピーマン食べられるのかなぁ、グリー。なんとなく、食べられないイメージがあるんだけど。
ていうか、私は何にしようかなぁ。そういえば、まだ決めてなかったなぁ。
「ご注文は、お決まりですか?」
タイミングがいいのか悪いのか、グリーが決め終わるとすぐに、シェミーがやってきた。
早いよ、シェミー!! 私まだ決まってないっ!
「えーと、俺は焼肉定食」
「わたくしはちんじゃおろーすをお願いするわ」
「マルゲリータを一つ」
彼らはあっさりと注文を済ませてしまう。
「かしこまりました。エイリーは?」
まだ、決まってない! なんて言えるはずもなく、開いていたページを適当に指をさした。全制覇しただからできる技だ。ばっちこい。
「これをお願い」
「本当に、それでいいの? シェミーの気まぐれ激辛カレーで」
その名前に私はぎくりとするが、顔には出さない。
これは、隙を見て、ファースたちに食べさせてやれという神様からのお告げであるのだ、きっと。うん、そうに違いない。
「う、うん。大丈夫! あと、食後にシェミー特製デザートを四つ」
「かしこまりました。……本当にいいの?」
「いいんだってば!」
「はいはい、どうなっても知らないからね」
「……うん」
これは、超絶に辛くしてくるやつだ。くそ、シェミーめ。
私の頼んだカレーは名前の通り、シェミーが気分によって、辛さが変わる。普通の辛さに、後からシェミーがスパイスをぶっかけるのである。
これは1回食べたことがあるのだが、二度とと食うもんかと決意したものだ。また食べることになるとは……。
シェミーの気まぐれがつく料理は全て、食べられたものじゃない。
彼女は極端というか、容赦がない。辛いのは思いっきり辛く、甘いのはとびきり甘くするのだ。
普通の味覚を持つ人が食べちゃ駄目なやつ。
そんな凶器の料理を生み出すシェミーは、楽しそうな顔をして、厨房に去っていった。
……やっぱ、失敗したかなぁ?
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