26 グリーの人格問題

 さっきグリーを囲んでいた魔物たちは、あれでもほんの一部だったらしい。マップを見ると、まだ遺跡内にはうじゃうじゃと魔物がいることがわかる。


 どんだけ集まってきたんだよぉ。こんなにいなくてよくない?

 本能が強いだけあって、魔力にはかなり敏感なんだろうけど。

 それでもさ、多すぎ。嫌がらせだとしか思えない。


 これ一気に片付けたいなぁ。でもなぁ、本気でやったらなぁ、ファースたちはもちろん、秘宝も巻き込んでしまうかもしれないからなぁ。


 それに、働きたくない。珍しく楽できるパーティなのだ。堪能しないと損だ。私にもサボらせろ。


「おい! おい、エイリー」


 可愛らしい声で、グリーが私に声をかけた。言葉使いは荒いけど。言葉使いは荒いけど!

 大事なことなので二回言いました。


「何?」

「そろそろ、引きずるのやめてくれない?」

「あ」


 グリーの声がする方に顔を向けると、ずるずると私に引きづられているグリーがいた。かなり絵面がひどい。


 ……そういえば、ボーとしているグリーを引きずったままだった。いけない、忘れてた、忘れてた。てへっ。

 ごめんごめん、と言いながら、私はグリーから手を離し、引きずるのをやめた。


「忘れてたのかよ」

「だって、グリー、死んでるみたいだったし」

「そりゃあ、まあ、そうだけどさ。もっと丁寧に扱えよ。一応、あたしは一国のお姫様だぞ?」


 こんな荒っぽいお姫様に言われてもなぁ。納得する要素が一つもない。

 見た目だけは、お姫様っぽいけども、中身が台無しにしまくっている。


 お姫様詐欺だぞ、これは。


「今のグリーは、到底お姫様に見えない」


 ずばっと遠慮なく言い切ると、ファースとレノが笑いだした。


「皆して、酷いなぁ。こんなお姫様がいてもいいだろっ!」


 ぶつぶつと文句を言うグリー。


「いてもいいんだけどさ。まあ、グリーの場合はあれだしね……」


 最初からその人格じゃ、ないからね。最初は上品で、いかにもお姫様だったもん。

 なのに今じゃ、これ。疑いたくなるのも無理はないでしょ。


 最初からこの人格だったら、私だってこんなに驚かなかった。荒っぽいお姫様がいたって、傲慢なお姫様がいたって、不思議じゃない。


 だけど、最初に上品なザ・お姫様のグリゼル・マスグレイブを見てしまったので、ギャップについていけない。それだけだ。


「しょうがないだろ、あっちはいい子なんだから」


 意味深な物言いに、私は、


「え、上品なグリーの時、がさつなグリーの意識もあるの?」


 と、質問をする。

 深く踏み込み過ぎたかなぁ?、とちょっと思う。でも、後悔はしてないし、勿論、悪気もない。


「なんだよ、その人格の分け方」


 どうでもいいところをファースに突っ込まれ、レノとグリーがくすくすと笑った。


「なんか、難しく考えてるみたいだけどさ、別にあたしは二重人格なわけじゃ無いんだよ?」

「は?」


 これが二重人格じゃない……?

 じゃあ、どういうことだ……?


 元々私は頭がよろしいとは言えないので、こんがらがってしまう。


「だから、難しく考えすぎ。テンション上がると、人が違って見える時があるだろ? あたしはそれが激しいだけだ」

「ふーん……?」


 つまりは、祭りがあるとテンションあがるとか、学校と家だと喋り方が違うとかそんな感じのやつなの? それがちょっと激しいだけ? ちょっとどころじゃないと思うんだけど?

 まあ、そんな感じなの? にわかに信じがたい。


 よく分からないけど、二重人格じゃ無いんだね。もう、二重人格って言って、いい気がするけどなぁ。


「だから、上品なあたしも、がさつなあたしも、ひっくるめて、“グリゼル・マスグレイブ”って1人の人間なわけ。分かった?」

「まあ、なんとなく。つまり頑張れば、今の状態でも上品になれるってわけ?」

「まあ、頑張ればな。ものすごく頑張れな」


 ……結局はできないってことか。まあ、人格がどっちだろうが、私はどっちでもいいんだ。

 大事なのは、


「じゃあ、わけね?」


 記憶の保持の問題だ。記憶が引き継がれていないと、色々と面倒事が発生する。

 一から説明しないといけない、という面倒事だ。


「ああ、それは勿論」


 グリー本人がそういうので、大丈夫なんだろう。

 記憶があるなら、私的に大した問題はないのだ。人格が変わるのは驚くけど、それだけだ。


「なら、いいけど。じゃ、グリーの調子も戻った事だし、行こう」

「応! エイリーに負けないように頑張るぜ!」


 グリーは張り切って、言うけど、まだ慣れないなぁ。


 でも、そんな裏表ない笑顔で笑うグリーも悪くないかな、なんても思えてきた。

 お姫様ってことを無視して、ひとりの人間として付き合うとしたら、割と好きなタイプの性格だ。

 あくまで、お姫様ってことを無視すればだけど!

 上品な性格も隠し持っているってことを無視すればだけど!


 でもまあ、こういうのは嫌いじゃない。

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