18 自己紹介?
変なことを考える私。途惑う彼ら。
その後、空気を探るように、一言二言交わすと、グリゼルが、自己紹介を始めた。
「わたくし、グリーと申します。駆け出しの冒険者でして、分からないことが多いのです」
と、そう名乗った。当然のように、偽名だった。ステータスの細工していたときと同じやつだ。
まあ、普通そうだろう。王族がこんなところにいたとバレたら大問題だし。そうじゃなくても、お忍び感半端ないし。
「グリーの兄のファースだ」
「ファース達の友人のレノだ」
と、グリゼル–––––––––長いからグリーと呼ぶことにしよう、に続いて、彼らも偽名を名乗った。
しれっと嘘をつけちゃうあたり、恐ろしい……!
私も一瞬偽名を名乗るかなぁ。偽名合戦、面白そうじゃん?
なんて考えたが、すぐにバレるだろうから、やめることにした。今、色々と派手にやっちゃったし。
そもそも“エイリー”という名前自体が、偽名?ぽい何かなので、偽名に偽名を重ねるなんて、面白くもなんともない。
ややこしいし、一周回って本名を名乗った方が早いでしょ。
だから、私は彼らに少し嫌な思いをさせるために、ちゃんとした名前を名乗ることにした。
ちょっとは反省しろ!
「私は、エイリー。踊る
私が名乗った途端、聡明な彼らの目に焦りが見えた。気まずさ、と言い換えてもいいかもしれない。
ちょっとした嫌がらせは成功したようだ。うひひひ。
『踊る
だって、徐々に他国にも広まってるらしいし。国を統べる者たちが知らないわけない。
そんな私に、細工–––––––偽名なんて、通用しないことは、彼らに分からないはずがない。
ぎゃふんと言わせられたかな? ふふふ。
そういう、いたずらが成功した子供のような気持ちで、私は彼らを見ていた。
ちょっと楽しい。
「本物なの、か?」
しどろもどろにセーファース王子––––––––ファースは聞いてくる。
焦ってる、焦ってる。
「当たり前でしょ。誰が好き好んで、踊る
私の偽物が存在するなら、ぶっ倒してやろう。偽物をやるなんていい度胸してるじゃないか!
そんな、ぴりぴりした雰囲気を感じとったのだろう。
「兄が無礼をはたらいてしまい、申し訳ありませんっ!」
その雰囲気に耐えられなくなったのか、グリーは物凄い勢いで頭を下げた。この子本当に王族か、と私が引くくらいの勢いだった。
ちょっと面白くなっちゃったのは、きっと私の気のせいだろう。だって、今、シリアスな感じだし。笑って空気ぶち壊したら、変な目で見られちゃうし。
面白いと感じたのは気のせい、気のせいなんだっ、と自分に言い聞かせる。
「何に対して謝ってるの? 私を疑ったこと? それとも……偽名を名乗ったこと?」
わぁ、これだけ見てるとなんか私、悪役令嬢みたい。今の格好で、令嬢かどうかは知らないけど! でも本物だし! 正真正銘の悪役令嬢だし!
明らかに、あちらに非があるのだから、問い詰められても仕方ないよね。まだまだ優しい方でしょ、こんなの。
私の問いに答えようとしたグリーを、兄のファースが止め、代わりに口を開いた。
「両方だ。すまなかった」
深々と丁寧に、ファースは頭を下げた。
おいおいおい、こいつら本当に王族か?! 謝るのうますぎるでしょ! 簡単に頭下げるなよっ! 私の反応の仕方が困るんだけど?!
「別にいいけどね。どっちも、仕方ないのはわかってるし」
わかってるだけだけどね。納得はしていない。そんなもんだろう。
「ありがとう。
では改めて。俺の本当の名前は、まあ、知っているかもしれないが、セーファース・マスグレイブと言う」
と、彼は本当の名前を名乗った。そして続けて、グリーとレノを手でさして、彼らの紹介を始めた。
「こっちが俺の妹のグリゼル・マスグレイブ、こっちが騎士団の団長のレノックス・ボルジャーだ」
それに伴い、グリゼルとレノックスはよろしくと、今度は軽く頭を下げた。こっちのお辞儀も上手!
「……ああ! マスグレイブってどこかで聞いたことある家名だと思ったら、アイオーンの王族の家名だったのか! そっかぁ、王族なんだ」
彼らのことをからかい足りなかったので、わざとらしく言ってみる。
気づいているのにタメ語を直さない、と言う2つの嫌味がセット、完璧だ。
今日は嫌味に冴えているなぁ。そんな日なくていいだろ!、と言うツッコミは置いておくとしよう。
王族にこんな態度を取れるなんて、滅多にないんだから。
…………あれ、でもこれ、不敬罪みたいなのになっちゃうんじゃない?
あからさまに嫌な顔をされ、「不敬罪だなんだかんだー!」って言われたらおしまいだ。彼らはこんなんでも王族とその護衛(しかも騎士団長という権力者)なのだ。
やべえとばった私は、すかさず幻想魔法を使えるように心の準備をしていた。
やっぱり、ほんのちょっとはやりすぎた気はしているのだ。本当にちょっとだけどね!
だけど、現実はどうだろう。
彼ら3人は一斉に笑い出した。
–––––––––––爆笑を始めたのだ。
流石の私もこれにはぽかんと、呆気にとられるしかなかった。
最後に一本取られてしまうのであった。
これが、エイリーの特徴だ。解せぬ。
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